鏡に映る僕に僕は呟いた「サヨナラ」と。
僕の家には不思議な鏡がある。
普段は大きな布に覆われている等身大の大きな鏡。
多人数で鏡の前に立っても普通の鏡と同様に映るだけなんだけど、1人で鏡の前に立つと平行世界が映る不思議な鏡だ。
布を取る度に鏡に映る平行世界はランダムに変わり、一度映った世界は二度と映ることはない一期一会。
だから今僕が見ている鏡に映っている僕は、初めて合う平行世界の僕。
近い平行世界だと僕そっくりな男の子が映る。
美少年だったり痩せてたりデブだったり、不良っぽいのやオタクっぽい僕が映るときもあるけどね。
だけどチョット離れた世界だと思うんだけど、僕に似た女の子が映ったりする時もある。
女の子として生まれた世界の僕だと思う。
鏡に映る平行世界の僕と僕は鏡の中に音は通らないから、口パクや身振り手振りに筆談で挨拶したり情報交換したりするんだ。
情報交換すると近い世界の筈なのに、僕の世界より文明が進んでいたり逆に遅れた世界があったり、平和で全世界が統一され仲良く暮らす世界があったり、逆に世界中の国々の仲が悪く戦争ばかりしている世界もあったりする。
近い世界でも戦争ばかりしている世界があるくらいだから、多分、凄く遠くの世界だと思うんだけど、滅んでいたり滅びかけていたりしている世界が映る事もある。
何故分かるかって言うと、鏡の前、僕の後ろには大きな窓があってそこから外が見えるからなんだ。
鏡の前に人は居なくて、窓の外に沢山の白骨が散乱している世界。
真っ黒な灰が舞う中で、髪が抜け落ち身体中に鬱血がある痩せ衰えた人達が彷徨っている世界。
雪が降り積もる中、人が人を襲い喰い合っている弱肉強食の世界もあった。
鏡の中の僕と筆談している僕の身体が揺すられ、家がガタガタと大きく揺れる。
地震かな?
鏡に映らない位置にあるテレビを点ける。
臨時ニュースが流れていた。
注国と僕の住む国と同盟している大国との間で、核戦争が勃発した事を告げている臨時ニュース。
僕は後ろの窓の外に目を向け何が起きたのか知る。
遥か彼方にある首都圏の方角に沢山のキノコ雲が立ち上がっていた。
鏡の中に目を戻すと、顔面が蒼白になり悲痛な表情の僕と目が合う。
窓の外に立ち昇るキノコ雲が見えたんだろうな。
だから僕は鏡の中の僕に向けて手を振り、「サヨナラ」って呟いた。