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第三話『没落した王子、守りたい鎧』


 いや、元第一王子だったか。

 聖女として、王都を支えてきたソニアとは面識がある。

 見れば、他にも見覚えがあるものが多い。

 王子の取り巻きの貴族か、その部下か。王城で顔を合わせていたことがあったのかもしれない。



「ずいぶんと、見た目が変わったな」

「それはそちらも同じでは?」



 今の彼の格好は、王族貴族が身にまとう好奇なそれではない。

 バランスの良くない、ちぐはぐな服装をしている。

 奪い取ったものをそのまま着ていたら、変な見た目になったとでも言わんばかりだ。

 いや実際そうなのだろう。



「王族がクーデターにあって、盗賊になるとは。落ちぶれたものですね」

「ふざけるなよ!死にぞこないの聖女風情が!」

「いいえ、今の私は何者でもありません。ただのソニアです」

「冒険者として、貴方を制圧します」



 ソニアは、バッグの中に手を突っ込んで、彼女の武器を取り出した。

 彼女が取り出したのは、一本の金属でできた筒だった。

 筒の先は、パイプを通して一つのチューブからタンクにつながれている。



 それは、武器で、機械で、兵器だった。

 それは、火炎放射器だった。

 液体燃料が詰められており、炎を噴射して相手を燃やす武器だ。



「お、おい、ちょっと待て」

「待ちません」



 豪炎が、眼前の盗賊たちを包み込んだ。



「ああ、もう燃料切れですね」

「そりゃ考えなしにぶっ放してればそうなるだろうよ」



 炎は、ソニアの手前にいたグレフィンにもかかるが、彼がそれを気にした様子はなかった。

「それより、まずいぞ」

「ええ……」



 予め詰められている液体燃料を完全に消費して放たれた炎は人を燃やして致命傷を与えるには十分な火力だった。

 だが、彼らは燃えていない。

 汗を流す程度でとどまっている。



「防壁魔法、ですか」

「ふっ、その通りだとも。お前の攻撃は通じないぞ」



 魔法を使える人間は限られるが、優秀な血を掛け合わせた王族であれば、大抵使うことができる。

 第一王子が使うのは防壁魔法。

 高硬度の物質による殻を生成し、攻撃を防ぐことに特化している。

 今火炎放射器による攻撃を防いだように、防御に使うことがメインとなっている。

 一方で硬度の高い物質をぶつけて攻撃に転用することもできる。

 応用性が高い魔法と言えるだろう。

 ソニアとは、真逆だ。



「まだ、炎が消えないのか?」

「ありえない、こんなに炎を出していたら燃料だって尽きるだろう?」

「こいつ、炎熱攻撃魔法を使っているのか?」

 

 そんな使い勝手のいいものではない。

 聖女ソニアの魔法適性は、機械修復。

 整備士のように機械を修繕するというだけではない。

 機械についた傷も、エラーも、全て正常な状態に戻せてしまう。

 そして、聖女の特性なのだが、魔力が枯渇するということがない。

 大気中にある魔力を取り込んで自分のものにすることができるからだ。

 例えば、燃料切れなども、だ。

 ゆえに、彼女が聖女として生きてきた十年間は、彼女一人を動力にして都市が運用されていた。

 しかし、王子やその取り巻きは彼女のありがたみを忘れて彼女を捨てた。

 そうなれば、機械に頼っていた王都は機能を停止する。

 インフラは停止するうえに、そもそも移動都市という特色も失ってしまい、なおかつ税金を徴収できなくなってしまう。

 つまるところ、王都はソニアを失った時点で運用が不可能になった。

 本来なら、ソニアが生まれる前の運営方法で都市を維持すればよかったのだが、ソニアに依存するあまり技術者を解雇したり、燃料などに使う資金を王侯貴族の贅沢に用いたりしたせいで、ソニア抜きで維持できなくなっていた。



 火炎放射器におけるエラーは、およそ二つ。

 一つは、排熱の限界によるオーバーヒート。

 もう一つは、燃料切れ。

 いずれも、彼女の能力をもってすれば解決できる。

 まして、聖女であるソニアの魔力は枯渇しない。

 これが、「炎姫」と呼ばれるゆえんである。


「王子様!」

「この、ままでは」

「我々が負けてしまいます!」



 彼らの戦術は単純。

 防壁魔法で耐久力を上げて、そのまま強引に突破するか、防壁魔法で相手の攻撃を受けて相手が疲弊したところでカウンターを与えて倒す。

 だが、どちらも選択できない。

 火勢が強すぎて、ソニアのところまではとても近づけない。

 さらに、持久戦では確実に盗賊側が不利である。

 聖女の魔力は尽きないからだ。

 いや、順序が逆だ。

 魔力が尽きない特異体質のことを、聖女というのだ。



「舐めるなあ!」

「っ!」



 元王子は、手に持っていた剣を、グレーフィンの首元に振るった。

 首元は装甲が薄く、鋼鉄の剣であれば、鎧越しでも首くらいは断てる。

 よしんば切れなかったとしても衝撃には耐えられない、首の骨が折れる。



「グレーフィンさ」



 剣が、グレーフィンの首元にぶつかって。

 ぼきん、と音がして。

 剣が、折れた。



「なんだ?」

「どういうことなの?」

「何だ、お前は?」

「俺は、グレーフィンだ」



 それは、かつてソニアが名付けた名前。

 それまで名前など持っていなかったソレに、初めて与えられた名前。



「そうじゃない、何者だと、どういう存在だと訊いているんだ!」



 首筋に剣を見舞って、人間が耐えられるはずはない。

 だが、グレーフィンは耐えている。

 それどころか、彼の首に、鋼の刃が耐えられない。

 彼の強度が、鉄と同等以上であるということを示していた。



「こいつ、人間じゃない?」

「人間だよ、俺は」



 飄々とした声で、グレーフィンは返した。



「ただまあ、ちょっと硬くて重いかもしれないけどなあ」



 彼の名は、グレ―フィン。

 またの名を、戦闘用アンドロイドである。

ここまで読んでくださってありがとうございます。


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