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人外兵器の運命録《ディスティニー・アーカイブ》  作者: かつをぶし
東都混沌編
12/35

10話 ほんの少しの暇

俺は紫藤、

この組織cisで、同姓の紫藤の監査をしている。

あいつは俺が元々保有していた覇者の因子を継承した人間だ。

今の俺にしてやれることと言えば他の紫の因子について

あいつに教えてやれるぐらいしかない。


あいつが科学地区にてあの計画の被験者になったあの日から

紫の因子に関連する案件が増えた気がする。


これまでこの組織が血眼になって追ってきたような力だ。

裏で誰かが紫の因子を流通させようとしているか、

もしくは既に他の因子も誰かが保有しているとしたら...


どちらもありうる。

どちらにしても安全には管理されていないことは確かだ。

そうでないとcisの人間が紫の因子に簡単に手を染めるなんてことが

あるわけがない。


先の一件は、狂信の因子だった。

もっとも狡猾で直接的な対処が困難である因子だ。


これからもっと厄介なことが増えてくるだろう。

どうしたもんかねぇ。


**************************


目が覚める、柑子君が覗き込んでいた。


ん?

何かがおかしい、

起きた→僕の部屋→柑子君がいる... なぜ?


寝起きだからか頭が混乱している。

そうだ、これは夢に違いない。今度こそ目が覚めたら彼はいなくなってるだろう。

だって夢なんだから。


そう思って再び布団をかぶる。

が、すぐにその布団は引っぺがされた。


「なにを現実逃避をしている、紫藤。早く起きろ。」

...これは夢ではなかったようです。


あれよあれよという間にトレーニングウェアに着替えさせられた僕は

彼に引きずられて訓練室へ向かっていた。

彼が半壊させて僕が直させられた、あの訓練室だ。

あの時は大変だった。

香澄さん怒ってたし、あの人は怒ると有無を言わさせない何かを出してくる。

僕よりもよっぽど表向きなんじゃないのかなぁ。


訓練室に放り込まれた。

「今日は花本香澄に取り合って、俺とお前の休暇を同じにした。

さぁ、来るときに向けて訓練だ。早速始めるぞ。」

彼は屈伸しながら僕に言う。


僕が言えたことではないが、彼はこの場に慣れるのが速すぎなのでないか?

ずっと前から疑問に思っていたことだ。

自分についても同じような疑問を持つ。


しかし考えても仕方ない、気にしないことにした。


訓練室には香澄さんと小野道さんの二人が先にいた。

「今からお二方には模擬戦をしてもらいます。

これはいわゆる健康診断と似たようなものです、

それぞれのデータをとり、以前のものと比較することで

これからの任務に対するさらなる効率化を図ります。」

香澄さんが言う。

「二人とも頑張ってねぇー、私はどっちも応援してるよ。」

小野道さんが声をかけてくれる。


なるほど、こんな大義名分があれば彼は僕を合法的にボコボコにできるというわけだ。

大方、乗り気だったのが分かる。

部屋は香澄さんに聞いたのだろう。


「んじゃあ始めるぞ、紫藤。手は抜くなよ。」

そう言って彼は一瞬で消えた。

いや消えてはいない、一瞬で加速して肉眼では捉えられなくなっただけだ。


僕も一方的にやられてやるつもりなどない。

自己侵食を開始した。


彼は自分の体で揚力を生み出しているのだという

飛行機が飛べるのと同じ仕組みのあれだ。

確か前に香澄さんが言っていた。


ただそれを感覚的に操るセンス、

因子だけではできないことを自分で補っている。

それこそが彼がここに慣れるのが異常に早かった理由の一つだろう。


とはいえ考えている暇もなくなってきた。

いつもは一気に自己侵食を行うのだが、いかんせん体に負荷がかかるため

長期戦には向いていない。

因子伝導体もない今の状況なら短期戦は厳しいだろう。


体に徐々に因子がまわってくる。

やっと彼の動きが目で終えるほどにはなってきた。

それでも縦横無尽に動き回る彼を相手にするのは難しい。


とりあえず飛び回れる範囲を絞ることにした。

床に侵食、床がめくれ上がりその中から何本かの柱のようなものが伸びた。

香澄さんが頭を抱えている。


とりあえずかなり複雑な空間になったから彼の動く速度も落ちる。

そして自分の因子で侵食したものは瞬時に缶所が可能であることから

僕にぶつかることはない。


あとは足場ができたから、その足場を使って彼を探すだけ。

そして僕は彼を視界にとらえた

しかしそう簡単にはいかない、

彼は数多もの障害物をよけながらも

飛び回り且つほとんど減速していない。


こうして障害物を作ることには僕にとってメリットとデメリットがある。

メリットは足場を作り、彼と同じ目線で行動できることと彼の動きを少しは制限できること。

しかし後者はほとんど機能していない。


そしてデメリットは僕にとっての死角を生み出しかねるという点。

つまり彼がこれによってできる死角に気づくと僕はかなり不利になる。

でも彼のことだ、もうとっくに気づいているに違いない。


しばらくの間はお互いに様子見が続く。

先に仕掛けたのは彼の方だった。


やはり彼は気づいていた、障害物で生み出される死角に。

彼が動き出した後

僕も動き出そうとしたが迂闊には動かない方が得策だと思った。

僕にだって考えがある。


柑子翔は駆けまわる、いや飛び回っていた。

突如、床から柱が何本も飛び出し自分を追尾したかと思うと

途中で止まって障害物となった。


だが甘い、障害物ごときで俺はスピードは落とさない。

しばらく様子見をしていたが、そろそろ仕掛けるとしよう。

先に動いたのは俺の方だった。

これはあいつにとっても障害物であり死角になりうる。


死角に入り、一気に距離を詰める。

とりあえず前やった通りに蹴りを叩きこむ。

何度も何度も蹴りを叩きこんだ。


俺の移動速度は平均、時速200kmを超える。

その状態で攻めるんだから相手はどうにも対処できないだろう。


現にこいつもされるがままで何もできていない

大方、この条件では俺が有利だったこと、

こいつ自身が死角を作ることを軽んじていたからだろう。


「さぁ、これで最後だ。」

最後に渾身の一発をお見舞いする。

いくら持っている因子が強かろうとこれでは宝の持ち腐れだな

思考が停止する。

なんだ、

視界に映るのは天井。


数秒後、ようやく自分が紫藤から何かされたことに気が付いた。

俺は確かに奴の顎を蹴り上げたはず...


肝心の奴はバク転のような動作を空中でとっていた。

その時に俺は顎をはね上げられたことに気づいた。

こいつは自分の速度が俺に敵わないことを理解したうえで

カウンターに徹したというのか?


**************************


柑子君は障害物があってもほとんどスピードが落ちない。

僕は障害物があれば、その分移動する速度は落ちる。

彼はそのまま攻勢に出てくる。

僕では彼の速度の足元にも及ばない。


ではこの場合どうするべきか。

見てきた限り彼は蹴りを多用する癖がある。

ひとまず受けるだけ受けていい感じのところでカウンターを狙うのがいいだろう。

相手が最も油断するのは、相手に最良のチャンスが訪れた時であるというのは

昔読んだ本の受け売り。


案の定、彼はやはり死角を利用して攻めてくる。

蹴り一発目、自己侵食による再生能力の向上の応用で強化した部分で受ける。

以降全てを同じようにしてしのいだ。


「さぁ、これで最後だ。」と彼はまんざらでもなさそうに言うと

膝で僕の顎を蹴り上げた。


僕が狙っていたのはここだ。

彼のテンプレートのようなセリフから

これが彼にとっての最良のチャンスであることがうかがえる。


顎を蹴り上げられれば、もちろん体はのけぞるようにして

後方へ飛ぶのは当然であるが

この状況、以前にも経験したあれを思い出していた。


今まで受けた衝撃を筋肉に振動として蓄え、

体がのけぞる時に足に集約して足を蹴り上げる。

形で言えばバク転のような形にはなるが

カウンターを当てることに集中した。


当たる、彼はバランスを崩した。

というよりも脳震盪を起こしたかのように

ふらふらとしている。


あ、やりすぎた...

冷静になれば分かることだった。

やりすぎた...

本気でやれとは言われたけどこれはさすがに...


因子をフルに活用して蹴り上げたら

さすがに相手が因子元であってもどうなるか。


「大丈夫?意識ある?」

僕が聞いても彼は答えない。

幸い息はしている。

はぁ、ひとまずは安心。


ほっと一息つく間もなく

「何やってるんですかぁ、紫藤さん。

やりすぎですよ、やりすぎ。限度というものを知らないんですか?」

そう言ってすぐに駆け寄ってくる。

僕は一発、はたかれて、

彼は医務室に運ばれた。


幸い命に別状はなかったようだが、

大事をとって当分任務はなしになったようだ。

その日のうちに彼は意識を取り戻したらしい。

彼は開口一番に

さぁ紫藤、続きだ。といつもの仏頂面で言ったそうだから

彼のぶれなさには驚きだ。


僕は香澄さんにたっぷりと絞られた。

彼が本気でやれと言ったから本気でやったのに

これは不本意だ。


「正座、今すぐそこに居直りなさい。」

僕は今、訓練室で星座をさせられています。

目の前には少し笑ったような顔をした香澄さん、

付き合いはまだ短いがこれは僕でも分かる。

彼女は今、猛烈に怒っている。

後ろから何かオーラのようなものが見える気がする。

小野道さんは隙を見計らって逃げるように去っていった。


意識を目の前の香澄さんに戻す。

「あなたには加減というものを知っていただかなければいけません、

この部屋も滅茶苦茶にして、どういうつもりなんですか?

加減を覚えるために、この部屋を元に戻すことを課します。

完璧に元に戻すようにしてください、異論は認めません。」

そう言って彼女は僕に部屋を修復させ始める。


因子で侵食したものを消すことは簡単だが

今回の場合はそれをすると床まで消えてしまう。


地道に戻すしか方法はなかった。


後ろには彼女が腕を組んでこちらを監視している。

サボろうにもサボれない。


地獄のような時間が過ぎて

ようやく修復が終わった。

部屋は元通り、おかげで大体の加減のやり方もつかんだ気がする。


小野道さんは今回のデータで興味深いことがあったようだ。

香澄さんから逃げるようにして帰っていったのも分かる。

後日、何か新しいことが分かったようで香澄さんだけ彼女に呼ばれていた。


後日、開発室。

小野道弥生と花本香澄が向かい合って座っている。

「今日は何の用ですか?

私は忙しいんです、またいつもみたく愚痴を聞いてほしいなんて言いませんよね?」


「やだなぁ、私だって真剣な話するときもあるんですぅ。」

小野道弥生は口をとがらせて返した。


そこから彼女は真剣な顔になる。

よく聞いてね、から始められた話は信じがたい

先日、D4地区にて交戦した異形から得られたサンプル

そこに含まれていた因子がこれまで確認されていないものであったことは

後の報告からも知っている。


「この頃あの因子のことが気になってね、寝ずに解析してたの。

それこそ因子反応の検出から全部やったの。

そしたらね、

ほんの少しの

それこそ因子反応じゃ検出されないように

巧妙に隠された既知の因子が見つかったの。」


初耳だ、恐らく部外秘の情報なのだろう。

「それでその因子は?」

聞くのは当然だろう、これからに繋がるかもしれない。


「その因子はね、紫の因子

そしてその中でも“覇者”の因子だったよ。」


その一言に私は言葉を失った。

となると先の案件は彼の自作自演?

でもそこまでするメリットが彼にはない、

そもそも彼にそんなことをするような度胸があるだろうか。

ない、いや疑いがかかっている段階では、ないと“信じたい”の方が正しい。


「ひとまずこちらでも探りを入れてみます。

あなたはあなたの方でもう少し解析を進めてください。

頼みましたよ。」


「合点承知ぃ!!」


彼女が部外秘にしたということはまだこの組織に知れ渡ってはいなさそうだ。

後は彼女に期待するしかない。


そう思って私は開発室を出る。


見つかったわずかな覇者の因子

巧妙に隠されていた

因子反応で検出されないように隠されていた


でもどんなにわずかな量であっても因子反応は検出される。

彼女の方でも試してみたと言っていた。

それでも検出されない、何か裏があるように感じる。


またやることが増えてしまいましたね

と言いながら彼女は管制室に足を進める。


**************************

柑子翔が訓練室の一件で医務室送りになった1週間後


紫には動ける人員は

紫藤1人のみだった。


どうやらあの話はcis中に広がってしまったらしく

先日、僕が赤嶺さんと会った際には

「加減を知れよ。」

と笑いながら言われた。

本当にやめてほしい、あの日の悪夢がその言葉からフラッシュバックしそうになる。


とはいえ大変だろうということで赤嶺さんのところから

何人か人員を送ってくれることになった。


確かに僕一人だとかなり大変になりそうだったから

正直、ありがたかった。


「あいつらのこと頼んだぜ、せいぜいしごいてやってくれ。」

ガハハハと豪快に笑いながら、向こうへ行ってしまった。

あの人は何かと優しくしてくれる、ホントにありがとうございます。


香澄さんを介して赤から紫へ人員が派遣されてきた。

全員なんだかキリッとした顔でこちらを見ている。


その中でも一番背の高い子が

「自分はクリムといいます。

ラヴァからお話はお聞きかと思います。

本日から派遣されてきました、よろしくお願いします。」

といった風なことを言ってきた。


ちょっと待って、ラヴァって誰?

この子たちは赤嶺さんのところから来た、

そしてそんな話をしたのもあの人とだけだから


赤嶺さん=ラヴァ!?

恐らくそうで間違いないのだろう

まぁいい、とりあえずこれで人員は増えたから、

また任務を消化できる。


来た人たちは思っていたよりも優秀だった。

階級で言えば全員が単体で任務を行えるところにいるらしい。

これは香澄さんから聞いた。


どうやらこの組織には階級が存在するらしく

下から

コンバート→インフィルト→エージェントになるそうだ。


僕は特殊な事情でいきなりエージェントになったから

あまり意識することはなかったが、やはり人員不足というのがあるようだ。

それぞれの人間を的確な立ち位置に配属することで

その人たちが死ぬことがないようにしているのだという。


赤嶺さんのもとから派遣されてきた人たちは全員インフィルトであった。

つまりは潜入したりするなどターゲットとの接触が考えられることでも

単独で行えるといったかんじだ。


この1週間で上か。

ら送られてきた任務は溜まりに溜まっていたそうだ。

香澄さんが上との間で色々と手を回してくれたのだそう。


上から降りてきたそれらは合計3つ

因子の売買が行われているかもしれないという情報

東都タワーの爆破予告

そして最後は

誘拐事件の解決


1つ目はいいとして2つ目と3つ目は警察の出番ではないかとも思ったが

どうやらこの組織は裏で警察の上の方ともひそかな繋がりがあるということを

香澄さんが耳打ちしてくれた。


僕含め人員を3つに分ける。

因子の売買については,クリム率いる赤の人たち半分。

東都タワーは僕が行くとして

誘拐事件の方はどうしよう?一番焦るべきところであるし

救助要請もずっと来ているそうだ


その時

「話は聞かせてもらった、迅速に対応するなら俺が適任だ。

俺に行かせろ、紫藤。」

そう言ってにゅっと現れたのは柑子君。


「大丈夫なの?もう平気なの?」

僕が心配して聞くと彼は


「戯け、あの程度で1週間もいらん。」

と言って残りの赤の人たちのところへ行ってしまった。


そうして配備が決まる。

柑子君と赤の人たちは一足早く行ってしまったようだ。

今まさに現在進行中の事件なのだから、できるだけ早い方がいいだろう。


クリムたちも行った。

残った赤の人たちと僕で東都タワーへ向かうことになったのだが

その人数は僕含め3人。

少なすぎやしませんか?

とは言ってもインフェルトであるから心強い。


僕もその2人と出発することにした。

二人とも僕よりも年は下だった。

男の子と女の子、二人に何が得意かを聞いてみる

が教えてくれない。


曰く、因子に関する情報は重要な秘密であるため

たとえ味方であってもばらしてはいけないとのこと。

ただ、機械をいじるのは得意だということは教えてくれた。


そんなこんなするうちに東都タワーに到着、

香澄さんに連絡を入れた後、封鎖されたそこに侵入した。

気を引き締める

今回はこれまでとは違って警察も関与している故、何かと行動を起こしにくい。

が、それは相手も同じ。

あくまで予告だけの愉快犯であればいいのだが

そうでなかった場合は...


「このままみんなで生きるか死ぬかのデスゲーム、一心同体ですね。」

横にいた女の子の方が言う。


怖いこと言うなぁ、この子。

さらに不安になった。












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