17話 cis奪還作戦開幕
本部に通じるどの場所も機能していない、
紫藤は慌てていた、その横で柑子は落ち着いて腕を組んでいる。
何度僕が番号を押しても反応しない
「だぁぁー、動かないぃー!!」
僕が何度もパネルに頭をぶつける横で柑子君は
「一度やって無理だったことを何度やっても結果は変わらんだろ。」
とあきれたご様子。
何か本部に連絡をとる方法、
もしくは直接本部に向かう方法はないものか
三人寄れば文殊の知恵とは言うものの
現状2人しかいない状況では話にならない。
2人して頭を抱えていると
ロミとジュリが帰ってきた。
周囲の見回りをしてきたみたい、
どうやら本部に繋がる経路全て機能していなかったようだ。
とてとてとジュリが僕の方に駆け寄ってくる。
前までは警戒心全開だったのに一気に打ち解けてくれた。
年頃の女の子らしい表情も見せてくれようにもなった。
僕を見上げて彼女は
「あのねあのね、私ね、本部に行く方法知ってるの。」
なんてびっくりなことを言った。
ロミも初耳だったようで驚いた顔をしている。
言うには
先ほど、ロミと周囲の見回りを行っていた際に
ジュリ独自に作った経路が正常に作動するか確認していたらしい。
その結果、正常に作動することが分かり
他の経路は使えないとわかったため
こうして帰っていたというわけだった。
そしてその経路というのは東都電車中央地区駅。
赤嶺さんと氷室さんにも連絡を行い、現地で合流することになった。
狂信の因子がばらまかれたことで都市機能は停止、
史上最大規模の因子によるパンデミックであると共に
災害と呼ばれても差し支えないほどのテロであった。
駅に着くまでの道すがら、荒廃した街並みが
いやでも目に飛び込んでくる。
人々が作り上げてきた営みがこうも簡単になくなってしまう。
因子の恐ろしさを改めて感じた。
因子さえなくなってしまえば、こんなことにはならないのだろうか。
僕の頭にふと疑問がよぎる、
しかし人間は因子がなくとも
これまでの数多の大戦で互いにいがみ合い、殺し合うことを是としてきた。
その対象が因子持ちの人間になっただけで
本質は変わっていないのかもしれない。
駅はすぐそこだった。
駅前には赤嶺さんと氷室さんが既に到着している。
この2人のいたところからはかなり遠かったはずなんだが、
かなり早いな、この人たち。
ロミとジュリの2人を見るなり赤嶺さんは
「お前ら、随分と顔つきが変わったなぁ!!なんかあったのか?」
とものすごく大きな声で聞いた。
ロミはえぇ、まぁと
ジュリはう、うんと返すと
そうかそうかと言って赤嶺さんは2人の頭を撫でまわす。
そうされている間はロミとジュリの2人も年相応の顔つきになる。
2人をなでながら赤嶺さんは僕たちに現状を伝えてくれる。
2人がここまで空地のどの経路もシャットアウトしており
本部との通信も行えない、
僕たちと全く同じ情報だった。
ジュリはパソコンを起動、経路までの入り口に向かって歩き始めた。
普通に階段を下りてホームまで向かう、
ホームにある非常扉の1つの前に彼女が立った。
タイルを特定の順番でタッチすると壁の一部が割れてパネルが現れる。
そのパネルに彼女が手をかざすと
生体認証が行われ、ロックが解除される。
非常扉が開いた。
その非常扉は地下に向かって伸びており
終わりが見えない。
「開いたよ。」
そう言って彼女は足を進める。
どうやら個々の操作権限がcisではなく彼女本人にあったため起動したとのこと。
中にはところどころに明かりが灯っており、
道はきれいに舗装されている。
本部が地下に存在するというのは分かってはいたが
具体的に何処かは分からない、
射出機の経路が出る位置ごとに複雑に変化しているからだ。
彼女は本部のデータベースにアクセスするもその情報はなかった
何しろこの組織の機密事項だ、
そんな場所に保存されているはずもない。
そこで彼女が目をつけたのはcisの中枢、
管制室とは独立したAIだった。
彼女の読みは的中、
するもやはり中枢のセキュリティは固く情報を得ることはできなかった。
次に彼女が考えたのは射出機の出口の分布、
射出機の位置をと図にプロットするとある点を中心に
同心円状に分布していることが判明した。
そこから見事に本部の相対的な位置を特定して
独自に経路を作り上げたのだった。
ジュリは先頭で得意げに胸を張っているs
しかしジュリの腕力ではどうにもこんな通路が作れるようには思えない。
そのことをジュリに聞くと仲間に一緒に掘ってもらったらしい、
でもこんな立派なもの作れるような暇な人は
cisにいるのだろうか?
そんな僕の疑問は途端に霧散することになる。
通路の向こうから、何か重い音がする。
ジュリ以外の全員の顔に緊張が走った。
そんな僕たちの様子を知ってか知らずか彼女はずんずん進む。
恐る恐るついていく年上5人、
どっちが年長なのか分からない。
進むごとに重い音はどんどん近くなり、
ついにその正体が目の前に姿を現す。
それはロボットだった。
犬の形をしたロボット、
それこそがこの通路に響いていた重い音の正体だったのだ。
一気に力が抜けた気がする。
ジュリは最初から分かっていたようで、
その犬に何事か話しかけている。
彼女曰く、
このような見回り兼偵察のためのロボットがこの通路の
色々な場所に配備されているらしく、
その操作権限も彼女に帰属する。
さっきは本部の様子を聞いていたようだ。
ロボットは互いに無線で連絡し、
本部付近を巡回していた個体から情報が渡ってくる。
その情報は僕たちに衝撃を与えるには十分すぎるものだった。
破壊された隔壁、荒らされた通路
誰が見ても間違いなく何かあったと分かる画像だった。
つづいてジュリが犬型ロボと連携して
本部の監視カメラにアクセスすると管制室が銃を持った人間に制圧されている。
よく見るとそれは機動局の人間だった。
何でこいつらがここに?
意味が分からない。
cis本部は場所はおろか、存在すらも認知されていないのに
どうやって特定したというのだろうか。
そんなことを後回しにして考えても常駐している人間がいるはず...
その人たちがいたにもかかわらず、
管制室まで突破されているのはおかしい。
機動局であれば常駐する人たちだけでも十分対応できるものを
と考えているときに通信が入ってくる。
それは小野道さんからだった。
「もしもし紫藤君、大変なの。
機動局がね進行してきてね、香澄ちゃんが開発室を隔離してくれたから
今は何とか大丈夫なんだけど...
って今はこんな話してる暇じゃないや、
これ見て。」
そうしていったん通信が切れた後
とあるデータが送られてきた。
「これね機動局と一緒にいた人から検出された因子反応なんだけど
どの型とも一致しなかったの。
でもね、これ見て。」
と言って送られてきたのは1枚の画像データ。
そこには機動局を後ろにした人間が地面に手をついている様子が写っていた、
しかし僕たちを戦慄させたのはそこではない
その人物が手をついた周囲には紫の模様が
一面に浮かび上がっていた。
この様子から考えてさっき送られてきたデータはこの人物のもの
そしてこの人物の因子は紫ということになる。
覇者、狂信に続く第3の紫、
未だ存在が分かっていないのが暴虐、厄災、虚無の3つだから
このうちの誰かには違いない。
小野道さんは、
どうしてもこの画像だけはぼんやりしてるんだよねぇと言いながら
通信を切った。
これ以上通信を続けて、傍受される可能性を防ぐためとのこと。
とはいえこの短時間にかなりの量の情報が入手できた。
そろそろ本部に到着するようだ、
最後の扉のロックが解除される。
出たのはcis本部であることは分かるものの見たことのないような場所だった。
「ここは...」
僕がふと口に出すと氷室さんが答えてくれた。
「ここはcis最深部にしてcisの中枢であるAIの活動領域内ですね。
確かにここなら機動局もいないと思います。」
するとここは安全地帯、いったん一息つける場所なのか
そう思っていると柑子君がいきなり宙に浮かぶ。
彼が因子を使う=それなりの理由がある
「油断するなっ、来るぞ。」
彼が叫んだ後、向こうから機械の駆動音が聞こえてくる
音がした方から走ってきたのは、車輪で駆動しているロボット。
刹那、氷室さんが前に飛び出す。
口元に手を当てて、ふぅと細く息を吐いた。
すると、辺り一面の空気の温度が下がり
地面が凍り付くと同時にロボットを巻き込んで巨大な氷が形成される。
一瞬の出来事だった、
まるで演舞を見ているかのように
その美しさに見とれてしまった。
それにしても
一気に制圧した、この数を...
僕や浮かび上がった柑子君が唖然としていると
赤嶺さんが豪快に笑う。
「ガハハハハ、
さすがだな青、お前じゃあ因子漬けになった一般人の制圧なんて暇潰しにもならんと思ってたぜ。
さては鬱憤溜まってたんだろ?」
同じエージェントとは思えない、まるで格が違う。
加えて任された1つの管轄の制圧が暇つぶしにもならないほどの強さ、
これがエージェント...
「まだ来ます、ここは私が。
戦力は割くべき場所に割きなさい、今回はあなたの問題でしょう。
しっかりしなさい、エージェント・バスター!!」
氷室さんのその声に僕は、はっとする。
管制室さえ取り戻せば、ある程度の態勢の立て直しはできるはずだ。
目的は管制室、そこには恐らくあの人物もいるのだろう。
彼が僕の知らない人物であったとしても、
僕には執行しなければいけない。
その因子を消さなければいけない
ましてや、万が一知っている人物であったとしても情を持ってしまってはいけない。
その結果、
人々の生活が脅かされる可能性があるというのなら僕のやるべきことは決まっている。
上に進むごとに不穏な雰囲気が濃くなってくる。
やっとのことでエレベーターの止まる階に到着した
ここはまだ進行されていない。
しかし大丈夫なのだろうか、
エレベーターに乗ってしまえば降りる際に
襲撃される可能性が否めなくなる。
が、赤嶺さん曰く
このエレベーターならば大丈夫とのこと。
半ば疑いながら待っているとチーンと到着を表す音が響いた、
エレベーターが開く。
「cis東都本部、地下20階にございます。」
開いた扉の内側から聞こえたのは凛とした声だった。
中には女性が1人、
そしてエレベーター内部はたくさんの血痕が付着している。
その凄惨な光景と涼しい顔をした女性
そのコントラストに僕は呆気にとられる。
赤嶺さんはそんな僕の横を慣れた様子で通り過ぎた。
「よぉ、これまた派手にやったなぁ!!」
そんな感じで馴れ馴れしくその女性に話しかけている
そう言われたその女性は女性で
「本日もお疲れ様です、ラヴァ。
少々問題が発生しましたので、僭越ながらわたくしが対処したまでのことでございます。」
なんて平然とした顔で返している。
ぽかんとした僕たちを見て赤嶺さんは
何かに気づいたような顔をして
「あぁ、そうか。お前らはこいつのこと知らないよな。
紹介しよう、こいつは菊科麗。
cisの中でも指折りの実力者だ、俺でも勝てるか分からん。
しかも因子使わずにだからな、心底恐ろしいやつだよ。」
と教えてくれる。
何かものすごく大切なことが聞こえたような気がするのだが...
ってこの人が赤嶺さんより強い?
こんなきれいで華奢な人が...
この組織の恐ろしさが今になって再度認識させられた気がする。
乗られますか?と表情一つ変えずに菊科さんが言う。
急いで僕は、の、乗りますと言って急いで乗り込んだ。
上昇するエレベーターの中では菊科さんは一切喋らない、
赤嶺さんがひたすら菊科さんに話すも一方通行となり
会話になっていない。
現在の階を表す数字が徐々に小さくなってきた。
そろそろ管制室のある階に到着する、
「動かないでください。」
その時、菊科さんが手で僕たちを制止する。
何が起こったのか分からない、
まだエレベーターの中であるから危険もない。
しかし彼女は何かを感じたのだろう。
その手を下ろすことはなかった。
いつでも動けるように僕も柑子君も体に因子を巡らせておく。
それを見た赤嶺さんが笑いながら僕たちの肩を叩いて言う。
「お前らが戦う心配はないぞ、だがそのままにしておけ。
そして一番大事なことだ、絶対にエレベーターから出るな。」
そして件の階に到達して扉が開く。
そこには銃口をこちらに向け、盾を構える機動局。
機動局はこちらの存在を視認するや否や
一斉に発砲した。
こんなにたくさんの銃弾、
いくら菊科さんが強いと聞いていても体が動いてしまった。
その僕の肩を赤嶺さんが抑え込む。
「大丈夫だ、よく見ろ。」
そう言われてみた先、機動局3人の発砲に対して
彼女が持っていたのはチェーンソー、
銃弾を彼女は一振りで真っ二つに叩き切った。
そして切られた銃弾はその場にポトリと落ちた。
あの一瞬で銃弾を?
信じられない。
「わたくしがいる限り、このエレベーター内は不可侵でございます。」
凛とした声が響く。
不意打ちのつもりだったのか
焦った様子の機動局3人は銃を乱射し始める。
が、不意打ちだったのは彼女にとっても同じ、
来ると分かっていればなんてことはないとも言いたげに
涼しげな顔を崩さず全て叩き切る。
「もう終わりですか?それではご注意ください。」
そう言って彼女は一気に距離を詰め、盾ごと3人を真っ二つにした。
「お怪我はありませんか?」
相変わらず菊科さんは全員の無事を確認した後
それではと言ってエレベーターに入って、行ってしまった。
赤嶺さんが言うには
菊科さん、あの人はとんでもない強さを誇るものの
エレベーターからは基本出ないそうだ。
さっきもエレベーターから出たところは赤嶺さんでも初めて見たとか。
cisに常駐する人の2本指のうちの1人らしい。
ちなみにもう1人は総長と呼ばれていたあの刀を持ったバイオレンス爺さんだそうだ。
管制室までの道のりは驚くほど静まり返っている。
過度から管制室の方を伺うと、
機動局の人間が見回りを行っていた。
ここで役割を確認しておく。
管制室の奪還は僕と柑子君で行う、
殺すことがないように細心の注意を払うよう彼に何回も言っておく。
赤嶺さんとロミには主に死角を埋めてもらうように
サポートに回ってもらう。
最後にジュリだが危険なためエレベーターの中に置いてきた。
菊科さんに彼女のことを頼んであるから
ジュリについては安心してもいいと思う。
「それでは奪還作戦、開始します。」
僕の声と共に全員が動き始める。
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管制室の奪還作戦が開始された時、
紫藤をその背後から見つめる者が1人。
「始まりましたね、楽しませてくださいよ。」
その人物は楽しそうに言う。
しかしその声には誰も気づくことはなかった。