禁色を編む鎮守軍団兵-2
大葉介の足が遅れていた。
重い鎧が肉にのしかかる。
大葉介は夜陰に足を間違えた。
倒れかけた大葉介を牛塵介が支える。
「平気か?」
と、牛塵介は言った。
地を見る大葉介。
隣を軍団兵が歩く。
「鎧を脱げ。大鎧は重い。草摺も長いからな。まだ大丈夫だ、これも脱げ。なんで鉄兜を被っているんだ。額当てを巻いてやったろう」
「軍団兵の連中が、被っておけと……」
牛塵介は紐を緩める。
大葉介を腰掛けさせた。
「ハゲになるぞ」
と、牛塵介は兜の緒を解く。
汗ばんだ臭いがこめていた。
気がついた大葉介が嫌がる。
牛塵介は大葉介の足を取り、脛当てを外す。
「軽くなる。少し楽だ。背負うぞ?」
「やっ、平気だ」
と、大葉介は全力で首を横に振る。
その顔は真っ赤で、耳まで染めた。
「遠慮するな。凶賊と戦う前に疲れるぞ」
牛塵介は軽々と大葉介を背負う。
大葉介の片手で尻を掴み支えた。
大葉介は慌てて、牛塵介の肩を持つ。
牛塵介は残る片手で具足や兜を鷲掴んだ。
紐を通して首に掛ける。
大葉介の刀も、同じだ。
「面目ない」
と、大葉介は堪忍した。
脇から前に回した大葉介の足。
少しだけ、皮が破れていた。
「気にするな。足に薬はいるか?」
と、牛塵介は頑健な足取りで軍団兵に続く。
大葉介を背負い、具足も首に掛けていた。
「大樹に登っているようだ。安心感がある」
とは、大葉介だ。
「国府にいたほうがよかったのでは?」
絡繰の大鎧が、大股の足を落とした。
一丈もある絡繰の肩には継ぎ接ぎの槌。
重く、巨大、若い木からは、まず切り出せないほどの物が、舟を組むように木釘で、槌として作られている。
背中の背負い子には、食べ物や水、矢もだ。
「凶賊だ。見逃せるものか」
と、大葉介は続けた。
「正しさを信じたい。自分のできることも」
「……牛塵介の背中より前にはでないでくれ」
「役には立てるはずだ」
「軍団兵に任せておけばよい」
大葉介は答えなかった。
「凶賊と戦う経験は?」
と、牛塵介は新しい話の種を蒔く。
「……無い」
「一度もか。運が良い」
「狩人となら揉めたが」
「縄張りでも荒らした?」
と、牛塵介はからかう。
「獲物として狙われた」
「“人狩り”と思っておこう」
牛塵介は、大葉介を背負いなおす。
「……本当に平気か?」
「額に汗が浮かんだら降りてもらうさ」
「まだ大丈夫そうだな」
牛塵介が笑う。
「ぞんがい図々しい。そうだ、使え」
と、牛塵介は強い足で踏み出した。
「山姥と戦うのだろう? 鬼より厄介だぞ」
「そうなのか?」
「当たり前だ。軍団でも戦えるかどうか。ましてや、たかが人間や、人間に近いのが数人程度ではまるで歯が立たないほどだ」
「……精鋭だ」
「かつて、土蜘蛛らを滅ぼした勇士どもでも、もう少し謙虚だったがな」
と、牛塵介は背負いなおした。
「苦しいか?」
と、大葉介は心配した。
「平気だ。軽い。それより」
と、牛塵介は周囲を警戒する。
「怪獣が来ないよう目になってくれ」
「怪獣? 妖怪とかではなく」
と、大葉介はしかし言われたとおりにした。
夜を透かすために丸い瞳を大きくしていた。




