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第二話『運動会』

「七不思議その一、朝顔の観察日記を作ろう」

「朝顔?」

「観察日記?」



 朝顔というのは、つる植物の一種だ。

 ラッパのような花を咲かせる、色は赤や紫などさまざまで、ソニアからしても美しいと思った。

 種をまいて、支柱を立てて、水をやっていれば簡単に育つ。

 それこそ、学校に通うような子供がやっていたとしてもなお不思議はないだろうとすら思える。



「といっても、結局はあくまでもある程度育ったものを世話していただくだけですからね。大丈夫ですよ」

「量が多くないですか?これ絶対本来はもっと少なくていいやつですよね?」



 ただ、その数が多い。

 数百株、それらすべてに水をやらなくてはならない。

 なおかつ、一株ごとに番号が付けられており、一つ一つに観察日記を書かなくてはならない。

 紙の束を見て、一枚一枚書いていく。

 といっても、正直一つ一つの差なんてさほどない。

 結局は、全て「特に異常なし」といった適当な文言を書くことになる。



「……昔にあった伝承を再現したものらしいからなあ、どうしてもこういうずれが生じるんだろ。お前の言うとおり、実際は一株だけとかだったんだろうなと思うぜ」

「なるほど」


 ソニアはグレーフィンの言葉を聞いて確かにそれはそうなのかもしれないなと思った。


 

「なんとなく思ったんだがな、もしかすると七不思議というネーミング自体が間違っているのかもしれないな」

「ああ、間違って伝わっている説はありますよね」



 学校のダイジェストを伝えるというだけのはずなのに、七不思議というネーミングはどうしてもあわない気がするのだ。

 恐らくは、他の伝承と混ざってしまったのではないかと彼には推測できた。




「ていうか、何で俺まで観察日記を書かなきゃならないんだろうな?」

「まあ、会話もできますし、手先も結構器用ですからねグレーフィンさんは」

「それはそうなんだがこう、俺としてもぶっちゃけこういう作業は面倒くさいんだが」

「嫌私だって面倒くさいですけどね!でも食事も宿もただと言われてしまっては仕方ありませんよね」



 学園都市においては、学生は食費も宿泊費も一切免除されている。

 食事は給食という支給されたものを摂取し、宿も寮という学生専用の建物で寝泊まりさせてもらっている。

 

 



「まあ、そう考えると観察日記を書くくらいは何でもないような気になってきますね」

「まあ、この前みたいな命の危険はないからなあ」

「それはそうですねえ」



 指定された学生服を着て、朝顔を育てるだけ。



「グレーフィンさんは、そういえば学生服着ないんですね」

「いや、俺はあんどろいどだぞ。着るわけがないじゃん」

「いやあ、着てもいいと思いますよ。私から学園長に連絡しておきましょう!」

「いらねえって」



 そして次の日。



「何でこんなことに……」

「なんだかすみません」

「謝らないでくれよ。逆につらくなる」



 グレーフィンは、黒い制服に身を包んでいた。

 ただし、まるで彼の体には合っていない。

 鎧だから似合わない、ということではない。



「まさか、グレーフィンさんに合うサイズの服がないだなんて……」

「結構容易く想像ついたと思うけどなあ!」



 グレーフィンの伸長は二メートル。

 さらに、鎧であるがゆえに肩幅などが同じ二メートルの巨漢よりもはるかに大きい。

 つまりは、グレーフィンは制服を完全に着こなすことはできないのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


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