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透きとおる血-9

「血の臭いに釣られたな」


 と、牛塵介は槍を借りた。


 投げる──悲鳴があがった。


「猿か?」


 と、紅雀だ。


「いや──人間だ」


 と、牛塵介は言う。


 直後にそれは出た。


 どこぞの郎党。


 ……だった者どもだ。


 場はすぐさま戦となる。


 押し寄せる妖怪の武者。


 肩から外れた大鎧を腐った体が引きずる。


 首を失った武者が震える触手を生やした。


 妖怪した人間は一様に、襲いかかってきた。


「おぉ!?」


 薙刀を構えた婆娑羅菅の武者が驚く。


 反りのある薙刀へ正面から、まみえた腐りゆく武者は肉も骨も捨てて刺させた。


「抜けん!」


 異様な武者は、戸惑う婆娑羅菅に太刀を振る。


 顔を狙う剣先が迫る。


 妖怪の武者の首がとんだ。


 刎ねた太刀が、兜鉢の破片を散らす。


「大丈夫!?」


 と、大葉介は息を整えた。


 助けた。


 そう勘違いしていた。


 次の瞬間には助けた婆娑羅は、顔面を生きたまま食い千切られていた。鼻や唇は削がれ、皮を無くして、その下の桃色の肉が血を次々と湧き上がらせながら倒れる。


 異形は倒れた婆娑羅に群れバラバラにした。


「よくも姉妹を!」


 と、親族だろう婆娑羅が飛び出す。


 彼女の大袖や胴丸に何本もの矢が刺さった。


 大葉介は、呆けていた。


「今、助けたのに……」


「呆けるな!」


 と、樹介が大葉介の襟を掴んだ。


 押し寄せてくる妖怪から剥がす


 仇討ちを狙う婆娑羅は、妖怪に呑まれた。


 突火槍が一斉に吼えた。


 鉄礫が、肉も鎧も区別なく破壊する。


「僧兵どもの楯になってやれ!」


 と、鷹取が馬上で野太刀を振るう。


 飛翔する矢を叩き落とす。


 何本かは、大袖と胴の隙間に刺さる。


 それでも野太刀を振り回して妖怪を薙いだ。


「樹介、介佑郎、手助けしないと!」


 と、大葉介は、樹介の手を払う。


 大葉介の死角では、介佑郎が襲われていた。


 介佑郎は足が悪い。


 逃げ場など、ない。


 介佑郎が太刀を抜いた。


 助けを呼ぶことはない。


 大葉介の背中を見つめている。


 妖怪が、槌を得物に迫る。


 ──ぐしゃ。


 兜鉢が上から潰された。


 目玉が飛び出し、脳漿と血を流す。


 頭は首を潰してなかば乳までめり込んだ。


「牛塵介様……?」


 と、介佑郎は言う。


「……」


 牛塵介は金砕棒を重苦しくひこずる。


 牛塵介は息を吸い込む。


「大葉介ー!」


 と、牛塵介は声を張り上げた。


「介佑郎を見捨てるつもりか!?」


 戦はすぐに終わった。


 妖怪の手勢は少なかった。


「止めないぞ」


 と、牛塵介は言った。


 軍団兵の槍が、死に損ないに引導を渡す。


 妖怪した武士や獣は次々ととどめされた。


 山姥を除いて、だ。


 曇天のなか、鈍色に輝く肌。


 違う、山姥全身、隙間の無い鎧を着ていた。


 山姥は、厚重ねの包丁を捨てた。


 拳を固めて、迫る──。


 大葉介は野太刀を振るった。


 大葉介は柄から力を抜いた。


 剣速が落ち、山姥へは届かない。


 山姥は受け止めた。


「何をしている! 刀をくれてやるのか!?」


 と、樹介が叫んだ。


 山姥の指が太刀を鷲掴みしていた。


「話がしたい!」


「……話すことはない」


「!」


 山姥は片手で太刀を捻りあげた。


 大葉介は柄を握る手の力は抜いていた。


 しかし『絡めとられて』、回された。


 短い悲鳴──。


 大葉介は背中から叩きつけられた。


「無事か?」


 と、牛塵介が金砕棒を肩に見下ろした。


 呑気で、太陽に影を落とさせていた。


「痛い……山姥は?」


「逃げちまった」


「喋った……あぁ、喋った!」


「そうだな」


 と、牛塵介は大葉介に手を伸ばした。


「山姥と話した」


 と、大葉介は力強く手を引いて起きた。




 透きとおる血〈終〉

「透きとおる血」完結です。

もし本作「鬼国で剣を抜く」を面白いと感じてくださったら下にある☆☆☆☆☆を押して、ご意見、ご感想、お気に入り、いいねを押してくださると幸いです。

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