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腕相撲

桜「お兄ちゃん、腕相撲しよ!。」


 土曜日の昼下がり、特にやることもないのでごろごろしているとうるさいのが部屋の中に入ってきた。


歩美「い、いきなりなんだよ。」


こういきなり入ってこられるとびっくりしてしまう。心臓のドキドキが止まらないのだ。


桜「だ・か・ら、腕相撲しよ!。」

歩美「勝てるわけないじゃん・・・。」


自分でいうのは情けないが桜と腕相撲をして僕が勝つ確率は0に等しい。僕は身長135センチにしてひょろっとした幼児体形、それに対して桜は身長186センチで体つきもムチムチ、勝てるわけがない。いくらミニマム級が頑張ったところでヘビー級には勝てないのだ。


歩美「だから僕はしない!。」

桜「じゃあ、ハンデをあげるね。」

歩美「ハンデ?。」

桜「うん。お兄ちゃんは私の腕を倒すためなら何でもしていいよ。両腕使ってもいいし、立って体重かけてもいいし、もちろんひじもつけなくていいよ。まぁ、その分負けたら罰ゲームだけど。」

歩美「ほ、ほんと?。」

桜「サクラ、ウソツカナイ。」

歩美「じゃあ、やる!。」


チャーーーンス!。これは桜に勝つまたとないチャンス!。桜は大きくてずる賢いから勝負では僕がいつも負けているけどさすがにこれは勝てるだろう。罰ゲーム?、それはお前が受けるんだよっ!。


歩美「はやくやろっ!」

桜「うん、じゃあこの机ね。」


桜は僕の部屋にあった小さい机を真ん中に置く。そして自分の肘を机の上に置いた。僕も肘を机の上において桜と手を握る。


歩美(お、大きい・・・。)


桜の手は僕の手より指の関節1個分くらい大きかった。それ以外にも腕の長さや太さ、手の厚み、すべてが僕とケタ違いだった。思わず不安になる。桜のほうを見るとニヤニヤしている。こんな小さな手に負けるわけがないと余裕なのかもしれない。


桜「お兄ちゃん、不安そうな顔してるけど大丈夫?。」


桜が僕に話しかけてきたが僕はうなずくことしかできない。腕を見ると僕の腕は急な角度で立っているのに桜の腕は僕の小さな腕に合わせるために緩やかな角度で立っている。その対比を見て僕は腕相撲を始めたことを少し後悔した。


桜「一応言っておくけど今更後悔しても遅いからね?。」

歩美「わ、わかってるよ!。」


桜は僕の考えることがお見通しらしい。でもここまで来て後戻りすることはできない。桜が許さないだろうし妹の迫力にビビッて勝負をやめましたでは僕のメンツは丸つぶれだ。すでにつぶれている気もするけれど。


歩美「はやくやろ。」

桜「うん。レディーファイ!。」


始まった。とりあえず普通に押し込んでみる。当たり前だけどまったく押し込めない。次は両手で押してみる。


桜「お兄ちゃん、本気でやってる?。」

歩美「やってるよ!。」


両手で押してもびくともしない。びくともしないどころか桜の顔は腕相撲をしているとは思えないほど涼しい顔で不敵な笑みを浮かべていた。こうなったら最後の手段、立って両手で桜の右手を押し込むしかない!。


歩美「うおおおおおおおお~~~~~~~!!!!!。」


全身の筋肉を総動員して全力で桜の右手に持てる物すべてを押し込む。手に力を入れすぎて痙攣している。それでも僕は押し込むことをやめなかった。でも桜の手は1ミリも動かない。ふと桜のほうを見ると目が合った。僕は汗だくなのに桜は汗一つ書かずに涼しい顔だ。そして桜の口が開いた。


桜「弱いね、お兄ちゃん!。」


桜はまぶしいばかりの笑顔でそう言った。その時桜の手に力が入った。手が締め付けられる。僕は立ち上がって両手で体重をかけて押している。それなのに桜の手はゆっくり少しずつ着実にこっちに迫ってきている。


歩美「う・・・わ・・・。」


自分のすべてをかけているのに座って涼しい顔をしながら片手で戦っている2歳も年下の妹に勝てない。おかしい。こんなはずはない。そりゃ、この体格差だからまともに戦って勝てるはずはない。そんなことはわかっている。でも今は違う。自分、『春川歩美』と妹である『春川桜』の”片腕”のみと戦っているのだ。なのに勝てない。いくら押しても桜の腕は止まらない。


歩美「と、とまれ~!。」


止まらない。止まるわけがない。僕は甘く見ていたのだ。桜の力を。自分の非力さを。そして負ける勝負は絶対しかけない桜の勝利への執着を。


桜「ドンマイ、お兄ちゃん!」


そして僕の手の甲は机にピッタリとくっついた。





 負けてしまった。中学2年生の僕が小学6年生の妹の片腕に負けてしまった。心臓がどきどきする。悔しい?、悲しい?、いや違う。もっと違う何か、別の感情が湧いてくる。


桜「どう?、妹の片腕に負けた今の気持ちは?。」ニヤニヤ


意気消沈して座り込んでいる僕の顔を桜がのぞき込んでくる。そして僕の顔を見た桜がもともとニヤニヤしていた顔をさらにゆがめた。


桜「いい顔してるね。わからないんでしょ、自分の今の感情が。」


そんなはずはない。自分の妹に負けたのだから悔しいはずだし悲しいはずだ。でもこのドキドキが分からない。確かに悔しい。確かに悲しい。でもそんな自分もひっくるめて何かにドキドキしている自分がいる。


歩美「つ、次は絶対勝つから!。」


わからない自分の感情にふたをするためにそう叫ぶ。


桜「はいはい。頑張ってねwww。」


そういいながら桜は自分の部屋に帰っていく。何か忘れているような・・・。そうだ!。


歩美「桜、罰ゲームは?。」


僕の言葉を聞いた桜は意地の悪い笑顔で振り向く。


桜「見逃してあげようと思ってたんだけど・・・。自分から言うってやっぱりお兄ちゃん・・・。」

歩美「何?。」

桜「なんでもない。まだお兄ちゃんには早いよ。」


年下の桜にこういわれるとなんだか馬鹿にされたような気がする。しかしながらそれよりも重要なのが罰ゲームの内容だ。ドキドキが止まらない。僕はこれから桜に何をされちゃうんだろう。


桜「では罰ゲームを発表します。罰ゲームは・・・。」


ゴクリ


桜「明日一日、私の妹になってもらうことです!。」


なおこの後の僕のせめて弟にしてほしいという願いが聞き入れられることはなかった。

次の投稿日は9月16日(水)です。

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