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人外兵器の運命録《ディスティニー・アーカイブ》  作者: かつをぶし
東都混沌編
13/35

11話 歪つな絆

爆破予告による封鎖だろうか

中に人はいないように見える。


同行してきた女の子の方が鞄からパソコンを出していじり始めた。

どうやらこの二人は兄妹らしい。

「妹は昔から情報系に強いんです、いちいち本部に通信しなくても

こちらから必要な情報にアクセスできます。」

兄の方が教えてくれた。

妹の方はずっとカタカタやっている。


自己紹介が遅れましたと言って兄が話し始める。

彼によると兄の方はロミ、妹はジュリというらしい。

もちろん本名ではない。


そろそろ時間も頃合いだから本格的に潜入を始めようと思う。

ロミの方も気づいたらしい。

目を閉じて静かにしてから言った。

「階段前の角の2人、

階段を上がってすぐのところに1人、

エレベーターの近くに2人、

この感じだとエレベーターは使わない方がいいでしょう。

全ての階で人間がいる可能性がある。

扉が開いてすぐに攻撃されては僕たちでも間に合わないでしょう。」


階段の3人をお願いできますか?と聞かれ

了解と答える間もなく彼は飛び出していった。


香澄さんに因子伝導体の解除を要請する。

<<バスターからの要請を確認、

因子伝導体セーフティを解除します。>>


返答と共に伝導体が変形する。

僕の求める形にそれは形を変えた。


相手は3人

彼から武装についての情報は得られなかった。

なら、わざわざ相手の間合いになる可能性のある範囲に入る理由はない。


香澄さんから因子反応の検出の連絡を受ける。

出元は階段、エレベーター付近。

彼の位置の特定が正しいのなら5人とも間違いなく因子持ちの人間だ。

さて、先陣を切って飛び出した彼はどうかな?


**************************


バスターに位置情報だけ教えて先陣切ったボクは相手の出方をうかがっている。

ここまで大掛かりに因子持った人間を動員したんだ。

何か絶対に実行したいことがある。

恐らく爆破予告、もしくはそれに準ずるものはブラフじゃあない。


それにしても相手は銃で武装している。

妹は事前に安全な場所に移しておいたから大丈夫だろうが

油断しているとボクの身が大丈夫じゃなくなる。


相手にはボクが今ここにいることはばれている。

さっきから銃弾が何回か飛んできている。

となると少し面倒なんだよなぁ

なんて思いながらボクは因子を使った。


相手がふらつき始める。

当たり前だ、三半規管やられてんだから。

この状態にできれば銃なんて打てないし、そもそも立ってもいられない。

「制圧完了っと、バスターはだいじょうぶかなぁ?」


**************************


ロミが飛び出した後、僕は任された残り3人を狙撃しようとしていた。

遠距離から不意打ちをするのが一番と考えたからだ。


思ったよりもロミがスマートに静かに事を終わらせたため

残り3人の注意が逸れることはなかったのだった。


「お兄ちゃんはいつもそう、何事もなかったみたいに要領よくやるの。」

こっちは妹、えっとジュリだったっけ。

ひたすらパソコンを打ちながらこっちも向かずに言った。


因子伝導体が柑子君のものそっくりの銃に変形し、僕は狙いを定める。

「...待って、調整する。」

ジュリが唐突に言う。


この1分1秒が命取りになる場面でこの子は何を言っているのだろう。

僕がジュリの方を向くと、彼女はしっかりとこっちを見ていた。

曰く、この因子を用いた銃では普通の銃とは勝手が異なるらしい。

ましてや、因子伝導体の変形のような因子を直接打ち出す形をとるものは

発射された因子が本人の意思の関係なく空気に干渉することも

計算に入れる必要があるとのこと。


「そこまで計算できるの?」

こてんと首をかしげて聞かれる

絶対できないこと分かってて聞いてきている。


「分かった、じゃあ頼んでもいいかな?」

「うん、任された。」

ジュリはそう言ってケーブルを変形した因子伝導体に繋ぐ。

ジュリの開くパソコンの画面が切り替わった。


「これから一時的にこの銃の中に回路を作る。

でもあなたには関係ないよ。

照準はこっちで合わせる、

あなたはできるだけ相手を固定して、流す因子の量にムラがないようにして。」

地面を介して相手の神経に侵食、動きを一時的に止めた。

「チャージ完了、殲滅型ライフルを選択します」

自動音声が流れた。


彼女の指示をもらい

準備完了の声と共に引き金を引く。


東都タワー1階のホールが紫の光に包まれた。


光が収まると、因子反応は消えている。

どうやら殲滅型ライフルを使ったことが功を奏したようだ。


後ろを見るとジュリがひっくり返っている。

目に涙をため「怖かった、こんなの聞いてない。」と一言。


ロミがあきれたような顔をして近づいてきた。

「全く、上の階にも見張りがいたらどうするつもりだったんですか?

僕たちの存在がばれるところだったじゃないですか。

一応、音はしないようにしておきましたので

ご安心を。」

そう言って、やれやれとでも言いたげなジェスチャーをしている。


ん?今、音を消したって言った?

確かに以前、柑子君が使ったものと同じ形態を選んだはずだが

以前とは違い全く音が出なかった?


不思議に思うとろみが説明してくれた。

「因子は他に干渉する、ボクの場合はその対象を緻密に操作できるだけです。

あなたの同期のバレットですか、あの人と原理は同じです。

僕の場合は彼より操作が緻密なだけですね。」

なんてことを言う。

加えて

「音というのは空気の振動です。

つまりある音の波形と全く逆の波形を作ってぶつければ

理論上、音を消せるというわけです。」


曰く、これには大きな関門が2つあるとのこと。

1つは音から波形を読み取ること

2つ目は因子の干渉作用による空気の分子単位での操作を行うこと

両方を行うことについて因子に頼ることが多いそうだが

1つ目には天性の聴覚が必要であると自分で語っていた。


さぁ、1回にもう人間はいません。行きましょう

と言ってロミは階段を上がっていく。

そくさくと進んでいくロミに待ってと言いながらジュリが駆け寄る。


因子持ちの人間がいたということは何か因子関係のことがあるに違いない。

それが何かはまだ分からないが、これで確信できた。

ここ東都タワーにてこれから何かが起ころうとしているということに。


前述の通り、エレベーターは危険だということもあり

地道に階段を上っている。

しかし、ジュリの上るペースが徐々に落ちてくる。

心配になって手でも貸そうかと考えていると

ロミがジュリの前にかがんで背中におぶった。


「ボクはジュリが背中にいますから因子を使えません。

銃撃された場合は、あなたが守ってくださいね。」

ロミは僕に向かっていった。

確かにジュリが使うのは精密機械だ。

いくらロミが精密に空気に干渉できるからといっても

銃弾を防ごうとなるとかなりの干渉度になる。

機械が壊れてしまいかねない。


自動迎撃機構を展開、ひとまずはこれで守りの方は万全。

ロミの方には索敵を頼むこととする。

彼が言うにはこのフロアにはいない。

空気の揺らぎが自分たちのもの以外に感じられないそうだ。


ジュリはロミの背中の上でパソコンをいじっている。

監視カメラをハッキングして全てのフロアの索敵を行っている。


ジュリの索敵が人間をとらえる。

「ここから展望台まで人はいないの、

でもね、展望台にかしこ全く服を着た人がいっぱいいるよ。」

ジュリが見つけたのは恐らく警察関係の人間だろう。

見つかるとまずい、こちらも時間がとられる。


後ろを歩くロミがふと歩みを止める。

どうしたの?と聞くと彼は手を顎に当てて考え事を始める。

「おかしい、さっき1階のフロアにいた因子持ちは

警察組織とは全く関係のない人間だった。持ち物探ったのでこれは確実です。

ではなぜ警察組織はあの賊がここに侵入していることを放任していたのか?

単に気づいていなかったか、それとも...」

不穏な空気が漂う、


その中でジュリが爆発物を発見した。

ジュリはこの東都タワーを崩壊させるために必要最小限な爆破に絞って

爆発物の位置を探し、見事に彼女の勘は的中。

基部部分と中層部分にそれぞれ複数あったようだ。


今から行く中層部分には警察組織、教えられたとおりだと

機動局の人間がいるのだろう。

あの人たちは僕たちと同じく戦闘のエキスパートと言われる

できるだけ鉢合わせたくない。

もしも捕まってしまえばcisの存在が世間に露呈することになる。

それだけはあってはならないと強く何度も念を押されている。


「中層の方は僕が行くから、基部の方へ向かってもらった方がいいかな?」

彼には今、ハンデがある、

その状態のまま中層、恐らくは展望台に向かうのは

あまりにリスクが大きすぎると判断した。

もしものことがあっても基部付近なら逃げることができる。


「分かりました、ボクと妹はこれから降ります。

下の方の爆発物が解除でき次第連絡を入れますので

そのおつもりで、では。」

そう言って彼は妹をおぶって降りていく。

下の人間はすべて制圧済みだからあとは

あまり脅威はないかもしれないが油断は禁物だ。


もう一度気を引き締める

彼の独り言の中の些か不穏な言葉、

警察関係の人間が賊を放任していた理由、

彼の見解に続く、それとも...の先が不安要素だが

今は考えても仕方ない、


鬼が出るか蛇が出るか、

一抹の不安を拭い去れないまま僕は歩を進めた。


彼の言いつけ通り階段を上っていけばいくほど

不信感が増していく。

人の気配を感じない。

「香澄さん、因子反応の検出をお願いします。」

香澄さんに連絡を入れて因子反応の検出を常に行ってもらう。

それに加えて監視カメラのハッキングもお願いする。

<<了解しました。それにしても厄介ですね、

やはり機動局でしたか...先日言った通りできる限り交戦は控えてください。

やむを得ない場合のみ因子伝導体を用いての戦闘を許可します。>>


そう聞こえた後、伝導体のセーフティが解除される音がした。

ずっと上り続け、そろそろ階段を見飽きるようになった頃、

展望台に到着した。


監視カメラの情報は常にこっちに表示されている。

見たところこの展望フロアには機動局の人間が10人近くいる。


あの人たちも恐らくここに何かあると嗅ぎつけたか、それとも...

僕はばれないように行動を開始する。

香澄さんにも探してもらいながら、僕の方でも探してみる。

尚且つ、こちらの存在がばれないようにしないといけないから負担が大きい。


見つけた、案外簡単に見つかった。

インカムを使って報告する。


<<爆弾に因子を流して下さい、

それでおそらくは外部からの干渉ができなくなると思います。>>

言われたとおりに因子を流す。

本来なら体組織の侵食で破壊してもいいのでは?

とも思ったのだが、即爆発する危険性があるとのこと。


おとなしく因子を流すだけにしておく

爆弾のカウントが止まった。

ふぅ、これで一安心。

これと同じことを香澄さんが見つけてくれた残りの数だけやらなくてはいけない。

僕は自身の背後から息を殺した何かが近寄ってくるのを感知できなかった。

いや、感知できないというよりも

相手の完治させない能力が上回っていた。


**************************


妹を背負ってバスターと別れる。

背中にいる妹に爆弾がどこにあるか聞いてみる。


「あのね、一階のフロアあったでしょ。

そこの何本かの柱の裏についてたの。」

「何で言わなかったんだよ。」


妹はうつむいて聞かれなかったから...と答えた。

とりあえずお説教は後だ。

下が崩れてしまえば甚大な被害が出るに違いない。

そうして意味でもボクのやることは責任重大だ。


妹から聞いた情報をもとに探す。

妹が発見したのは全部で3つ。

全て柱の裏側、普通に通路を通れば見えないようなところに仕掛けられている。

処理班にすぐに来てもらえるように頼む。

ひとまずは基部付近のものはこれで全部だろう。


背中から妹がおりて再びパソコンをいじりだす。

その直後、妹の顔が青ざめた。

「お兄ちゃん、バスターに連絡して。

この建物の一番上、ホントの一番上に何かある。

因子反応が出たの、タワーのてっぺん。」

と悲痛な叫び声をあげる。


さっきまで妹が全力で行っていた因子反応の検出にも引っかからず

今になって現れた因子反応。

このタワーでボクたちcisの人間以外が因子を使えば必ず管制室が検知する。

それすらも掻い潜ったというのか...


すぐにバスターに連絡を入れる。

ノイズが大きくて聞こえにくい、

やっと聞こえたと思えば、それはバスターの声ではなく

太い男の声だった。

<<君がcisの人間かな?

噂だけだと思ってたんだけどホントにいるんだね。

君が頼りにしているバスターは今、私の部下と交戦中だ。

何があったかは分からないが

バスターは頼りにできないよ。>>


妹を見る。

フルフルと震えていた。

妹と向かい合う、聞いてみた。

「今、バスターは恐らく機動局の人間と交戦している。

多分あの人はこうなることが分かってた。

分かってて遠ざけたんだろう、どうする?」

ボクは妹に聞く、

こうやって妹に決断する機会は昔から何回も与えてきた。

そしてその度に世間一般から見れば正しいと言われる方向に決断できるように

悪いと思いながらも誘導を行ってきた

が、妹はフルフルと首を横に振るばかり。

やっぱり怖いよな...

妹が行かないというのならば、ボクも行かない。

妹と共にいてやることがボクにできる最大のことだ。

妹はあと一歩が踏み出せない、

自己主張ができない。

昔、あんなことがあったんだ。当然と言えば当然。

あの日以降、妹はかなり内気な人間になってしまった。


ボクと妹には元々、家族がいた。

それはそれは我ながら幸せな家庭だったと思う。


しかし、そんな幸せほど些細なことで簡単に崩れ去るということを

幼いながらにして僕は知ってしまった。


あれは病院で血液検査を受けた時のことだった。

ボクも妹も生まれてすぐには血液検査は受けなかった。

しかしある日、両親の気まぐれによりいきなりそれを受けることになったのだ。

思えばそれさえなければ、あんなことにはならなかったのかもしれない。


結論から言うと、ボクと妹には因子反応が出た、

両親とも因子は発現していなかった。


因子は両親が発現しなくともその子供にて発現することは稀ではない。

しかし、その頃はまだ因子に関する理解が深くなかった。


両親はお互いが浮気をしていたのではないかと

互いに疑惑を掛け合い、日を重ねるごとに険悪な雰囲気は増していった。

そして両親は離婚、

僕たち二人のことは互いに引き取りたくなかったようだ。

最後には父が折れて、親権は父のものになったが、

その半年後、父は雲隠れし僕たちは施設行きにされた。


その半年の間にも、妹はあの頃を思って泣くことがあった。

当たり前だ、このとき妹はまだ小さかった。

いきなりこんなことになって混乱しているのだろう。

妹が泣くたびに父は暴力をふるった。


そしてそれを何度も何度も繰り返して

ついに妹はボクの前ですら話してくれなくなった。


そこからは自分たちで必死に勉強した。

ボクは元から頭が悪いわけじゃなかったし

妹は持ち前の本来の容量の良さで電子機器を使いこなすようになった。

そうしてボクたち兄妹は今、必要とされる存在になっている。

妹との今を護るためなら、妹との平穏が保証されるなら


ボクは悪魔に魂でもなんでも売ってやる。


「さよなら、バスター。」

ボクは冷淡にそう言うと処理班の人たちと入れ違いで東都タワーを出る。

妹を背におぶったボクが振り返ることはなかった。


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