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餓鬼にいたる病-4

「震天雷と言うのか?」


 と、大葉介が僧兵に聞いている。


 樹介は聞いて慌てているようだ。


「なんだ?」


 と、大葉介は木枠と紙の筒を持っている。


 一抱えはある大きなものだ。


 大葉介は木枠を掴んで振る。


「わぁ!?」とは、樹介だ。


 隣では、野太刀の柄を巻いた介佑郎。


 おおいに眉間を寄せてしかめている。


「お前は触るな!」


 と、樹介は震天雷を取り上げた。


「大葉介には突火槍とか、震天雷とか、火箭とか油壺など火が当たると炎を吹くようなものを与えないでいただきたい」


「むぅ、気をつけよう」


 と、僧兵は「確かに」と下がった。


 樹介の奪った震天雷を抱えてだ。


「震天雷は火の薬が入っていて、紙包みの中が燃えた瞬間、瞬く間に炎を吹いて鉄礫を撒き散らすんだ。乱暴に扱うな馬鹿!」


「大葉介、馬鹿じゃない!」


「野太刀に千巻してろ!」


「もうできてる」


「馬鹿は手先が器用だなぁ!?」


「イテッ」


 と、一番不器用が言った。


 介佑郎の指から血が滲む。


「……うるさい」


「すまん」と、樹介は頭を下げた。


「軟膏を塗ろう」


「いらん。すぐに止まる」


 介佑郎は切れた傷を口に含んだ。


 含んだまま、介佑郎は言う。


「山姥退治に使える道具は何がある」


「野太刀が一振りずつ」


 それと、と、大葉介が続けた。


「僧兵の薙刀、火槍、震天雷、火を吹く油壺、大小の刀に、槍もある」


「槍?」と、介佑郎だ。


「薙刀みたいだけど、脇差みたいに刃が小さく、薙ぐのではなく突いて使う」


「山姥相手にゃ、殴るよりも、肌を貫くほうが良いかもわからんな」


 ──地響き。


 降り続く雨でできた水溜まりが、跳ねた。


 誰もが、巨大な何かへと顔をあげて見た。


 恐るべきなのに、驚いている者はいない。


「僧兵の一丈弓鎧だ」


 と、介佑郎は声を弾ませた。


「大きいのが好きなの?」


 と、樹介は訊いている。


「話してなかったか?」


「初耳だ」


「大百足を退治した伝説がかっこよくてな。三丈弓鎧の巨大な弓で、山程もある百足を射抜くんだ。あとは、大鬼との戦いとか。百足退治、鬼退治、悪鬼怪獣を討つ話には、いつも鎧があった。人間技ではないから鎧あってこそだろうけど」


「山姥退治にも三丈とは言わずとも、一丈の鎧があれば、介佑郎も山姥を相手に遅れを取らなかったかもな」


「いや──」


 介佑郎の指先の血は、止まっていた。


「──きっと、鎧があっても同じだった」


 野太刀への千巻を介佑郎は再開した。


「山姥に病に、鎧だけじゃどうにもならん」


 と、介佑郎は小さくこぼした。


「……足も動かないしね」


 介佑郎の言葉は、ほとんど聞こえなかった。


 樹介と大葉介は介佑郎とは逆に上を向いた。


「僧兵の話では巻貝の怪獣が出たとか」


「よく撃退できたものだな」


「だから、一丈弓鎧は壊れて、山姥相手に間に合わなかったわけだ。悔しがってたぞ」


 介佑郎が聞き耳遠慮立てて、唇で小さく笑うが、表情そのものは平静に努めていた。


「暇なら歩き巫女様と話してみればいい」

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