音
「今から、その廃旅館に今から行ってみようぜ」
男友達4人でファミレスに集合して飯を食っていた時、夏という事もあって、怪談話になった。
その時に出てきたのが、ここから車で4〜50分で辿り着く、四国の山中にある廃旅館の話だった。
夜中になると、女の人が歩き回っているとか、子供の笑い声がするとか。よく聞く内容の怪談話だった。
「高校卒業して、車も手に入れたんだし、ドライブがてら行ってみようぜ。夜のドライブにな」
「どうせドライブ行くなら、昼の海辺とかが良かったな」
「彼女か、お前は。どうせやる事なかったんだし、行ってみるか」
「涼太、ビビってんのか?近くまで行ってみて、無理そうなら引き返すか。とりあえず、行ってみよう」
俺以外、全員が何故かノリノリで、廃旅館に行く事になった。
高校卒業してから初めての盆休み。そう、盆休み。盆というこの時期に肝試しは怖すぎる。
◆◆◆
嫌々ながらも、男4人で廃旅館に向かう事にした。車のナビを設定し、暗い山道を進む。
「ここからは徒歩だな」
開けた場所に出たが、この先は細道になっている。ここが駐車場だったのかな?
「マジか。雰囲気あるな」
「おい、やっぱもう帰ろうぜ」
「涼太はやっぱりビビりだな。大丈夫、いざという時は、俺がお前を守ってやるよ♡」
「うるさい!」
暗闇の中、全員が恐怖心を誤魔化すようにギャーギャー騒ぎながら歩いていた。
3分程歩いて、
「…おい、遠すぎないか?まだ着かないのか?」
さっきの場所が駐車場だったとしたら、明らかにおかしい。建物が全然見えないのだ。
「なぁ、俺、さっきから耳鳴りが酷いんだけど…」
「怖い事言うなよ!」
「もう戻るか?きっと道間違えたんだよ。ちゃんと場所確認してからにしよう」
戻ろう。そんな話になってホッとした時、遠くから、『チリーン… チリーン… 』鈴の音が聞こえてきた。
お遍路さんが持っている、あの鈴の音に良く似た音だ。
幻聴?そう思った時、
「おい、何か、鈴の音が聞こえないか?」
幻聴じゃなかった。
『チリーン チリーン』
音がどんどん近づいて来る。
「ゔわぁぁぁぁ!」
一人が叫び出し、奥に向かって走り出した。それを合図に、全員が一斉に走り出す。
『チリーン チリーン チリーン チリーン』
必死で走っているのに、音がどんどん近づいて来る。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
何にかはわからないが、走りながら謝罪の言葉を叫ぶ。
『チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン チリーン』
その瞬間、鈴の音が俺達を猛スピードで追い抜いて行った。
「…え?」
助かった?そう思い、ふと前を見ると、古びた建物が目の前に立っていた。
「あ… 廃旅館… ?」
ギギッ…
軋みながらドアが開く。ドアの奥から、着物姿の女の人が俯きながら近づいて来ているのが見える。
「ゔわぁぁぁぁ!」
叫びながら、踵を返し、元来た道を戻ろうとした時、
『チリーン』
白い服を着たお遍路さんが、俯き立っていた。
『いらっしゃいませ』
ニタリと笑った女が、俺の肩に手を乗せ、背後に立っていた。