第二話『正体』
「ソニア……」
「グレーフィンさん、やりましたよ!」
火炎放射器のスイッチが切られた時、その場に立っていたのは一人と一体。
一人は、ソニア。
『カノーネ』とグレーフィンに回復魔法をかけ続けながら、本人は周囲を見渡してまだ敵がいないかを確認している。
煙と、霧で視界が効かないので、自然なことともいえる。
「熱いなあ、本当に」
「熱さとか感じるんですか?」
「いや、全然」
「ええ……」
そして、もう一体は、グレーフィン。
彼の腕の中には、一体の亡骸がいる。
虎ほども大きな、『大犬』の亡骸。
暴れる『大犬』が逃げないように、あるいはソニアが襲われないように。
焼け死ぬまで、焦げて炭化しても、離さなかった。
「というか、さっさと離れたほうがいいぞ」
「そうなんですか?」
「あちこち燃えてるが?」
「これ、火事になったら、私の責任になります?」
「そりゃそうだろ」
グレーフィンはため息をついた。
ソニアは、あわてて回復魔法で熱を取ったグレーフィンの背中に飛び乗った。
二人は、霧と炎から脱出したのだった。
「全くやってくれたな」
「そんなに変なことをしましたかね?」
「変とは言わないけどさあ。やりすぎだよ」
「魔物相手にやりすぎということはないと思いますが」
「…………」
あの後、冒険者たちが消火活動をしてくれたことで、火は収まった。
ソニアの処遇だったが、結局功績と相殺という形になり、罪に問われると行ったことはなさそうだった。
その判断に反発する者もいたが、巨大な『大犬』の亡骸を見せたことで、周囲も黙らざるを得なかった。
「良かったですね!これで報酬ゲットですよ!ラッキーです!」
「…………」
「グレーフィンさん、どうかしましたか?」
「いやうん、別にいいんだけどね?魔物を討伐してくれたことには変わりないし」
「妙だなと思ってな」
「といいますと?」
グレーフィンには、何かを見落としてしまっているような気がしてならなかった。
「霧……」
そうだ、霧は残っていた。
魔法は使用者本人が死ねば消える。
例えばソニアが死んだ場合、現在進行形でグレーフィンに作用している修復魔法は解除されてしまい、グレーフィンはただの物言わぬ木偶に戻るだろう。
だが、霧は消えなかった。
ソニアの炎で大半は消し飛ばしたがそれでも一部は残り続けていた。
「つまり……」
「グレーフィンさん?」
ソニアが不思議そうに彼を見つめる。
「おい!大変だ!」
バタンと音を立てて一人の冒険者が飛び込んできた。
そして、別の冒険者に何事か耳打ちをする。
「何を言ってるんだ馬鹿野郎!」
「はあ、事実を言ってるだけだろうが!」
「魔物がたった今、この街に入って来たんだよ!今近くにいた冒険者が対処してる!」
「はあ?」
魔物の脅威はまだ、終わらない。
◇
「本当、みたいですね」
街中で串刺しになった、虎ほどの大きさの犬を見ながら、ソニアがつぶやいた。
言うまでもなく、炭化した『大犬』とは別のものだ。
「けど、『炎姫』が倒した魔物はどうなるんだ?」
「複数いる……のか?」
何体いるかもわからないとなれば、話は大きく変わってくる。
それこそ、数次第ではこの都市にいる冒険者全員でも対処できないかもしれない。
「お、おい!」
「三体目!」
霧とともに浮かび上がってきた、次なる『大犬』。
冒険者の顔に、動揺と絶望が広がる。
もしも、無尽蔵にいるのであれば、もうどうしようもないのではという思いが広がろうとして。
「ああ、わかりましたね」
「ソニアもわかったか」
グレーフィンに問われ、うなずく。
「魔法には二種類ある。一過性のものと、継続的に効果を及ぼすものです」
前者は攻撃魔法の大半がそれだ。もとより長時間維持する必要などない。
例えば火炎の球を出現させて相手に撃ち放つ魔法であれば、維持するのは5秒程度でいい。
それに対して後者である回復魔法や対象者を強化する付与魔法は長時間かけ続けることが前提であり難易度が高い。
「あの霧が魔法だとするなら持続型でした。でも犬の傷は回復しなかったんです」
「つまり、あの霧が付与魔法である可能性が高いってことか。んで、その効果は」
「|自分以外の動物を魔物に変える《・・・・・・・・・・・・・・》こと」
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