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透きとおる血-6

「介佑郎が僧兵を気にしてる。婆娑羅連中も」


 と、樹介が見上げながら言った。


 一丈弓大鎧の上で、介佑郎が目を細めた。


 僧兵と婆娑羅は離れていた。


 僧兵にやや遅れて婆娑羅だ。


 僧兵の背中を、弓と薙刀だ。


 婆娑羅は僧兵を疑っていた。


 あるいは、いつぞやの二の舞を防いでいた。


「大丈夫そう?」


 と、大葉介は訊いた。


「大丈夫なわけがない」


 と、樹介はこわばった。


 婆娑羅の一団から一騎、でた。


 鞍の武士の手には抜き身の薙刀。


「大葉介が入る! 樹介は他の婆娑羅を!」


 大葉介は、騎馬武者の前に割り入った。


 馬が荒くいなないた。


 手綱が引かれて馬銜に馬首が軽く振られた。


「……」


「……」


 馬首がひるがえることはなかった。


 ただ、その蹄の歩きは、緩やかだ。


 後から婆娑羅の騎馬が来て合流した。


 何事もなかったと、列を守っていた。


 大葉介だけが傍で、後になっていた。


「本音ではないのか。僧兵と婆娑羅は、今でも、婆娑羅は僧兵を殺そうとしているし、止めないのか」


 と、大葉介は唇を噛み締めた。


 そして──大葉介は声を張り上げた。


「僧兵は殺させないぞ! 例え、どんな罪があったと知っても、罪を償う為に殺させはしない。大葉介が見ているなかで、大葉介は決して許さないからな!」


 一人の婆娑羅が、ちらりと、見下ろした。


 言葉をかけることはなくすぐに目を戻した。


「大葉介」


 と、追いついた樹介が言った。


 介佑郎が載せられた一丈大鎧が追い越した。


「関わるな」


 と、介佑郎は大葉介の手を引いた。


「できない!」


 と、大葉介は答えた。


「……そっか。でも、巻き添えになる二人がいることも考えて。検非違使は、三人しかいないんだ」


 と、介佑郎は釘を刺した。


 大葉介は歩きながら一丈弓大鎧を見上げた。


 巨大な絡繰で、人間よりも遥かに、大きい。


「甲冑があれば」


 と、大葉介は目を熱くしていた。


「うぬぼれ」


 と、樹介が指で、大葉介の背中を突いた。


「甲冑は人間が着る物。着ている人間が弱い。大葉介は弱々だ。甲冑を着ても、動かす物がそれじゃ意味がない。逆に、強い人間は、甲冑が無くても着てる」


「何を言ってるの? あっ、牛塵介様」


 と、大葉介は呆れて、話題を終わらせた。


 牛塵介が、少し離れた場所に見えていた。


 紅雀と歩き巫女と一緒の群れにいた。


 一丈弓大鎧が、踏み潰さないよう歩いた。


 その影で、小動物のような人影があった。


 物陰からひょこりと顔を出して見ていた。


「牛塵介と歩き巫女は何かあるのか?」


 と、大葉介は率直に訊いた。


 牛塵介は答えなかった。


 牛塵介は菅党の婆娑羅と僧兵を見ていた。


「気になるのか、牛塵介」


「ん? あぁ、仲良しは無理だからな」


 と、牛塵介は頭を掻いた。


「感情を抑え込んだだけだ。煮えくりかえる心を押さえつける理由があるから、顔に出さないだけだが、小さな切っ掛けだけで、すぐに綻ぶ」


「切っ掛け、ね」


「例えば、僧兵が不当だと思うとかだ」


「よくわからない」


「なんでこんな理不尽に! と、僧兵が怒れば、婆娑羅は一気に沸騰して感情のまま僧兵になった同門を斬り捨てる」


「まさか」


「僧兵は、大葉介が頼りだぞ」


「勝手に任せるな、牛塵介」


「仲は良いほうだろ。任の範疇だ」


「大葉介が、始めたことだが……」


「面倒を見てやれ。大変だろうがな」


「他人事みたいに」


 介佑郎が、樹介の肩を小突く。


「大丈夫なのか」


「成り行きだろ」


「だとしても……」


「どの道、どうにもならん」


 と、樹介が吐いた。


 一丈上から見守っていた介佑郎が見ていた。


「まったく……」


 と、牛塵介は馬を降りた。


 同じ視線。


 それにしては高すぎる牛塵介だ。


 だが、介佑郎に少しは近づいた。


「良いことを教えてやる。お前らはきっと、山姥退治を見失って、自信を無くしているだけだから──人を助けてこい」


「人?」


 と、大葉介だ。


「誰?」


 と、樹介だ。


「介佑郎も混ぜろ!」


 と、一丈弓大鎧の手で介佑郎が降りてきた。


 牛塵介は介佑郎を馬に抱き上げ載せた。


 手綱を引けば、同じような歩く速さだ。


「鷹取と僧兵……僧医の有元が消えた」

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