表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/72

狐の想い他人、鬼の詰め指-9

 山姥──山姫──。


 刀槍矢弾を生やしなお立つ。


 妖怪と、人間の間で立った。


 妖怪と人間と、戦い続けた。


 悲鳴もあげず。


 苦痛にうめかず。


 大葉介は目を逸らした。


「見捨てるのか?」


 と、誰かが言った。


 大葉介は見た。


 紅雀が苛立っていた。


 今にも駆け出そうとだ。


 歩き巫女の葛葉は見守っていた。


 軍団兵も紅雀共に静かに待つ。


 否、見ないように瞑っていた。


 大葉介は刀を抜いた。


 手綱を引き、馬に立たせた。


「突入する。山姥と共に戦う!」


 だが、それを介佑郎と樹介が制した。


 葛葉が──見ていた。


 手には、紅雀から返還された殺生石。


 葛葉は殺生石を見つめる。


 石に、葛葉がうつりこむことはない。


「……悪いね」


 葛葉の手から殺生石が落ちた。


 うっかりをよそおってだ。


 殺生石は、鶴山の大地に触れた。


「墓場から起きてもらおうかな」


 殺生石が地相を犯した。


 不快感の波となって押し寄せた。


 風というにはあまりに粘ついた。


 人間だけでなく妖怪まで止めるほどの!


「なんだ?」


 と、誰かの、あるいは総意だ。


 ──突如。


 地より巨大な腕が伸びた。


 根のように広がるそれは妖怪を掴む。


 持ち上げ、肉骨を砕き血を搾った。


 這い出てきたのは絡繰の鎧だ。


 一領や二領ではなく、幾領も!


「大葉介ー!」


 と、葛葉は言った。


「……舟が浮上してくる。その中にいる者を殺せ。山姥は、姫は目的を失う。もう二度と、凶行できなくなる」


 大葉介は──。


 山姥の体を引いていた。


「誰か手を!」


 紅雀が、近づいた。


 太刀を抜いていた。


「……国司だぞ」


 紅雀と同じ顔の山姥へ、紅雀は言う。


「紅雀様」


 と、大葉介は言う。


 紅雀は太刀を配下に押しつけた。


 大葉介、介佑郎と樹介では力不足なところへ、紅雀が手を貸すことで、山姥を持ち上げられた。


「この紅雀が、国司を助けるとはな!」


 紅雀は躊躇いながら、言う。


「馬鹿をしたものだ。妹」


「魘魅蠱毒? それとも国司を捨てた?」


 と、山姫は口を開いた。


「全部だ」


 と、紅雀は足に力を入れた。


 大葉介ら検非違使まで同時に引かれた。


 軍団兵と紅雀党が妖怪との間の壁を作る。


 妖怪はすでに、鶴山の底から湧きでたものと乱戦になっていた。ほとんどの妖怪は、退がる山姫らを追わずに、鶴山の町に残されていた。


 鶴山の境界、最初の場所へ戻ってきた。


「良かった、の、だよな?」


 と、樹介は太刀を鞘におさめた。


 樹介は泥だらけの顔を手拭いで洗った。


 二人は、討伐するべきだった山姥を見た。


「当たり前だ」


 と、大葉介は迷わずに言いきった。


「大変だぞ。山姥の首は無くなったんだ。だと言うのに、この惨状だ。鶴山の町は化け物に化け物が輪を描いている。牛塵介様らは、町に寄せたが、こっちも手柄を一つか、二つ、『人助け』といこう。怪獣を助けたんだから、まあ見捨てるのも目覚めが悪い」


 と、樹介は忍べず、笑いをこぼした。


「……葛葉様は、あれで良かったの?」


 と、介佑郎が目を泳がせた。


「良かった」


 と、葛葉は肩を軽くした。


「よくない!」


 と、大葉介は、葛葉への遠慮を無くした。


「鶴山の町は現世に浮上した地獄! 後始末をするのも、つとめだ!」


 葛葉は眉を嫌そうに曲げていた。


「……力を貸そう」


 と、山姫が、軍団兵と紅雀党の肩を借りながら言った。


「全ての起こりは、この愚か者だしな」


 と、紅雀が山姫の頭をしたたか叩いた。


「大葉介様。“のけもの”と感じるか?」


「意地悪はやめて、葛葉様」


「樹介も介佑郎も離れたねぇ」


「薄々とはわかっていました」


 と、大葉介は胸に手を当てた。


「……どうするんだい?」


「さぁ? 確かめてみます」


 と、大葉介は小柄に指を当てていた。


 検非違使の大葉介は死んだ。


 樹介と介佑郎と道を違えていた。


 大葉介は、見つめていた。


 是非の問題ではないのだ。


 大葉介は、人知れず、離れていく。


 彼女の存在を気がつく者はいない。




 狐の想い他人、鬼の詰め指〈了〉

「狐の想い他人、鬼の詰め指」完結です。

もし本作「狐の想い他人、鬼の詰め指」を面白いと感じてくださったら下にある☆☆☆☆☆を押して、ご意見、ご感想、お気に入り、いいねを押してくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ