透きとおる血-8
「昔──戦から逸れてしまった」
と、僧医が言った。
鶴山へ向かう一行と合流する。
その足の中で、僧医は話した。
「不可抗力だった。怪獣の霧に巻かれた。だが……我々の罪はそれだけではないのだ。戦場で残る一族を失い、我々は逃げた。出家し、寺に入り、せめて罪を償おうと僧兵としてふるった。……結果、我々の家を知った朝廷は怒り、一族の者の首が落ちた。僧兵として強訴したのは公家武家ではなく、朝廷の代理である国府の土地だったから」
僧医は足を止めない。
「我々は知った。知って、出家したのだから関与しないと逃げたのだ。自分らのせいではない。縁は切ったのだからと。縁など、切りようがないのにな。婆娑羅に身を落とし、我らを殺す為だけに追ってくる連中がいるほどには、呪いが繋いでいた」
「死ぬべきだと?」
と、大葉介は訊いた。
「死ぬべきだ。より多く救われる。救民と、僧に逃げたのであれば、人を救う為に死ぬことが道理なのだ。身を捧げ、仏への道の一環を試してみよう」
と、僧医……有元は答えた。
有元は、背負っている介佑郎をなおした。
「重いな」
「す、すまん……」
と、介佑郎は顔を染めた。
「否」と、有元は首を振った。
「有元はこれでは足らぬものを殺したのだと」
「……」
「ところで、山姥退治の話はどうなった?」
と、有元は話題を振った。
「検非違使様はその為に来たと言っていたが」
大葉介は、迷いながら口を開いた。
「……山姥と、何も話していないな、と」
有元は「そうか」とだけ、答えた。
樹介が先を指差す。
合流できそうだ。




