禁色を編む鎮守軍団兵-3
「見えたぞ」
月が天頂に登っただろう頃。
降り注いでいた月光が雲に呑まれる。
凶賊の村は、川と森に挟まれていた。
川沿いには舟があり木材が積まれた。
森側には背の高い柵が揃っていた。
「木の切り口が新しい。凶賊が村を襲ったのはどのくらい前だったんだ」
と、牛塵介は百長に訊いた。
「およそ半日か一日前。狩りをしていた奴が、捕まらずに知らせてきた」
「軍団兵並みの技術があるぞ」
「攻城戦の盾はこしらえた」
「森が戻るまで時間が掛かる、か」
軍団兵が、残りの具足を着込む。
奇襲に備えた腹当だけではない。
籠手、脛当て、面頰や兜鉢まで。
突火槍にも、火薬と鉄礫を注ぐ。
弓の弦を確認する。
矢を引き出していた。
矢は湿った土に刺していく。
矢の林のように何十本もだ。
「始めよう」
と、軍団の百長が法螺貝を吹かせた。
腹の、臓腑の裏から震えるような音色だ。
到着からほとんど間もなく襲撃を告げた。
「大葉介はそこにいろ」
と、牛塵介は金砕棒を担ぐ。
「牛塵介様、頼みます」
と、軍団兵が次々と牛塵介の鎧を触る。
「ついていくぞ牛塵介!」
と、大葉介が付いて行こうとした。
「ダメだ。待ってろ」
「目の前で戦なんだ!」
「初陣は見てるだけで充分」
「大葉介は行くぞ!」
と、大葉介は駆け出した。
腹当さえ、着てはいない。
兜の緒も締めていない。
脛当ても籠手も外したままだ。
太刀をたった一本持って前へ。
弓取り達よりも前に飛び出す。
村へ次々と矢の雨を降らせる鎮兵が驚く。
牛塵介の足が、大葉介の足を引っ掛けた。
大葉介が飛び出そうとした場所へ足が降る。
一丈弓大鎧が射掛けながら村へ寄せていた。
派手に転ぶ大葉介は顔を擦り剥く。
土を被り、傷からは、血が流れた。
「おとなしくしていろ」
大葉介が無視してふりほどく。
直後、大葉介の頰を平手が打つ。
破裂するような音だ。
大葉介は白目をむいていた。
「……やりすぎたか」
と、牛塵介は唸る。
大葉介が意識を取り戻すのに数拍もなかったが、目を覚ましてからは怯えるように静かになった。
「先に言ってろ、鎮兵の妹たち」
「手柄は総取りしてくるぞ!」
と、鎮兵が村へと総寄せしていく。
牛塵介は、大葉介に腹当を着せた。
「突っ込んでも死ぬだけだ」
と、牛塵介は言い聞かせた。
「想像よりも乱戦になる」
凶賊に支配された村。
掘立て小屋を盾にする凶賊と軍団兵の矢合わせだ。矢が飛び交い、鏃は深々と貫く。
中には──
「大鎧は盾で前へ!」
──弩砲が据えられていた。
一丈弓鎧をも、打撃する、弩砲だ。
槍よりも巨大な矢が大鎧を貫いた。
絡繰の一丈鎧が胸を射抜かれ倒れる。
重々しい地響きと土煙がたつ。
「門なぞ無いのに手間取っているな」
「なに正面は引き付けた。凶賊は多くない。ただの人間と大差はない。鬼になってもいない。村で武士の真似事をしたところで一捻りよ」
と、軍団兵の弓衆は言う。
夜空で交差する矢の数は軍団の圧倒だ。
──雷鳴が轟いた。
塞いでいた凶賊の鎧が弾けて、砕けた。
凶賊が突火槍の放った礫により倒れる。
大袖には何本もの矢を浴び、折って防いでいた鎧が、一撃で貫かれ臓腑をこぼす。
「蹴散らせぇい!」
と、軍団の百長らが、野太刀で斬り込む。
刀が、微かに降り注ぐ月光できらめいた。
肉と鉄が激突するすぐ後ろ。
頭領である凶賊が見上げる。
一丈弓鎧の足裏が踏み潰した。
「怪獣が出たぞー!」
──ドンッ。
村奥で蔵は吹き飛んだ。
内側から何かが破壊した。
巨大な、怪獣……。
凶賊らが歓声をあげた。
軍団兵の足が止まり、下がる。
瞬間──。
一丈弓大鎧から巨大な矢の飛来。
鏃は一撃で怪獣を射抜き、土蔵をも抜いた。
怪獣は倒れ、凶賊の心は折れて、降伏した。




