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第三話『村の話』

「はるか昔、まだこのサンラータン村に男性も女性もいたころの話です」

「ほうほう」

「元々、この村は農耕が盛んなだけの普通の村でした。しかし、男性が一つだけ違うところがありました。それは男性が女性を弾圧していたことです」

「弾圧?」

「もう少し読んでみましょう」

「ああ、頼むわ」

「悪魔のごとき彼らの支配から、彼女たちは脱出することに成功しました」

「これは、何なんだろうな」

「うーん、まあそういうことですよね」

「もうわかりそうな気がする」

「我々は、男たちを追い出していたのです」

「うん、そうでしょうね。それだけ?」

「それだけみたいですね」

「どう思う?」

『ここで得られる情報はもうないと思います』

「男村へ行くべきだよな」



 それはそうだ。

 間違いない。

 だが、ソニアは入ることはできない。

 そもそも、危険すぎる。



「どうする?」

「行きます。スッキリしませんから」

「わかった、じゃあ合体するか」

「ふえっ!」



 ぼんっ、とソニアが顔をトマトのように真っ赤にした。



「が、合体ですか」

「ああうん」

「それは、その、私達が一つになる、という意味ですか?」

「まあそうだけど」

「わ、わかりました。い、いいですよ」



 そっとソニアは、目を閉じて、両手を腕の前で組んだ。

 顔を真っ赤にして、なにかしらを期待しながら。

 ソニアは、がしゃんという音を聞いた。



「…………?」



 見れば、グレーフィンの胴体が縦に開いている。

 そして、中にはぽっかりとした空洞が空いている。



「ここに入れば、」

「ああ、はい。わかりましたよ」



 彼女は、一人の女性としてのプライドがへし折られたことを感じながら彼女は、入っていった。

 グレーフィンは、鎧型のアンドロイドであり、パワードスーツのように人を入れることも可能だった。

 ソニアは、その機能については知らなかったのだが。

 グレーフィンも、今まで使ってこなかった機能だからだ。

 なにしろ、人を入れて運ぶなど、普通は使わない。

 ましてや、排熱機構や空気の問題で長時間格納できないのだからなおのことである。



 ◇


「グレーフィンです。観光に来ました」

「よし、通れ」



 グレーフィンの声は野太く、何をどう考えても女性のそれではありえない。

 ゆえに、むくつけき男性の門番も、特に問題ないと判断して招き入れた。



「とんでもない状況ですよね」

「ああ、そうだなあ。声量、もうちょっと下げろよ」

「お前が読んでたエロ小説で、こういう導入のやつなかったっけ」

「え、エロ小説ではありません!芸術です!というか人が読んでいるところをのぞき見しないでください!」



 ソニアは、文字を読むのが好きだった。

 特に、いわゆる恋愛小説が好きで、旅先で見つけるとじっくりと読み込む。

 旅路ゆえに持ち運びができないので、頭の中に刻み込むしかないというのはある。

 そして、恋愛小説というのは性描写も非常に多い。

 ソニアは顔を真っ赤にしながら、グレーフィンに隠れてこっそり読んでいるのだが、四六時中ソニアを守るため動向を監視しているグレーフィンにはバレバレだった。



「すまんすまん。っていうか声がでかい」



 周囲の男性が、奇妙に思った様子はなかった。

幸い、ソニアの存在には気づかれていないらしい。

 


 グレーフィンは、ソニアの指示で食事処に入った。

 丼もの一杯を注文。

 三色のチーズがかかった牛丼を鎧の隙間からかきこんでソニアが食べている。

 こうして、鎧姿で移動することは度々あった。



「あんた、冒険者かい?」



 なんとなくだが、冒険者などではなくてこの街の住民なのだろうなと察した。

 服装があまりにも旅に向いていなさすぎる。



「ああ、最近になってここに来たんだ」



 ソニアが声を出すわけにはいかないので、当然グレーフィンが会話をする。

あくまでも彼女は会話の内容はグレーフィンに任せている。

というより、そうしないと不自然になってしまうからだ。

グレーフィンは、彼自身もソニアも気になっていたことを訊いた。



「そういえば、なんだがどうして子供がいるんだ?その、男には子供を産むことはできないだろう?」



 子供を産めるのは女性だけだ。

 魔法を使っても、新しく生命を生み出すことは出来ない。

 それこそ、無尽蔵の魔力を有する聖女ですら不可能だ。



「ああ、ひでえんだよ、となりに女性都市があるのは知ってるか?」

「聞いたことはあるな」



 聞いたも何も、つい最近までそこにいたのだが、それは流石に言わずに置いた。



「あいつらなあ、男の子が生まれると、街のすぐ外に捨てていくんだよ、だから俺達が回収して育ててるんだ」

「な、なるほどお」

「うわあ……」

「ん、なんか女の声がしなかったか?」

「き、気のせいだろ、ここには男しかいないじゃないか。男の子とかなんじゃないか」

「あー、まあそうだよな」



 ◇



「なんというか、どっちもどっちという気がしますね」

「なるほどな」

「グレーフィンさんはどう思いました?」

「俺はどっちが悪いっていうよりは、まあ、その」

「?」

「普通に手を結べばいいんじゃないかって思ったよな」

「ああ……」



 彼の発言は、単純に男女というだけではない。

 女性都市では農業が盛んで、逆に男性都市では狩猟採集が盛んだった。

 お互いに、補い合っていけばいいのではないのかと思うのだが。



「難しいんですかねえ、そんなに」

「どうだろうな、この村二つが特殊なだけだろうとも思うが」



「グレーフィンさんは、性自認自体は男性なんですよね?」

「ああ、まあそうだな。そういう風にデザインされてるってのが正確だが」



 アンドロイドは、人に近い存在として作られている以上、その姿や人格もある程度定義される。

 つまるところ、男性として作られれば己を男性として認識するということだ。

 例えばソニアが着替える際には、言われずとも自発的に目を逸らしたりするようになる。



「まあ、お互いに補い合って協力していけたらいいよなあ」

「そうだったらいいんですけどね」



 ソニアとグレーフィンは、お互いを見合わせて苦笑した。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


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