姐(ねえ)さん!
原宿にある「LOLA'Sカップケーキ」というお店にて、食べたのですよ。おいしかったです。
って、食レポしたかったわけではないのですが、これからお話する内容が、ちょっと怖いかもしれないんで、ケーキでも貼り付けておこうかなという作者の浅ましい足掻きなのです。
ところで私は先日の投稿「閑話休題」にて、信仰していた宗教団体で借金をこしらえたというお話をしたと思うのですよ。覚えている方はおられますか。
金額としては、銀行二社から五十万円づつ、計百万円。絵画が一枚二十一万くらいだったか、それをローンで購入。宝石が一個二百十万円だったか、それもローンで購入。
あとはチョコチョコ、「○月○日までに、一人○○万円の献金を」などと教会長が泣きながら信者に頼むので、しかたなくお金を出す日もあったのでした。
ちなみにその教団の経済活動は「絵画(数十万から)」「高麗人参(一本八万)」「家系図(数十万から)」「印鑑(安くて一本四万くらい)」「姓名判断」「壺(一個数百万)」「化粧品」「エステ」「銃(他の信者が話すのを聞いた)」「珍味(二千円)」「靴下(二千円)」「ハンカチ(二千円)」「お茶(千円)」「教祖の説教集(一冊三千万)」「悪霊ばらい(数百万)」「結婚式代(百数十万)」「セミナー」「単純に献金を募る」など多岐にわたり、私は販売があんまり上手くなかったので、自腹を切るはめになっていたのです。
そんなわけで私は若いころ、借金だらけでした。
今日お話しするのは、そんな宗教団体での、変わった布教活動のことなのです。先に言ってしまうと、ジャージ姿のやくざ十数名に包囲されたよーん! というお話です。
***
ある日私は教会関係者から名簿を渡されたのです。「この人たちの家に訪問して、パンフレットを配ってきてください。講演会に来るよう、伝えてください」と言われ、わかりました、と返事をしたのです。
それは何の講演会かというと、教会の教祖は北朝鮮出身の人だったんですが、その教祖の奥さんが来日し、講演をするということなのでした。そして、日本に住んでいるコリアンたちに、来るよう呼びかけなさいという事だったのです。
さて、渡された名簿を見て私は、おやと思ったのです。それは、コリアンというけれど、出身地によって所属機関が違うことに気が付いたからでした。いわゆる「北」出身の人は朝総連、「南」の人は民団、といった感じです。
それで、いつもお世話になっていた近所のおばちゃんは民団なんだなあ、とか呑気に思いながら、指定された家を回り、パンフレットを配ったのでした。
「あんた何でうちが民団だって知ってるの」と聞かれたりするので、「私は○○教会の者で、南北統一のための講演があるのでお知らせにきました」と正直に答えました。するとそれを聞いた人は、何とも言えない表情で、パンフレットを受け取ったのでした。
たぶん、何で日本人がそんなことするんだろう、と思われたんだろうな。
そんなわけで数日後、私は自分の担当した地区をあらかた配り終えたのでした。そうしたら、仲良くしていた美佳姉さん(仮名・韓国出身)が「一緒にパンフレットを配ろう」というので、ある日二人で出かけることにしたのです。場所は、とある温泉街がある地区でした。
「たしかここで合っているはず」
「入口が見当たらないですね」
美佳姉さんと二人、名簿の住所をぐるぐる回ったのです。しかし、行けども行けども塀なのでした。その塀はまるで、刑務所のようでした。そしてようやくインターホンを見つけ、良かったーと思いボタンを押すと。
「はい」
女性の声でした。
「こんにちは、○○○さんでいらっしゃますか。突然、失礼します。私たちは、○○教会の者です。○○○先生が今度来日され、南北統一の事をお話されるので、ぜひ聞きに来ていただきたいんです。よろしくお願いします」
しばらく待つと木製の格子戸が開き、犬を抱いた、化粧っ気のない女性が現れました。
「私が○○○ですが」
そう彼女が言葉を発するや否や。
「姐さん!」
十数名の、ジャージ姿の男たちに私たちは取り囲まれていたのです。そしてかれらは一様に「姐さん」と、化粧っ気のない、午前中の場末のスナックのママみたいな顔の女性に向かって、呼びかけていました。
当時の私は、伝道をする際にはどんな場所にでも飛び込んでいく人間だったので、怖いと思う感覚が無かったのです。しかし、今考えると、何であんなことしたんだろう、とは思っています。
とにかく、美佳姉さんと私は「姐さん」に講演会の説明をして、何食わぬ顔で帰ったのでした。
という、昔話なのですよ。あの頃は若かったなあ。