第一話「冒険者ギルド」
ソニアの仕事は、冒険者である。
冒険者にとって、重要な場所がある。
冒険者ギルドだ。
冒険者の需要は、この一年で加速し続けている。
王都アントルメが機能停止したことにより、
「ここのギルド、結構大きいですね」
「普通は酒場に毛が生えたようなレベルなのにな」
ソニアとグレーフィンは、とある都市の冒険者ギルドにいた。
冒険者ギルドには、看板がつけられていることが多い。
すなわち、どのような仕事があるのかを、ギルドがまとめて掲示してくれているのだ。
「魔物討伐ですって、グレーフィンさん、私魔物討伐なんてはじめてです!」
「奇遇だな、俺もだよ」
冒険者という職業は、業務の幅がとにもかくにも広い。
盗賊征伐や、魔物討伐といった危険な仕事も回されることがある。
「今回の魔物って、どんな生き物なんでしょう」
魔物というのは、魔法を使える人間以外の動物の総称である。
いつからか、人間の中で魔法を使える人間が、一定数発生するようになっていた。
そして、それは人間以外の動物も含めて、である。
魔法を使えるだけではない。
生物としての格すらも増している。
「具体的に言えば、どうなるんですか?」
「今回の犬は、虎レベルの大きさがあるらしいぞ」
「化け物じゃないですか」
そのサイズだと、銃弾を食らっても簡単には死なないだろう。
確実に倒そうとしたら、それこそ魔法や、火炎放射器などを使わなくてはならない。
「森の中にいるとなると、火炎放射器を使っていいのかどうかも気になりますよね。かなりの被害が出てしまうような気がするんですが」
「山火事になりかねないもんなあ」
「そう、です、ねえ」
とはいえ、他の銃火器は運用できない。
銃やガトリング砲などは、反動が強すぎてソニアの腕力では扱えないのだ。
剣や斧などの近接武器も同様。
彼女が戦おうと思ったら、圧倒的な魔力にものを言わせた火炎放射しかできることがないのだ。
「まあ、最悪俺だけで何とかするから」
「グレーフィンさん、今なんでもするって言いました?」
「ハグすればいいのか?」
「違います!まあ、それはこのあと十時間くらいしてほしいですけど……そうじゃなくて」
「環境があっていないなら、その環境を変えればいいと思うんですよ」
山火事の原因は色々ある。
雷が落ちたり、乾燥によって自然発火したり。
あるいは魔法使いや魔物による魔法の暴発だったり。
ともかく、程度にもよるが山火事自体は珍しいことではない。
山火事が起きた時、クレーターのように穴が空くことがある。
草木が燃え尽き、燃えるものがなくなって鎮火する。
そういう、森の中にぽっかりと空いた切れ目に入り込んでいた。
ーー霧がでてきた。
「霧ですか?」
「なぎ払いましょうか?」
「いや、多分無駄だ。これ魔法だぞ」
「ああ……」
森の中に、突如出現した魔法。
「来ましたね……」
「準備はいいかあ?」
「はい」
ソニアは、いつも通り使っている火炎放射器である『カノーネ』を取り出している。
「がるるるる」
野犬が、次々と寄ってくる。
一匹一匹は、脅威にならなかった。
グレーフィンならば容易く対処できるはずだろう。
「攻撃をはじめます。出力、中」
『カノーネ』から炎を放出した。
「ぎゃう!」
二十メートルを超える長さの炎が、野犬に襲い掛かる。
逃げまどう犬、間に合わずに焼ける犬。
だがしかして、そこに一体の獣が現れる。
「ウオオオオオオオオオオオ!」
「魔物……っ」
それを端的に言うなら、『大犬』。
詳細はわからないが、とりあえずこいつが魔物とみて間違いない。
霧を出しているのもこいつだろう。
「出力、極大」
ソニアが、つまみを回して。
炎が、勢いを増した。
火炎放射器『カノーネ』は火砲についているつまみを回すことで、ある程度出力の調整が可能である。
つまみを緩めれば、出力は上がる。
だが、常に最大火力を出さないのには理由がある。
一つは、自分以外の存在を巻き込むリスクがあるから。
これは、周囲に人がいないことは確認済みであり、特に問題にはならない。
もう一つは、火力を出せば出すだけ『カノーネ』自体にも熱が伝わり、使えなくなるから。
その状態で無理に使おうとすれば、爆発する。
ただそれは、扱うのがソニアでなければの話だ。
熱されているはずの火砲は熱されるのと同時に冷却され、燃料は尽きることなく供給され、火力は衰えない。
それが、聖女ソニアの魔法であるがゆえに。
『カノーネ』の『極大』は文字通り、セーフティを無視した極大出力。
使えばタンクにある燃料は二秒と持たず、その前に熱量に耐えきれない砲身やパイプが破裂し、爆発する。
そして、使い手は爆発の前に余熱に耐えきれずに焼死してします。
ソニアでなければ、『極大』を使えるのはせいぜいで一秒が限度。
だが、ソニアに時間制限はない。
余熱はエラーとしてなかったことになり、燃料もソニアの魔力によって無尽蔵。
「ぎゃ、お」
『大犬』を、野犬を、周囲の木々を、大地を。
豪炎が吹き飛ばした。
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