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end

「……ちなみに、縁談の話もさ。アンジェからはっきり嫌だって言って、ほかの交友関係の結び方を提案してもいいんじゃないか?」

「わたしに、そんなことができるの?」

「それはアンジェ次第だけどさ。やろうと思えば、アンジェにはできるさ。なんてったって、これだけ大きな魔法を使えるぐらいの力を持ってるんだしな」

 励ましているのかそれともけなしているのか。受け取りきれなくて眉をひそめるアンジェに、ロイは肩をすくめて笑った。

「もう、こわくないか?」

「……まだ、こわい」

 魔法をかけたのが自分の仕業なら、それを解いて現実に戻らなければならない。わかっているのだけど、あともうすこしの勇気が出ない。

 まだ逃げていたい。あともうすこしだけ、逃げていたい。

「でも、戻らないといけないのよね……」

「無理して戻ると、きっとまた魔法をかけるだろうから。無理はしないほうがいい」

 無理やりに魔法を解こうとしないで、アンジェの様子をうかがいながらゆっくりとうながしてくれる。だからアンジェはつい、ロイに甘えてしまう。もっと厳しく言ってくれればと思うけれど、これは自主的に動かないといけないこと。甘えてばかりいられなかった。

「……ロイ」

 目じりに残る涙を布団にぬぐって、アンジェは優しい魔法使いを見上げた。

 涙を吸ったまぶたが、重くなり始めていた。

「わたしが眠って、目が覚めたら、ほんとうに国はもとに戻っているのね?」

「戻ってるよ。約束する」

「わたし……怒られたりしない?」

 おそるおそるといったアンジェの口調に、ロイが破顔した。

「しないよ、絶対」

 くすくすと笑って、彼はアンジェの頬を撫で続ける。それが心地よくて、アンジェはゆったりとまばたきをした。

「目が覚めたら、ロイはいなくなってる?」

「ちゃんとそばにいるから大丈夫」

 それでも不安そうな顔をするアンジェに、ロイはすこし考えてから、指先をアンジェのあご先にのばす。アンジェがまぶたを伏せると、彼の動く衣擦れが聞こえた。

 唇に、ロイの口づけを感じる。

「――おやすみ、アンジェ」

 その余韻が消えぬうちに、アンジェの意識がすっと遠ざかっていった。


        ○○○


「――アンジェ様!」

 アンジェが目を覚ますと、城の中は大騒ぎになっていた。

 てっきり一年も眠っていたことにみんな混乱しているのだろうと思ったけど、どうやらそういうわけでもないらしい。眠る前は誰もいないはずだったベッドの周りをたくさんの人に囲まれて、王妃は娘が身体を起こすなり、涙を流しながら強く抱きしめてくれた。

 アンジェが起きたと知らせを受けたのか、国王までもがあわただしく部屋にはいってくる。みんなも目が覚めたばかりで忙しいはずなのに、普段は物静かな父までもが娘の起床を涙ながらに喜んでいた。

 起き抜けのその騒がしさに、アンジェはただただ、呆然とするしかなかった。そしてひととおりの騒ぎが落ち着き、両親がアンジェのもとを去ったころに、ようやく事態を飲み込めるようになっていた。

 まだかすみの残る頭で、アンジェはロイの顔を見る。約束どおり、彼は目が覚めても、ベッドの傍らでずっとアンジェを見守っていてくれた。

「……どうして、本当のことを言ってくれなかったの?」

 国のみんなが眠っていたわけではない。

 眠っていたのはアンジェ自身。あれはアンジェがかけた、魔法の中の世界だった。

「アンジェ自身が、魔法をかけたことに変わりはなかっただろ?」

 ロイはアンジェを目覚めさせるために、あの魔法の中に入り込んできたのだった。

 目覚めの仕度でばたつく侍女たちを眺めながら、ロイはそのすきをみはからい、唇をアンジェの耳元に寄せた。

「おはよう、眠り姫」

 間近にある瑠璃色の瞳がなんだか照れくさくて、アンジェとロイは、くすりと笑いあったのだった。





               END


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