禁色を編む鎮守軍団兵-7
「あら! お忍びの逢い引きですか?」
と、百足の耳飾りの官人が言う。
「牛塵介様、大葉介様とはやはり、検非違使繋がりでしょうか? 牛塵介様は元とはいえ、検非違使の放免をやられていましたものね。おほほー、お仕事に帰りますことよー、ごゆっくり!」
と、官人は、にしし、と、口に手を当てながら、もう片方の手で牛塵介の尻の割れ目に手を沈めた。
「おふ、柔らかい」
「おたわむれを」
「牛塵介様がいると日々の癒しね」
「聞いてないし、まったく……」
百足の耳飾りの官人は嵐のように去る。
だが、同じように、牛塵介の体に触れていく女性は数多く、官人だけでなく、鎮兵や、中には商人の娘までがやってきた。
「牛塵介様は人気なのだね」
と、大葉介の声に呆れが混じる。
「顔が広いのだ、牛塵介は」
大葉介は、ハッと目と口を開く。
「……もしや、下品な話か」
牛塵介は苦い、困った笑い顔だ。
「大葉介様を、樹介様と介佑郎様が待ってる。早く行ってあげろ。生きて帰れないだろうと心配していたかもしれん。安心させてやるのだ」
「うっ!? 無理を言って、無視して飛び出したからな。それはそうだ。では、行ってくる」
と、大葉介は廊下の二人へと駆けた。
樹介と介佑郎は、大葉介を探している。
慌ただしく、軍団兵を掻き分けていた。
大葉介は真逆に廊下を走っていってしまう。
「黙ってついてきたわけか」
と、牛塵介は天をあおいだ。
「倒幕を狙った北朝は初動で負けた。九州で再編する足止めに備州を選んだが、誰が謀ったのやら、怪獣に山姥にと不安定かつ、美作国、備前国、備中国、備後国の軍団兵の動員は済んでいる」
秋が迫っていた。
風向きが変わる。
冷たく、嵐の予兆だ。
「後鳥羽上皇から、二度目の敗北か。否──」
彼岸花が咲こうとしていた。
「──三度めだ。時代は変わるのだな」
大葉介が戻ってきた。
「助けてくれ牛塵介ー!」
大葉介の後ろから、犬だ。
野犬ではない。
犬は首から縄を引きずる。
さらに後ろから鎮兵が追ってきた。
「おっと、ワン公、それまでだ」
大葉介が牛塵介の隣を、駆け抜けた。
同じく犬も通り抜けようとして、捕獲だ。
牛塵介の腕のなかで小さな猛獣が暴れた。
「助かった……」
と、大葉介が胸を撫で下ろす。
犬が縄を引かれて連れて行かれるのを見ていた。
「犬によく吠えられるな」
「牛塵介は吠えられないのか」
「番犬には吠えられるがな」
「犬は嫌いなのだ、大葉介は」
「犬もそう思っているようだ」
「犬畜生めッ」
と、大葉介は吐いた。
「元気になったようだ」
「大葉介は猫のが好きだな」
「牛塵介も、猫も好きだ。狸も」
「狸……」
と、大葉介は嫌そうに顔を寄せた。
「狐のほうが可愛らしいだろ」
「狐は化かすからなぁ」
「なぜだ!? 美少女だ」
「騙されるのは、好きではない」
「──ッ」
「一晩中、働いたろ。もう寝ろ。国府の中なら、夜までは大丈夫だろう。守られてる」
と、牛塵介は大きくあくびした。
誘われて、大葉介もあくびする。
「話の続きは、夜の暇なときにな」
と、牛塵介は言いながら屋敷へ歩く。
そこで急に足を止めた。
「大葉介は、検非違使に事を話すのが先か」
「牛塵介も来てくれるよな?」
「忘れたか。介佑郎に殺される」
「そんな!?」
検非違使の声が聞こえてきた。
大葉介を見つけた、樹介と介佑郎だ。
牛塵介はそそくさと屋敷の女人を捕まえた。




