表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/72

検非違使、山姥を追う-6

 夏雲が積まれ、秋の虫たちが飛んでいた。


「山姥は調べたのだが──」


 と、大葉介は訊いた。


「──男が触れただけで孕むというが?」


「子種はどうやって渡されるのだ?」


 すると牛塵介は渋い顔をした。


「よく知ってるな。大葉介様。京で?」


「うむ。山姥討伐に派遣された以上は、山姥を知り、この物の怪を討つわけなのだから、知らねばとな」


「触れられたら、快児を次々と産み出すと聞いた。何万という赤子が流れる様はまさに肉の海であり、しかもみな産まれてから乳を必要とせず、小さな歯で肉を削ぎ取る、と」


「……気持ち悪くなってきた」


「刀剣とかで傷つけるというのはおすすめしない。触れるという行為だからだ」


「ではどうやれば良い?」


 牛塵介は考える素振りの直後、口にした。


「土に落とし諸共潰す、炎で焼き尽くすとか」


「大事だな。もし山姥を討伐する瞬間がくれば、山を共に焼くか、地滑りに呑まれることを祈ろう」


 大葉介は唐突に言葉を投げた。


「牛塵介殿であれば、山姥も討てよう」


「斬れる」


「先程言ってたのと違う!」


「確かに、細々と切り刻んでいれば、産まれてくる赤子に呑まれる。この肌は乳歯に切り刻まれ、生きながらにして食われる」


「ならばなぜだ」


「別に赤子なんて、女陰から産まれるのですから、子が育つ胎を切り裂き、子を成せないようにしたうえで首を飛ばす」


「想像よりも外道の術だな……」


「ただ──」


 と、外道が笑う。


「──死なせたくはないですよね」


 大葉介は、牛塵介から目を逸らした。


 牛塵介は部屋の角を見た。


 猫が薄闇で目を丸くした。


「山姥退治、協力することこそ御身の為だと──あイた!?」


 大葉介は額を抑えた。


 牛塵介が親指で弾いた中指で打ったのだ。


 連子窓の外から重々しい、歩く音が響く。


 絡繰が巨大な水桶を背負い、歩いていた。


「早く山姥について吐け」


 と、大葉介は会話を切らせない。


「とはいえ何から話そう」


「牛塵介は、美作国に詳しいのか」


「人並みには知ってるが、出身ではない」


「そういえば備前の某と言われていたな」


「人には言えない縁はありますね」


「で、縁からの話に山姥はいるのか」


 牛塵介は「困った」顔をした。


「検非違使としては、山姥が事実、物の怪とは考えていない。悪党だか山賊が略奪を繰り返している、と、来た」


「悪党も探しているのだな」


 半目、鼻伸びの牛塵介。


「目線がなんかやらしい」


 大葉介は胸を隠した。


 帯の緩みを確認する。


「……広がってる」


 虫刺されの発疹が大きくなっていた。


「おやおや」


 と、牛塵介が外に耳を立てた。


 大葉介も聞き、窓の外を見た。


 駅宿の外が、騒がしかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ