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狐の想い他人、鬼の詰め指-5

「……約束がある」


 鶴山の町。


 怪獣らの縄張り争いに敗れた、有耶無耶の、木端な妖怪が、狙える獲物として陣に押し寄せていてなお、歩き巫女は、紅雀党と軍団兵との不仲のまま──いや、戦っていた。

た。


 大葉介が踏み込んだ。


 太刀を抜いていた。


 ──迷わず振るえた。


 一閃は、歩き巫女の腹を真横に斬る。


 肉にだけ守られた腹だ。


 歩き巫女の着物が落ちた。


 赤い線が肉の上を走った。


 矢弾で貫かれた九尾の──葛葉。


 さらに飛来した軍団兵の矢──。


 九尾は、狐の獣は、人間に押されていた。


 太刀を向けた大葉介でさえ驚くほどにだ。


「やれてしまうのか。殺せるのか?」


 大葉介は、太刀を止めた。


 直後に九尾の爪に切り裂かれた。


 胴を守っていた鎧が火花を散らす。


 大袖や草摺の小札が千切れた。


 大葉介は泥に沈められた。


 だが、鎧は傷から守った。


 彼女の呼吸を止めるだけで済ませた。


 膝をついた大葉介は見上げた。


 九尾は、弱い、完全ではない。


 倒せてしまう。


 人が群れて押し寄せ──吹き飛ばされた。


「……山姫じゃないか」


 と、毛を血に濡らす九尾は荒い呼吸で言う。


「九尾を晒して、無様だぞ」


「言うじゃない。お互い様の分際でね」


 全身を銀の、鋼鉄の皮膚の妖怪。


 否、全身を隙間なく鎧で覆われた『山姥』!


「ふざけるなぁー!」


 激昂したのは──紅雀だった。


 ──。


「姫はどんな風に成りたいの?」


 紅雀が訊いた。


 姫と呼ばれた、紅雀と同じ顔の乙女。


 少しだけ、紅雀よりも女の子っぽい。


「民の為の国にしたい! 美作の国司になるんだ。京の大学寮で学んで、帰ってくる」


 紅雀はため息を吐いた。


「姫がいない間は、代わりは紅雀がしておこうか。母様もいるし、姫が大学寮にいる間、母様が甘い軍方面は紅雀が補佐すれば、大学寮を出る姫くらいにはなれるから」


「うん。他の人には頼めない」


「姫」


「何?」


「世襲しなくてもいいんじゃないかな? 姫、前にも言ってたよな。美作の民なんて──」


「──紅雀。お姉様と、呼んで」


「姉様は、紅雀のほうだから無理」


「もう!」


 ──。


 紅雀の背中に飛びかかろうと。


 紙魚の妖怪が這いずってきていた。


 しかし──。


 大葉介の太刀が、地を削ぎながら跳ねた。


 刃こぼれなど気にもせずに土を斬りながら。


 紙魚の妖怪の柔らかな殻ごと、斬った。


「助かった、大葉介! 軍団兵は何を!」


 軍団兵の槍が、揃えられていた。


 槍先が、紅雀党の山賊に向いていた。


「何を……」


 山賊らが動揺していた。


 前には九尾と山姥だ。


 後ろには離反した軍団兵だ。


 軍団兵を率いたのは、書生だった。

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