美作鎮守将軍国司-9
大葉介はうずうずしていた。
「もっと話したい!」
と、お話をせがむ。
「源左衛門尉義経は?」
「後白河法皇について鎌倉を西面武士と東面武士に割り、後鳥羽上皇の代での軍団兵と東部の武家との合戦と時代の連続、その発端の女だな」
「源平合戦で活躍した戦の天才でいいぞ」
「承久合戦には参加していないが、武家を監視する六波羅探題の建設、律令制の健児らへと回帰した軍団制度を作る直接の切っ掛けという意味では、鎌倉を揺らした、源氏と平氏の合いの子の一族を作ったことには特筆に値する」
「山姥と関係ある?」
「鬼のような女であったろうな」
「人間なのに鬼がかりなどあるのか」
「純血の鬼など今日日どれほどいるやら」
「左衛門尉は鬼の純血だったのか」
「まさか。英雄であり、ただの人間だ」
「日本を割る手先の鬼がかりなだけね」
「日本を揺るがしたのは間違いない」
「鬼擬きの話は広がるのだろうな?」
「源平合戦の折、山陽道を使い西国の奥へと、西へと、源氏の徒党は進んでいた」
「牛塵介。山姥の話だけを聞きたい」
と、大葉介は続けて言う。
「大葉介に、無限に時間があるわけではない」
「源義経は源平合戦の後の視点があった。後白河法皇と、兄である源頼朝との板挟みで殺されるだろうとな。手助けがいるだろう?」
「歴史では──」
「──西国へ、鎌倉幕府から送り込まれてくる監視の地頭の存在を吹き込み、鎌倉殿の東面武士へ対抗する西面武士を掻き集めた。それだけなら、武家の力が強い時代だった」
「待て。日本の軍団兵は、武家を弱体化させたはず。聞いていれば、武家同士の合戦ではないか」
「武家て、邪魔だと思いませんか?」
と、牛塵介は言う。
「権威と権力の暴力装置。日本の民から、独立した武力の一族。健児の姉妹とは言え、軍団兵にとっては、鎌倉の武家政権は邪魔であり、割くことに協力的だった」
「美作国も関わって……」
「歴史の授業はここまで」
廊下から足音だ。
見廻りの鎮兵だ。
牛塵介と大葉介へ気がつき、手を振った。
牛塵介も手を振ることで答えた。
手を下げずに牛塵介は言う。
「自分達が奪った物が、より不幸になったとき、大葉介様はどのように責任をとれるか考えたことがあるだろうか?」
「牛塵介は結局、何が言いたいんだ?」
と、大葉介は退屈そうに続けた。
「歴史の話ばかりだ」
「ふふっ」
牛塵介は笑った。
「童だな。『乙女ら』だ」
と、牛塵介は、大葉介の鼻を指で押した。
「検非違使ども。それを名乗る、男みたいな童ども。山姥を討つにしても、物を知ってからでも遅くはない」
牛塵介の指が折られる前に指を引き戻す。
「今夜、鎮兵は凶賊討伐に出陣する」
「──山姥なのか?」
「検非違使殿もどうだ?」
と、牛塵介は立ち上がる。
牛塵介は、大葉介に手を伸ばした。
大葉介も、牛塵介の手を掴んだ。
「怪獣は何も山姥だけじゃない。見ておこう」
美作鎮守将軍国司〈終〉
「美作鎮守将軍国司」完結です。
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