表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/72

餓鬼にいたる病-9

「気まずい空気だな」


 軍団兵、紅雀党、菅党。


 お互い距離を空けて歩いた。


 誰も彼も、疲れている顔だ。


 足を深く泥に沈め掻き分けた。


「予定ではもうすぐ村です」


 と、牛塵介は伝えた。


「鷹取様です。紅雀様、仲良くしてください」


 馬上の人、鷹取は不機嫌を隠さない。


「左腕は痛むか?」


 と、牛塵介は訊く。


 鷹取は手綱を引く左腕を隠した。


 金砕棒を籠手越しに受けた手だ。


 牛塵介はため息を吐いた。


 得物の金砕棒で牛塵介は自分の肩を叩く。


「お互い『多少』数を減らしたが、なぁにこれからでしょうが。楽しみに来たのなら、辛気臭い顔はやめましょうよ」


 牛塵介は懐に手を入れた。


 小柄、小さな刀に触れた。


「苫田の村が襲撃された」


 人と馬の足がまた進み始めた。


「婆娑羅菅は僧兵を討ちたい。紅雀党は国司を探し出したい。ついでに検非違使らは山姥の首が欲しい」


 と、牛塵介は指折り数える。


「どれも頭数がいる。仲良く頼みますよ」


 重い空気を押して牛塵介は言った。


「お前は──」


 と、鷹取が言った。


「──何が目的でいるんだ」


 牛塵介は少し目を動かした。


「二度起こらない事象の先取り」


「意味がわからん」


「鷹取様は、神様信じますか?」


「神はいるだろ」


「まあ、います」


 と、牛塵介はあっけらからんだ。


「嵐、川、雷、疫病、気狂い、悪霊」


 牛塵介は指折り数えた。


「神という名前を与えて、仕方がない、諦めようとした現象に神という名前を与えてしまった。仕方がない。たったそれだけの理由で」


「牛塵介は神が嫌いか」


「好き嫌いではなく、高天ヶ原にいない、下界の神なんて、どうしようもない神だけです。隕石と共に落ちてきた舟、それに乗っていた神擬きの抹殺が、一番わかりやすいでしょうか」


「神殺し。優男なのに剛毅なもんだ」


「疱瘡食いの狐とも仲良くできそうです」


 紅雀が、馬を寄せてきた。


「国府では蠱毒魘魅の儀式がされていた」


「何かが、毒として生まれたのでしょう」


「食ったのは国司と思うか?」


「牛塵介に訊きますか、それ」


 と、言いつつも、牛塵介は続けた。


「山姥は酷い名前だと考えます」


「非人の姫どもと何をたくらむ」


「神を殺すには、鬼が必要でしょう。かの八岐大蛇の御息女には、酒呑童子がいるとかいないとかですし」


「鬼の国か」


「備州もまた、鬼にされた国でしたので」


「親近感?」


「ちょっとは」


「その神殺し」


 と、紅雀は前を見たまま言った。


「紅雀党も手を貸すから、まだいてくれ」


「離れたら困るでしょ、紅雀様」


「……ふんっ」


 と、紅雀は馬を小さく駆けさせた。


 寄せていた彼女の馬が遠ざかった。


「紅雀と牛塵介はどんな繋がりがあるのだ」


 と、鷹取は不思議そうだ。


 牛塵介は、


「そんなことより紅雀様と鷹取様がお近づきになるほうが、今後の都合が良いと考えるぞ」


「どういう意味だ?」


「国司を追ってるだろ、紅雀様」


「紅雀党が反国府ということくらいは知ってる。いかに、婆娑羅と言えども耳が無いわけではない」


「国司は何をして、紅雀が怨んでいるかは?」


「……」


「国司様が、普通以上に優しかった。優秀だった。何せ、切り捨てて、正義のあるほうを選択していると言えたからだ」


「それで?」


「紅雀は切り捨てられた側だ」


「……なるほどな。高貴とはそんなものだ」


「鷹取様も、理解されないことがおありで」


「幾らでもある。正義に縋るのは軟弱だな」


 とはいえ、と、牛塵介は見つめた。


 龍穴から吹き出す力が燐光を出した。


 一丈もある弓大鎧が力を吸っていた。


 噴き昇る力に支えられ人を振る舞う。


「これは人間の限界だな。次の舞台に移ろう」




 餓鬼にいたる病〈終〉

「餓鬼にいたる病-9」完結です。

もし本作「鬼国で剣を抜く」を面白いと感じてくださったら下にある☆☆☆☆☆を押して、ご意見、ご感想、お気に入り、いいねを押してくださると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ