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餓鬼にいたる病-5

「やっと触れてくれた。ではではしんぜよう」


 と、訊いてもいないのに歩き巫女だ。


「昔、昔、ある所に一匹のそれはそれは大層に美しい赤毛の美狐がおった」


 歩き巫女の話を邪魔する者はいなかった。


「美狐て」


「やかましい」


 と、歩き巫女はぴしゃり。


「美狐様は大陸の遥か彼方から海を渡って日本へと来た。何せあちこちで追い出される悲しい獣であった。


 獣はしかし数々の悪行へ身に覚えなどあろうはずがなかった。清廉潔白、赤毛にかけて、鳥の卵や幾らかの物は盗んだかもしれないが、それはそれで、国総出で終われる筋合いは無いのである。そうして罪無く追いに追われて、陰陽師と三人の将軍の手で遂には射抜かれてしまった。


 しかし!


 話はここでは終わらない。なんと美狐様が追われていた理由と言うのは、白面の玉藻前という尾の多い狐と間違えられたからだったのだ! 否、間違えられたのではなく、玉藻前が『討てなかった』ゆえに適当な狐として選ばれたのだ。これには温厚誠実な美狐様も怒り狂い憎悪怨念ものであった。狐違いで命を盗られたと知った美狐様は地獄から這い上がっては悪霊のごとく振る舞って災いを根付かせていくのであった。


 人違いならぬ狐違いとはいえ、己の言葉の意味、裏付けなくして振りかざす正義など百の害よりも邪悪という教訓じゃな」


 何か他に面白い話あるか?


 とは、腕組み僧兵の言葉。


「おい!」


 歩き巫女、怒る──!


 だがかえりみられなかった。


 柱に縛られたまま暴れた。


 今逃げる気配はなかった。


「退屈?」


 と、大葉介は笑う。


「樹介もだ」


 と、樹介は言った。


 片目では大いに賑わう僧兵らだ。


 村を襲った『大怪獣』を倒した。


 今まさにの伝説的な戦いの自慢。


 検非違使たちは口には出さない。


 歩き巫女はもう少しだけ露骨だ。


「つまらない!」


 と、へそを曲げてしまう。


 大葉介が苦笑している。


「巫女様、何か話しましょうか?」


 と、大葉介は、樹介と介佑郎を手招き。


『退屈』なのは同じだ。


 一丈弓鎧での怪獣退治のかたわら。


 四人、検非違使と歩き巫女が寄る。


 空気に馴染めない外様ではぐれもの。


 その寄り合いではあるが、悪くない。


「何か別の話でもするのか?」


 と、介佑郎が訊く。


「まったくだ! 山姥の一番槍だったな」


 と、僧兵は介佑郎を指差した。


 足を噛まれて歩けない介佑郎を囲った。


「お前ら、もっと敬意をもて!」


「先の一番槍様へもっと敬意を!」


 野蛮なままに肩を組んだ。


 僧兵が『面白い話』に聞き耳を立てた。


「えぇいならば一つ!」


 介佑郎が目を泳がせなら語る。


 ──結果。


「面白くないぞ下手くそー!」


 介佑郎は長巻こしらえの千巻に帰った。

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