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偽勅令と死に損ないと犬-9

 夜明けまで、まだ、刻があった。


 三人の検非違使が寄り集まって、話した。


 うめいていた僧兵はとおに静かになった。


「山姥と、地滑りで入ってきた妖怪どもの襲撃で僧兵は数を減らした。山姥が一丈以上の弓鎧が必要な怪獣だともわかった」


 だが、と、樹介は続けた。


「山姥は小さな怪獣だった。少なくとも検非違使では太刀打ちできない。僧兵の協力があっても同じ。で、僧兵と俺らを繋いでいるのは、樹介の裏切り──」


「おい」と、樹介は複雑な顔をした。


「──で、殺生石云々だ。国府の軍団兵や国司に知られたら“こと”だが知られてはいない。検非違使も軍団の元締めである兵部も、更に上では一応、繋がってる。遠縁の親戚くらいのよしみで、国府に検非違使が入れたからな。京と吉野の南北に朝廷ができたことで不安定だからこそというのもあったかも」


「本物の検非違使の骸を拾って、深編笠に刀一本で助言を受けられたのはツキがあったが……」


「今、必要なのは僧兵との協力。山姥を倒すにも移動するにも、僧兵は欲しい。というよりもなによりも、反感を覚えられるとまずいからおとなしくするべき。必要なのは殺生石だ。取りに行くか? 国府に」


「紅雀党も僧兵と通じている」


 と、樹介が継いだ。


「殺生石を持ってくる手筈だ」


「仮に、『悪党』が殺生石を持ってきたとして、僧兵は万歳だろ。検非違使はようなし、ありがとう、さようなら」


「いや違う。我々は約束した。国司不在の国府へは、軍団兵の判断で検非違使を招くと考えて中をあらためるから、殺生石についての情報を渡す代わりに、山姥討伐の力を貸してくれると」


「……初耳だ」


 と、介佑郎は続けた。


「樹介。僧兵は、『俺らを殺せば』、約束なんてなかったと、山姥なんて面倒を背負いこまずに寺に帰れるんだ」


「そうだ。殺生石が紅雀党の手でやってきて、『生き延び』、僧兵は山姥討伐に手を貸して、山姥討伐を成せば……成功する! 凡下でも、地下でもなくなる──」


「──俺が犬に噛まれたとき──」


 足が痛み、介佑郎は顔を歪めた。


 ただ、静かに、介佑郎は言った。


「──介佑郎を見捨てたな? お前は遅かった。鞘を拾ってた。理由を作って……お前はいつもそうだな。大葉介を走らせて、確認してから呑気にやってくるのがお前だった」


「何を言っている、介佑郎」


 と、樹介は困惑していた。


「成功と言ったな。『手駒』を見つけて、勅令を利用して、介佑郎を便利な駒として使った」


「ち、違うぞ介佑郎、誤解だ」


「国府に紅雀党を手引きした。裏で僧兵と殺生石で手を結んだ。介佑郎と大葉介が犬に襲われたとき、わざと遅れて傷を避けた。お前は……同じ仲間なようでいつも、使い捨てに、利用する考えだろう?」


 と、介佑郎が言う。


「信用できん」


 と、介佑郎は断じた。


「大葉介も言ってくれ。介佑郎が誤解した」


 と、樹介は、大葉介に助け舟を頼んだ。


「山姥を討伐するまでだ」


 大葉介の目は冷たい。


「山姥は、山陽道で狼藉を繰り返した。討たなければならない。今は、足利軍が美作に入り、大葉介ら検非違使が、検非違使を名乗ったのであれば最後までやらなければならない」


 それが、と、大葉介は続けた。


 大葉介は固く、固く目を閉じた。


 眉間にはシワだ。


 深く思うものを全て呑んでいた。


 樹介は何かを言いかけたが、胸にしまった。


「大葉介が決めた、正義だ」




 偽勅令と死に損ないと犬〈終〉

「偽勅令と死に損ないと犬」完結です。

もし本作「鬼国で剣を抜く」を面白いと感じてくださったら下にある☆☆☆☆☆を押して、ご意見、ご感想、お気に入り、いいねを押してくださると幸いです。

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