狐の想い他人、鬼の詰め指-8
一丈弓大鎧が、振るう。
巨大、長巻拵えの野太刀。
それは腰に据えて振るわれた。
嵐のごとき突風と重さの剣線。
人の身を遥かに凌駕した一撃。
それは獣憑き、九尾の葛葉の首をとらえた。
九つの尾を斬り、迫り、獣の首が飛ぶ。
血潮を噴き出して倒れる巨体。
巨岩のような獣首が遅れて落ちる。
大葉介の目の前だ。
大葉介は血の雨を浴びた。
山賊も軍団も、九尾の一角が崩れたことで、鶴山の町から離れつつあった。
「いひっ、いひひ」
獣の首だけになった葛葉が笑う。
「何がおかしい!」
と、大葉介は葛葉の首を持ち上げた。
同じ目線、血で湿ったものがつたう。
「獣憑きを差別しないでくれ。首しかないのだから、鞠のように蹴られたくはない」
「そんなことはしない!」
と、大葉介は吠えた。
「山姫様に負けたか。勝つばかりが全てではない。失わなければわからないことがあまりに多い。あらゆる物を失った先に得られる境地もある。その道の一つを、『連敗』で得られたうえに生きているのだから安い、安い」
「嫌味な獣だ」
「『巫女様』と呼んでくれないの?」
「……巫女様。なんで、無視して逃さず、首に成り果ててまで止めようとしたのですか。巫女様が、無茶をした理由がわからない」
と、大葉介は、巫女の巨大な獣首を、血濡れの手で、毛を掴んで引きずっていた。
手負いの獲物を狙い、小物の妖怪が遠巻きに囲ってきていた。それを牽制するように、山姥が睨みを効かせていた。




