狐の想い他人、鬼の詰め指-6
大葉介は見ていた。
手には、抜かれた太刀があった。
書生の登場で軍団兵が離反した。
九尾の葛葉が暴れていた。
山姥の登場で混乱していた。
鶴山の町の妖怪を惹いてしまった。
鶴山の町の外で、大混乱の乱戦だ。
「何をしているんだ」
と、大葉介はこぼす。
「何を、やっているんだ!」
血の臭いを嗅ぎつけた木端の妖怪。
芋虫の類いが牙を向けた瞬間、大葉介は太刀を無造作に、弧を描かせて、両断した。体液が飛び散り、染み入った。
大葉介の視線が右に左に振れた。
太刀を向ける先を、迷っていた。
書生があらわれて離反した軍団兵か?
山賊の群れである紅雀の紅雀党か?
獣憑き、暴れる九尾の葛葉か?
検非違使としての目的である山姥か?
「わからない。わかんないよ。誰が悪なの? 人間? 獣憑き? 裏切り者? 誰が、悪いヤツなの!?」
悪──大葉介は探した。
「介佑郎……」
大葉介は、介佑郎を探した。
介佑郎は軍団兵に囲われながら、守られて、妖怪の群れに、軍団兵を戦わせるような下知を矢継ぎ早に飛ばしていた。
「樹介……」
大葉介は、樹介を探した。
樹介は山賊らに手を貸して、獣憑きと戦う。
介佑郎も樹介も、勝手に戦う相手を決めた。
大葉介だけが、戦うべき相手に迷っていた。
「獣憑きは歩き巫女様だ。山賊は紅雀。軍団兵の書生様は知ってる。ならば初心──」
大葉介は目に入るものを一つずつ消した。
検非違使をおごって美作国へはなぜか!?
山陽道をおびやかす山姥の討伐ではないか?
太刀の剣先はもう、迷わなかった。
迷わないと言い聞かせるように向けた。




