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人外兵器の運命録《ディスティニー・アーカイブ》  作者: かつをぶし
東都混沌編
18/35

16話 襲撃

東都中央地区全域から検出されていた因子反応も

そのほとんどがcisによって消えていった。

本部の管制室のモニターに表示される反応も時間を追うごとに少なくなってきていた。

管制室は先ほどまでの緊迫した雰囲気が少しずつ緩み始めていた。


この後起こることも知らずに...


************************


時間を少し巻き戻し、バレットが狂種を鎮圧したころまで話を戻そう。

彼が鎮圧した狂種は一般人が元となっていないもの、

ではなぜ、このタイミングで全く関係のない狂種が現れたのか?


普段の彼であれば冷静に考えることができたのだろうが

その時は場合が場合だった。


日本の中枢の1つ、東都。

その中でも最も中枢的な役割の大きい中央地区、

そこに因子を用いたいわば無差別テロのようなものが発生したのだ。


因子の関係すること、

そして一般人に被害が出る可能性のあること

この2つがそろった時点でcisが動くのは当然になる。


そしてそのテロの範囲、中央地区全体。

これだけ広域になれば

相当数の人員を投入する

もしくはそれなりの精鋭を投入する。


今回の場合、cisは精鋭をもって鎮圧することを選んだ。

確かにその方が鎮圧は早く済むであろうし、

連絡をすることも簡単だ。

しかしそれは同時に何を意味することになるだろうか?


それは同時に本部の戦力が手薄になることを意味する。


あまりに巧妙な罠だった、

誘導に誘導を重ね、相手を錯乱する。

そして徐々に規模を大きくしていく

同時に重要度も増していく

同時に危険性も、一般人への被害の可能性も


大きくなっていく


それだけに目をとられ、考えることをしなくなる瞬間が

いつかは必ず訪れる。


するとそのとき目の前のことに一心不乱になり

あたかも目の前のことが全てであるかのように考えてしまうのだ。


そう無意識で信じてしまう、これ以上のことは起こらない。

何の根拠もないはずなのに


そう信じてしまうのだ、

まるで狂ったかのように...


柑子翔は狂種を鎮圧した後、前々から言われていたことをするのを

忘れていたことに今更気づく。

サンプルが欲しいと開発室から言われていたことを

今になって思い出した。

とりあえず本部に通信を行おうとする。


が、反応がない。

管制官が応答できないのなら自動音声が応答するはずだが

それもない。


少しするとロミが歩いてきた。

顔色が少し悪いような気がする、

おい、どうしたと声をかけても

どうにもよさげな答えは返ってこなかった。


さっきまでは食いかかってきたのに

向こうに行ったときに何あったのだろうか?


聞いてもこれは無駄だろう、

恐らくだが何か考えることがあったに違いない。

その時間を邪魔するのは野暮というものだろう。


紫藤に連絡を入れる、

出ない...出ない...出た、ロミの妹だった。

お前かよっ!!

紫藤がいるか聞くとすぐに繋げられた。

「こっちは終わった、そっちはどうだ?」

<<うん、こっちもあらかた終わったよ。

赤と青の方も終わったってさ。>>


赤?青?

あぁ、俺達が行くときにゲートのところにいた大人2人のことか

狂種がいた旨は伝えなかった、

サンプルの有無を聞かれて話がややこしくなると思ったからだ。

どのみち遭遇したことはいずれバレるはずだ、

はぁ、あの口うるさい管制官にまた小言を言われる。


これからのことを聞くと紫藤は本部の方に通信を行ったようだ、

しかし俺の時と同じく応答がないと聞く


管制官はおろか、自動音声まで反応しないとなると

もしかするとcis本部で何かが起こっているのかもしれない。

それこそ通信に応答できないほどにイレギュラーな何かが...


紫藤も同じことを考えたようだ、

奴も今から本部に戻ると通信をよこしてきた。


「行くぞ、ロミ。」

ロミに声をかける。

先ほどまでの様子からは一変して元通りになった様子のロミは

えぇと言って後を追う。


地下にある本部にまで通じる場所はいくつか存在する。

この町に存在する電話ボックスもその一つだ。

間違えて一般人が本部を訪れてしまうことがないように

それぞれの持つIDカードを照合したうえでパスワードを打つ必要がある。

そしてそのパスワードも月単位で更新されていく。


パスワードを入力した、

しかし一向に反応がない。

本来であれば四方のガラスが不透明になり

中身ごと下に向かってうごくはずだが...


俺の中で焦燥感がむくむくと大きくなってくる。

このシステムは本部中枢のAIによって制御されている、

つまり管制室とは独立しているのだ。

そのため、管制室が機能停止したとしても最低限のことは行えるはずである。


そしてこのボックスがはたらかないとなると

cisの中枢が機能停止したということに等しい。

組織の中枢がそんな簡単に機能停止するはずがない、

中枢にはその重要さ相応の警備がなされているはず、

そのうえで機能停止が起きたとすると

その要因は何か?


結論は1つしかない、

東都タワーと一緒だ

また嵌められた...


事の規模を大きくしたうえでの陽動作戦、

全ては自分たちの戦力を削ることなく本部に残る戦力を削るため。

これは先の東都タワーの一件とやり口が同じ、

あの東都タワーから放たれた因子...


“狂信”


紫藤にすぐに連絡を入れる。

奴の方もシステムが起動していないそうだ、

幸い、武具に関しては全てセーフティが解除された状態を保っている。

ひとまずは紫藤と合流することを目的として

俺は曇天の中を翔けだした。


************************


花本香澄は目を覚ます、

自分たちがいる管制室だろうか、

多くの管制官が拘束されている。


周囲には銃を持った人間が多数、

その中に1人が彼女が目を覚ましたことに気づく。

はっとして銃を向ける、

彼女は反射的に目をつぶってしまう。


が、いつまで経っても銃声はしなかった。

恐る恐る目を開けると銃を持った人間は

よく分からない誰かに静止されていることに気づく。


その人物はそこにはいるものの、まるで霞がかかったかのようにぼやけて見える。

最初は寝起き特有の目のピントが合わない云々かとも思われたが

違った、


何度目をまばたきしても見え方は変わらない。

やはり霞がかかったかのようにぼやけている。


その人物は私に銃口を向けた人間に静かに告げる。

「僕たちの目的は殺しではありません、

ここ全体、ひいてはここ全体に存在する全員の命を交渉材料とします。

もし殺すとなれば交渉決裂後、奴らを皆殺しにしてからですね。」

静かな声だ、その声に従い銃が下ろされる。


その正体不明の人物は私の方にしゃがみこんで目を合わせる。

こんな窮屈な真似させてすみません、あと少しの辛抱ですからね。

またもやこんなことを静かな声で言う。


この人物の目的が一向につかめない、

それどころかいつの間にこんなことになったのか?

彼女は思い出せるところまでを思い返し始めた。


確か中央地区の因子反応が徐々に消え始めたころだった

それ時はいきなり訪れた、

突如、作動した緊急警報

隔壁が次々に降りていく。

そしてそれも虚しく、破壊される隔壁の音。


隔壁のその向こう、煙が上がっている中から聞こえたのは

軍隊を彷彿とさせる重い足音だった、

それを管制官たちは監視カメラから目撃する。


機動局!?


なぜ機動局がここにいるのか

それは誰にも分からない、そして機動局は誰かを護衛するかのように歩いている。


それを視認した管制官たちの行動は早かった。


第一に非常隔壁の展開

この組織には非常時にため壁の中に隠された隔壁が

通常使われるものに加えて存在している。

そしてそれらは臂臑時に管制官の判断のみで使用される。

各管制官が破壊された隔壁の先にある

非常隔壁を作動させた。


非常隔壁が作動、

管制室までに残された隔壁の強度を増すようにして

非常隔壁が何重にも下ろされた。


そしてその次に各施設の隔絶

開発室の存在を秘匿するため、隔絶し、

隔離施設と同等の深度まで下降させた。

これでひとまず技術の漏洩の心配は無くなった。


この組織は存在が秘匿されているだけあって

その防御性能の裏には国家機密レベルの技術が使用されている。

その性能はこれまでこのような襲撃がなかったにしろ

因子を用いた攻撃を想定されたものであるため

それなりの強度があった。


しかしここで想定されていたのは

通常の因子を持つ者の襲撃の可能性、


それよりもはるかに強大な力を持つ因子の可能背は考慮されていなかった。

そもそもそのような因子の存在が当時は定かではなかったのだ。


機動局側ももちろん異変には気づく、

というよりも気づかされたと言った方が正しいのかもしれない。

機動局の中央にいた人物が

機動局において全権を任されている人物に告げた。

「この先にいくつも隔壁が下りていますね。

あなた方ではどうにもならない、どうしましょうか?」


そう言ってその人物は機動局の人間に話しかける。

機動局は一旦、逡巡したような様子を見せた後

その人物に何か話しかけた。


話しかけられた人物は

うんうんと頷いた後、にっこりと笑ったように見えた。

というのもさっきからこの人物、

まるで霞がかかったかのようにぼやけて見える。

認識阻害だろうか?

とりあえず解像度を高くするもやはり詳しいところまでは見えない。


その人物は機動局と話した後、

ふとしゃがみ込む。

そして手をついたように見えた、

そしてその人物の周りの床に、紫が広がる。


まさか、因子保有者。

それも紫?


管制官たちの努力虚しく、

何重にも固められた隔壁がまるで元から存在しなかったかのように

まるで霧が晴れるかのように消えた。

壊されたのではない、消えたのだ。


cisの頭脳、管制室までの道に彼らを阻むものは無くなった。

いくらcisとはいえ管制官までもが高い戦闘能力を保有しているわけではない。


機動局が侵攻し、管制室は機能停止した。

管制官たちは抵抗することができず拘束される。

そして今に至った。


機動局の中心にいたこの人物、

この人物こそ今回の侵攻の中で最も危険な人物に違いない。


強化された隔壁をあの一瞬で無に帰したあれは

十中八九、因子によるものに違いない。

その因子反応もわずかではあるものの確認した。

そのデータは小野道と地上にいる紫藤に送ってある。


このような事態になったのだ、

彼女も解析が済み次第、管制室を経由せず

直接彼に送ってくれるだろう。

その点は心配ない。


地上にいるエージェント及びインフェルトたちが

通信ができない現状にもそろそろ気づくはずだ。


加えてこの正体不明の人物が

機動局を制することができ、且つ殺しが第一の目的でないことは

不幸中の幸いだった。

交渉の内容が気になるところではあるものの

今は考えてもどうしようもない。


正体不明の人物は

ちょっとコーヒー買ってくるよー、と言いながら管制室から出ようとするが

戻ってきた。

「場所分からない...」

それを聞いた機動局のうちの1人は

はぁーとため息をついた。

まるでどうするんですかとも言いたげな顔だ。


この組織にも地上と同じようなものが買える設備は存在しているものの

その数は敷地面積に対して非常に少ない。

何も知らない人物が歩き回って見つけられるものではない。


そうこうするうちに、その人物が私の方に近寄ってきた。

「あぁ安心してお嬢さん、危害を加えるつもりはないんだ。

少し案内してくれればいい、

その際の安全は僕が保証しよう。」

そう言って私の拘束を解いてしまった。


これは嬉しい誤算だ、

このまま隙を見て逃げることができれば外部との通信ができる。

「どこに行きたいんですか?」

私が聞くと、恐らく声からして男であろうと思われる彼は

自販機ってどこ?と聞いてきた。


何というか緊張感の抜けるような会話だなぁと思いながらも立ち上がる。

着いてこようとする機動局を手で制し

行きましょうかと言って彼は歩き始めた。


「あなたたちの目的は何ですか?」

私が聞いても答えない。

ふんふんふーんと鼻歌を歌いながら後ろを歩いている。

もう一度同じことを聞く、

後ろの足音が止まったと思うと静かな声で語り始めた。

「あなたはこの世界が不平等であると感じませんか?

人間は産業革命を経てこの星を汚染し続けた、

その結果として

因子を遺伝子内に持つ人間が生まれました。

しかし今はどうでしょう?」

彼は問いかけてくる


そのままさらに続けた。

「あなた方はまるで日陰者のように生きている、

同じ人間だというのに。

不平等とは思いませんか?」


なるほど彼の話は理解できた。

しかし今のままだとこの組織を襲撃した理由が分からない。

私のその様子を見て、彼は私の考えを悟ったのだろう。

彼曰く、

そんな差別をなくしたい

因子を持った人間がより自由になれるように

もっと多くの人が自由に生きれるために

そのために必要なこととは...

因子を持つ人間に対して行われてきたことの証拠を国に突きつけ、

より公正な対応を求めるというもの


「そのために力を貸していただけませんか?」

そう尋ねてきた。

確かにこの組織には因子に関する多くのデータ、

国が行ってきた非人道的な研究や開発の数々などが存在している。


そして一般人が忌み嫌う因子を使って一般人を助けるような

この組織はこの人たちからすると

敵にも見方にもなりうる

グレーで、ある意味最も危険な存在だったろう。


通常の人間であれば、情に流されてしまうのだろう。

しかし彼女は違った。

因子を持った人間は生まれながらにして疎まれることが多い。

その結果、凄惨な最期を迎えることも稀ではない。


生まれながらにしてそのような宿命を背負った人間が

自分以外の誰を信用していいのか分からないような人物が

一般人と共存しようなど考えるはずもない。

口では平等や差別をなくすと言ってはいるものの

心の底ではそんなことを微塵も考えてはいないに違いない。


因子を持って生まれた人間はそれほどまでに

歪んでしまうほど、

仮面をかぶらなければいけないほどの

残虐な一面を持つことも少なくはない。


さっき監視カメラで見たこの人物の力、

強大なものだった。

そしてこの何かを常に隠しているかのような声。

この2つからこの人物は信用に値しないと感じた。

話した以上の何かを隠しているように感じる。


「で本当のところは何が目的ですか?」

私が聞くと彼の身にまとう雰囲気が変わる。

先ほどよりもはるかに重くなった。

振り向くと、彼はうつむいている。


さすがだね...と彼はつぶやいた。

何処から分かったのかな、完璧に隠していたはずなのに?

そう言って彼はこちらを見る。

「僕たちは君たちにお願いをしに来たんだ、

この組織のいる“覇者”、

それを渡してもらおうか。

一度はこの手にあった物がなくなるのは気に食わなくてね。」

そう言う。


科学地区の崩壊から感づかれたのだろうか?

しかしそれではあまりにも不確定要素が多すぎる。

どうやって“覇者”に関する機密情報を入手したのだろうか。


「まぁ、じっくり考えててよ。

いつか向こうから来るだろうし。」

さっきまでの軽い雰囲気に戻って彼は再び歩き出す。

私は彼を目的の場所まで案内した。


彼は自販機で飲み物を買おうとお金を取り出す。

チャリンと音がしたので音のした方を見ると

硬貨が自販機の下に入ってしまったようだ。


彼は最悪―と言いながらもお金を入れて購入し

意気揚々と来た道を戻っていった。


その時に彼が言った

「同じもの同士は引かれ合う運命なんだよ」

の意味をその時の私が理解できていれば

もしかするとあのようなことは起きなかったのかもしれない。


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