お弁当
梅子「あんたのお弁当、おいしそうね。」
優斗とお昼ご飯を食べていると委員長が横から覗いてきた。僕の学校では給食がなく基本的に自宅からお弁当を持ってくることになっている。しかし委員長はお弁当ではなく毎日学食で済ませていた。
梅子「うちは両親が共働きだからお弁当を作ってくれないのよね。」
優斗「歩美は自分で弁当を作っているんだぞ。」ドヤッ
梅子「これ全部!?。すごいわね。でもあんたの謎のドヤ顔はすごくうざいわね。」げしっ!
優斗「ぐおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~。」
歩美「あはは・・・。」
あれ以来委員長は優斗が何かふざけるたびに脛を蹴るようになった。最初は止めていたがある時優斗が『俺は蹴られたいのに・・・』とぼやいているのを見てから止めるのをやめた。一度病院に行ったほうがいいんじゃないかな。
梅子「それにしてもあんた、見た目も女みたいで料理もできてそこら辺の女子より女の子してるんじゃないの?。」
歩美「僕は男だよ!。」
梅子「冗談よ。でもお弁当は本当においしそうね。」
女の子みたいだと言われるのは心外だがお弁当の出来を褒められるのは悪い気はしない。料理自体は好きではなく家族に料理ができる人がいないので仕方なくやっているだけだが家族以外の人に褒められて正直うれしい。
歩美「ありがとう。卵焼き一つ食べる?。」
梅子「くれるの?。じゃあ一つもらおうかしら。」パクッ
委員長が卵焼きを食べる。僕は食べたらてっきり感想を教えてくれるものだと思っていたが食べた後になぜか体を悶えさせていて全然話してくれない。そもそも委員長は学食で食べているときも淡々と食べるタイプでこんなことはしていない。もしかしたらおいしくなかったり嫌いな味付けだったのかも・・・。
歩美「・・・おいしくなかった?。」
梅子「・・・。」
委員長は下を向いたまま何も言わない。やっぱりおいしくなかったのかもしれない。一応家族には好評だったんだけど。下を向いた委員長を見ていると胸が痛い。そして委員長は静かに僕のほうを向いた。
歩美「ごめん、僕・・・。」
梅子「めっちゃくっちゃスーパーグレートうまいわ!!!!!。何この卵、ふわっふわっじゃない!。しかも、しっかりだしが染みててうまいなんてもんじゃないわ!。しかも入ってるネギがイイ!。私は卵焼きは甘い味付けが好きだったんだけどこの卵焼きでだし派に乗り換えるわ!!!。」
とりあえずおいしかったみたいでよかった。でも、委員長の卵焼き愛が止まらない。委員長はテンションが上がったのか大声でクラス中に声が響き渡った。
優斗「委員長、声を・・・。」
優斗の声で委員長は我に返ったのか顔を真っ赤にしてうつむく。まぁ、卵焼きの感想を大声でクラスに響き渡らせたら恥ずかしいだろう。教室が静かになり委員長に視線が集中する。
梅子「や、やっちゃった・・・。」
委員長はうつむいて恥ずかしがっている。ここは僕の料理を褒めてくれた委員長を助けるために男を見せる時かも・・・。
歩美「そそそ、そういえばが、学級委員の仕事がま、まだ終わってなかったよね。多目的室にい、行かないと・・・。」
梅子「そ、そうだったわね、オホホ・・・。」
そうして僕と委員長は二人静かな教室をロボット歩きで退場した。
教室から出た僕たちはそのまま誰もいない多目的室に向かった。もちろん本当は仕事なんてないしほかに人もいない。
歩美「委員長、大丈夫?。」
梅子「大丈夫よ。ありがと・・・。」
委員長の顔がますます赤くなる。せっかくここまで逃げてきたのに何で赤くなるんだろう?。でも委員長も落ち着いてきたようで多目的室の椅子に腰かけて口を開いた。
梅子「ごめんね。歩美の卵焼きがおいしくてテンション上がっちゃって・・・。」
委員長は大声を出したことを気にしているようだった。別に僕自身には害はなかった気にしていない。それに・・・。
歩美「僕は委員長がおいしいって言ってくれてうれしかったよ。家族以外に料理でほめられたのは初めてだったし。」
梅子「・・・優しいのね。」
このあと昼休みが終わるまで僕たちは多目的室で過ごした。一応仕事をしているということになっていたのですぐに帰るわけにはいかない。そして昼休みが終わる5分前に教室に戻ると生暖かい視線が僕たちを出迎えた。
歩美「もしかしてばれてるかな・・・。」
梅子「元凶の私が言うのもなんだけどばれないわけないでしょ・・・。」
残念ながらクラスのみんなには学級委員の仕事なんてないことがばれていたらしい。あとで優斗に僕たちが出て行ったあとクラスはどんな感じだったか聞いたら僕たちが見え見えのウソでロボット歩きしながら出て行ったところがコントみたいだとみんなで笑っていたらしい。・・・学級委員には親しみやすさも必要だと思うんだ!。
~放課後~
放課後、仕事という名の雑用をし終わった僕と委員長はいつも通り一緒に下校していた。
梅子「一つお願いがあるんだけど・・・。」
歩美「何?。」
梅子「また、あの卵焼き食べたい・・・。」
委員長が頬を赤らめながら僕にお願いしてきた。心臓のドキドキが止まらない。女の子が頬を赤らめてお願いをしてきたのだから僕に断るという選択肢はもちろんない。
歩美「もちろん!。」
僕はドキドキしているのを悟られないように笑顔で言った。委員長の瞳は僕の目よりほんの少し上にある。僕がもちろんといったとき委員長の瞳が輝いたような気がした。
梅子「じゃあ、また明日ね。」
委員長は分かれ道で帰っていった。僕も家のあるほうに向けて歩き出す。それでも僕の目には委員長の瞳の輝きが染みついて離れなかった。
次の投稿日は9月13日(日)です。