禁色を編む鎮守軍団兵-6
庭では、一丈弓鎧が膝をついていた。
絡繰道に明るい国府の者が修理する。
分厚い木の鎧を外した。
鎧の肉を穿った、巨大な鏃を解体する。
「おぉ、牛塵介様!」
と、国府の官人が親しげに言う。
鮮やかな赤い髪を揺らし、手を振る。
袖が捲れていた。
大葉介は訝しげ。
「雑戸様! 絡繰でお忙しいのでは?」
と、牛塵介は親しく返す。
「凶賊相手に不甲斐ないからな!」
「軍団兵らの面目もありませんな」
「お前の話だよ、お前の、牛塵介」
こつ、こつ、杖が牛塵介を叩く。
「ここに脳みそ入ってますか!?」
と、雑戸が言っていた直後だ。
──激音。
雑戸が頭を抱えてうずくまる。
まるで、割れたかのようにだ。
硬すぎる握り拳の、市女笠の女性が立つ。
「書生様……」
と、牛塵介は漏らす。
「お出かけで?」
「えぇ」
と、書生は市女笠の傾きをなおした。
しなやなに五指が動き、百足の足のようだ。
「そちこそ、どこぞへ?」
「凶賊退治を」
と、牛塵介は言う。
大葉介の目が、牛塵介と書生の間で泳ぐ。
「鎮兵どもが行った件であるな」
「えい。ここの、大葉介と共に」
「書き記しておこう。ありがと」
と、書生は表情を崩す。
「怪我が無いようで何よりじゃ」
して、と、書生は続けた。
「知りたいことはあったかい?」
「三石城の北朝は落ちたらしい、と」
ほお、と、書生はわざとらしく驚く。
「南朝は呑気に攻めていたとばかり」
「痺れのきれた天朝麾下の衛士らです」
「天朝様がみずから。五十がくるのによくやる。お迎えの準備が必要かもしれませんね」
書生は官人に耳打ちした。
官人は忙しなくどこかへ走る。
「それでは、書生はお暇を。大葉介様」
「は、はい」
と、大葉介の体はこわばった。
「牛塵介様と充分に休んでください。食事や、褒美の手配を書生の口から確認しておきましょう」
「ありがとうございます! 書生様」
書生は目を細めて、牛塵介を流し見る。
「何も言うな」
「だらしない男」
「……書生様は違うからな。姫様だ」
「姫ねぇ」と、大葉介は市女笠の背を見た。
「書生であろうに」
「豪族もな、政がある」
「山姥を山姫とも言っていたな、牛塵介様は」
「よく覚えておられで」
「指のやらしい動き──」
と、大葉介は続けた。
「書生はさしずめ『百足姫』か……どした?」
と、大葉介は不安な顔に変わった。
牛塵介がギョッと驚きでこわばっていた。
「百足姫か。もしかすれば怪獣だな」
大葉介が安堵された顔に戻った。
「きっと八岐大蛇より巨大だ!」
「山も谷も川も“またぐ”大きな女でな!」
大葉介と牛塵介は笑う。
「品が無いぞ?」
大葉介は鞘の鐺で突いた。




