表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/72

餓鬼にいたる病-8

「人間に成功する道だぞ?」


 と、樹介は山姥討伐にこだわった。


「検非違使を貰った。使命を貰った。両方を使えば、人間に成れる道を貰った。それを手放すのか」


「身に余る山姥ではなくてもいいでしょ?」


 樹介と介佑郎の話は平行線だ。


「そもそも」


 と、介佑郎は言った。


「山姥は、どこの誰を襲っているんだ。僧兵は襲った。だが僧兵が犯した罪を清算しにきた、菅一党の、凄腕の下手人なのではないか?」


 だったら、と、介佑郎は睨んだ。


「内輪揉めに首を突っ込んだことになる」


「だからどうした?」


 と、樹介は、介佑郎をくだらないと笑った。


「山姥討伐人間と言わせる。その為に、菅一党の騒動に嘴を入れても、検非違使には利があるだろう。知っていれば便利であれ、知ったからと手を引く理由にはならない」


「介佑郎は、山姥から手を引くべきと考えだ」


「樹介は、山姥討伐を続け、完遂するべきだ」


 介佑郎と、樹介の意見は割れた。


「大葉介は──」


 介佑郎と樹介が目を丸くした。


 しかしすぐ瞳は縦に細まった。


 大葉介の目を、真っ直ぐ見た。


「──人間にも、妖怪にも、剣を抜いた。あまりに気安く、正義だとしか考えなかった。この僧兵のように、踏み躙った何かを気がついていないだけかも……」


 と、大葉介は、太刀の柄を握った。


「山姥を見極めたい。命を賭けてくれ。真に、討つ覚悟がいる敵か、あるいは、踏み躙ってしまった何かなのかを、大葉介は見極めたい」


「……」


「……」


「面白い話をしてるね」


 いつのまにか歩き巫女がいた。


 当たり前のように、隣へいた。


「山姥の話をしてる」


 と、巫女は大葉介を指差した。


「そういえば、歩き巫女様て山姥を知っているような話をしていましたよね」


「知ってる。凄い知ってる、神様だし」


「神……」


「牛塵介曰く、相対的には、だけどさ」


「相対的?」


「人間と比べればということだよ」


「まあ、確かに」


「山姥は特定の人間を殺してまわってる。それが、山姥の使命だ。悪いやつを殺してるわけじゃない。意味もなく、殺しているわけでもね」


「待って! 巫女様は、話を進め過ぎてる」


「牛塵介様から何を教わったの?」


 と、歩き巫女は訝しげだ。


「何も伝えられていないか」


 歩き巫女は察して、続けた。


「始まりは、何百年かくらい前の後白河上皇の時代が始まり。武家や公家が分割して日本を支配するのではなく、日本という国を築こうとした」


 確か、と、介佑郎が挟んだ。


「鎌倉幕府と天皇の軍団の戦だ」


「そう。武家と天朝の激突。後白河上皇の代では、軍団は弱体化していて、京で負けた。後鳥羽天皇ら、そして、後醍醐天皇の代ではついに武家ではない力が強く、鎌倉幕府を倒した。建武の新政も、夢想が過ぎて危うさがあったが、大秦の書物でよく均衡を保った」


「吉野と京で割れたぞ。良く、などはない」


 と、樹介は反論した。


「巫女に言われても困る」


「うっ……確かにだ」


 樹介は尻すぼみした。


「強力な軍団を持った。ただし、国ごと、国府が、国司が管理する権力と権威であるし、武家と名前を入れ替えたくらいの違いだった」


「美作の国司は?」


 と、大葉介は訊いた。


「いいね」


 と、巫女は微笑んだ。


「美作国内には、北条家の土地があれば、寺院の土地も混ざり、国司の手が入らない場所は幾らでもあった。美作は、その実、穴だらけだ。国司の手というよりは、小さな人間の限界だ」


「国司は今、いない。どこに行った」


 と、介佑郎は訊いた。


 大葉介は、小柄に触れる指が震えていた。


「鬼になった。喰らい、強い存在へ転生した」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ