00話(後) 兵器
とある研究員の手記より
産業革命が起こったのが18世紀中ごろ
そこから人類はこの星、地球を開発し続ける。
そしてそれは同時に自分たちの首を絞めることでもあった。
環境は急速に悪化し、人類は衰退の一歩を辿り始める。
しかし生物の大きな特徴とは何だろうか?
そう、進化することである。
人類は自分たちの無意識下で進化していたのだ。
特殊な因子を体内に持つ人間が現れるようになったのが
丁度、このころ頃あたりからである。
私たちはついに禁断の領域に足を踏み入れた。
世界で初めて因子投与による人間の兵器化に着手したのだ。
遺伝子組み換えが神の領域と称されているが
これはそのさらに先を行く
何があっても、どんな残酷な結果が待ち構えていても
私たちはやり遂げる。
全ては・・・のために。
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目が覚める。
自分の体にはよく分からないケーブルに繋がれ
大きなカプセルの中に入れられている。
自分の周りを赤色の液体が満たし、
口には人工呼吸器のようなものがはめられている。
(息ができるのもこれのお陰か。)
窓越しに研究員か?白衣を着た人間たちがこっちを見ている。
何やらデータをとっているようだ。せわしなく動き回っている。
そうやって、色々と観察を行っているうちに室内のスピーカーから中年の男の声が流れ出た。
「ごきげんよう。体の調子はどうかね?
君は名誉なことに、このプロジェクトの被検体となった。
哀れな箱庭の子供だ。運命から目をそむけさえしなければ...」
そのアナウンスが終わると同時に白衣の人間たちは、一層せわしなく動き始める
奴らがスイッチを入れる。体に激痛が走った。何度も何度も。
また違うスイッチを押す。
今度は電気が流れたように体が痺れる、息ができない。
何なんだ、何なんだよ、これは...
音を切り忘れたのか、薄れゆく意識の中でかすかに奴らの声が聞こえる。
「もう少し、強い刺激を与えてみてはどうでしょう?
そうすれば宿主の生体の保護のため因子が発現するかもしれません。」
宿主、因子?
そんな意味の分からないような会話を聞きながら、そろそろ意識を保てそうにないなんてことを考えていた矢先、俺が見せられたものは衝撃どころではなかった。
モニターで見せられる自分の母の映像
それは見るのに正気を保てるものではなかった。
弟と共に家から飛び出したあの時、
よく分からない奴らに襲われたあの時、
自分たちは大丈夫と、そう言った母が
今その映像の中で鎖に繋がれていた。
「んぅ、んぅぅぅ。」
言葉を発しようにも口が何かに塞がれているのか
くぐもった声しか出ない。
どこのどいつかも分からない奴の声がする。
「どうだい、君はこれを見て何を思う、何を感じる?
さぁ、君の心の内を存分に見せてくれたまえ。」
「因子濃度、大幅に上昇。脳波に異常なし、因子に支配されることなく自我を保っています。
臨界点突破しました。拘束器具及び配線が耐えられなくなります。」
自分が自分でなくなってしまうような、そんな気がした。
光がさらに強くなる、そして室内は光に満たされた。
その日より、地図から1つの町の名前が消えることになる。