美作鎮守将軍国司-8
「美作の国司は、確か……」
と、思い出すように大葉介は目を傾けた。
「そうだ。美作の国学を出た、人間だ。だから地縁も広く、軍団兵はよく纏まり、『将軍国司』と呼ばれていると。鎌倉が地頭を西国に置いたとき、何かと武力衝突を繰り返していた歴史があるが、今の国司は混乱する美作内の地頭を掃討したと問題にはなっていた」
「地頭として形式上、土地の支配者は国府に広く預けられることになっているな」
「……牛塵介様が聞きたいことではないだろう。知っているではないか」
「大葉介様が知っておられるか気になったので。国府は、強い力を持つ支配者なわけだ公家や武家の者が入ることがほとんどなのだが、国学に入れるのは必ずしもそうではない」
「国司は百姓だったか?」
「半分は、だな。村輩としてあちこち、武者狩りには出ていたので稼ぎに武勇があった」
「安泰だろうに、なぜ今は姿をくらます?」
「わからん」
と、牛塵介は呆けた顔だ。
「何を考えているのやらだ」
「女に見境なしの牛塵介様でも?」
「……嫌味で言ってくれるな、大葉介様」
と、牛塵介は渋い顔、目鼻を寄せた。
大葉介は、ふふん、と、鼻を鳴らす。
「聞きたいのだが」
と、大葉介は、ぐいと間合いを詰めた。
大葉介は背の高い牛塵介を見上げる。
「女にだらしないのか?」
「男は、女が好きでは?」
と、牛塵介は逆に訊き返す。
「いいや」
と、大葉介は首を横に振った。
うつむいたまま少し、止まる。
しかしすぐに見上げて、大葉介は言った。
「男は女を嫌う。いつだって、男は少なく、略奪の対象だからだ。血を混ぜる為の道具……産むだけなら、女だけで済むが、血を混ぜるには、男がいる」
「家を繋ぐことのできる道具、だな」
「そうだ」
と、大葉介は左右を素早く見て言う。
「噂を立ち聞きした」
「はしたない」
「ほっとけ、牛塵介」
と、大葉介は小声だ。
「美作の国司は男だ。女の道具から、国司まで出世したが、男であることで耐え難い侮辱を受けて、逃げだした、と」
「根も葉もない」
と、牛塵介は呆れた。
「確信しているな、牛塵介」
と、大葉介が勝ち誇った。
「国司が女だと知っているらしい」
「百人いれば九十人以上が女なのだから、普通は女と考えることが普通では?」
「誤魔化したな、牛塵介は、美作に詳しくはないが縁があると言っていた。話を聞いたことくらいあるのではないか? 国府の鎮兵や官人に知り合いがいて、一度も、国司の話はしたことがないと?」
「勘弁してくれ」
「隠していることはなんだ? 山姥?」
「まっ、ある意味では」
「教えろ。検非違使は、山姥討伐に来た」
「大葉介様らの勅令だものな」
牛塵介は小さくつぶやく。
獣の耳でも言葉を聞きとれないほど速く。
「検非違使が来るのがまずおかしいのだが」




