狐の想い他人、鬼の詰め指-4
「歩き巫女さま」
樹介が声をかけようとしていた。
瞬間──。
歩き巫女が、『地を踏み砕いた』。
足を振り上げたのではなく、ただ、足に力を入れるだけで泥濘に犯されてはいない、渇いた、固く踏まれていた鶴山の土が、石が、散った。
「……嘘だろ」
と、紅雀が下がる。
歩き巫女の下襦袢の下から、尾が生えた。
赤毛の生え揃った人の身よりも長く、蛇のように左右に揺れ、見る者を幻惑させて、惑わせるだろう動き。
その尾の数は、九つ。
「九尾の獣憑き? 狐か!?」
と、介佑郎は目を開いた。
「九尾の狐?」
と、大葉介は訊く。
「三人の将軍と、一人の陰陽師が退治したと伝わる、白面九尾の者、確か名は、玉藻前!」
「いいえ──名前は、『葛葉』と」
九尾の者、歩き巫女は、そう名乗った。
「山賊だろうが軍団兵だろうが、力があれば充分! それが紅雀である必要なんてないんだから、ここでお前を殺せば残りはどうとでも使えるんだ!」
九尾の葛葉が翔ける。
尾で跳ね上がった。
地を強く打つ。
両足は浮いていた。
だが、尾はしかと地を掴んでいる。
尾の数で六本もが鈍器のように振り落ちた。
紅雀は野太刀を水平に構えた。
刀の峯にも手を合わせ『受け止めた』!
「馬鹿力の、獣風情めッ」
と、紅雀は食い縛った。
刀の峯が彼女の掌の皮を破り血を吸った。
「獣憑きが言う」
と、九尾の葛葉は、尾をさらに落とした。
──爆ぜた。
煙が噴き上がる。
「紅雀は生きているのか!?」
と、大葉介は顔を覆いながら叫ぶ。
見えたのは獣の腕。
獣憑きが進行した九尾の葛葉?
違う、その腕は紅雀の腕だった。
「あの“人”は約束を果たした。一部を取り戻した。なら──彼の望む死にざまの為に」
歩き巫女──葛葉の爪に、殺生石だ。
「そうか!」
と、介佑郎が言う。
「殺生石は、白面の九尾、玉藻前が討たれたとき変化したものだ。九尾同士で共食いして強くなろうと……」
「今はどうでもいい」
大葉介は太刀を構えた。
美作国で幾度めかの抜刀だ。
「……大葉介」
と、大葉介は自分自身に、太刀の刃にうつる者へ、小さく話しかけた。
「樹介も、介佑郎も、もう、別の道を選んで別れてる。お前は、どこに行くんだ、迷子の大葉介」
大葉介は『怪獣』を選んだ。
紅雀党を尾で薙ぐ『九尾』へ挑戦した。




