透きとおる血-7
一つの鞍と馬、乗るのは三人。
無理をしてしがみついて駆けさせた。
「婆娑羅め、僧兵を殺す気だ! 嘘吐き!」
と、大葉介は介佑郎の背中にしがみついた。
介佑郎は慣れない手綱を捌いていた。
「鎧に足が届いてないんだが!」
「牛塵介様の話なら馬が良い具合に走る!」
と、大葉介が言い切った。
「そんな無茶な」
と、馬に振り回される介佑郎だ。
「あっ、いた!」
列を離れた婆娑羅と僧兵はすぐ見つかった。
「介佑郎、右だ──」
一畳弓大鎧が、走ってきた。
手に得物はない。
だが大袖の肩で馬をひいた!
馬は歯を剥き出しに耐えた。
──が、跳ね飛ばされた。
鞍の三人の検非違使は宙を飛んだ。
転がりしかし、馬がすぐに立った。
荒いいななきと忙しなく蹄で地を蹴った。
「なに、が……起きた!?」
と、泥だらけの大葉介がすぐに起き上がる。
手には太刀が抜かれていた。
大葉介は顔の土を拭った。
一丈弓大鎧がそびえていた。
「なんのつもりだ、鷹取の!」
と、大葉介は睨んだ。
一丈弓大鎧にいるのは、菅党の鷹取だ。
「……」
鷹取は答えなかった。
ひざまずかされた僧兵が念仏をうたう。
手を合わせ、ただひたすらに、うたう。
「鷹取様」
と、大葉介はあらためた。
「なぜですか? 弓大鎧など出してまで」
──そうまでして僧兵を殺したいのですか。
大葉介はみなまでは言わなかった。
起き上がれない介佑郎、樹介が手助けした。
大葉介は、横目で樹介と介佑郎を確認した。
「……私が立たないと」
と、大葉介は、鷹取を睨んだ。
鎧を固めた、巨大な鷹取をだ。
「退かぬか」
と、鷹取は重く口を開いた。
「退きませぬ」
と、大葉介は固く宣言した。
鷹取は、一丈弓大鎧に背を向けさせた。
「魔が差したのだ。許せ。僧兵は解放だ」
と、あまりにも気楽に鷹取は言った。
「納得できません!」
と、大葉介は弓大鎧の背に怒りだ。
「こっちが退くと言った。悪かったな」
と、鷹取は婆娑羅を従えて下がった。
大葉介は走り──回りこむ。
「そうしてまた機をうかがうのですか!?」
「さぁな。だが、お前らが今、意地を張れば、生身で一丈弓大鎧の絡繰と喧嘩だ。死ぬぞ?」
「うっ……」
「退いてやると言っている。破格だろう?」
大葉介は、一丈弓大鎧を見上げた。
太刀が通じるような相手ではない。
大葉介は神代の勇者ではないのだ。
大葉介は唇を噛み締めた。
「絡繰には絡繰が無ければ、喧嘩もできん」
と、鷹取は言った。
残されたのは僧兵と検非違使だ。
「……命をまた、拾われたな」
と、念仏を止めた僧医が言った。
晴れやかな顔というものではなかった。
死に損なった──大葉介は目を背けた。
「死んだほうが良い命はないと信じてる」
と、大葉介は跪いたままの僧兵を立たせた。




