【第二問】土曜日は女子とは一緒にいたくない。(Part 3)
◇ ◆ ◆ ◇
「ただいまー。ふぅ~、腹減ったー」
これ以上、修羅場こと2年D組に長居する訳にもいかず、ボクはすぐに帰宅した。
早速、ドアの鍵を開けてみると、ボクの妹が――――
「本当に全裸でいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いや、本当に綺麗さっぱりの完全に裸ではなく、綺麗な白めのパンツだけは穿いていた。
けど、なぜかパンツが少し、濡れているぞ!? ビショビショという訳ではなく、一部分だけが湿っている! え、ええ、何々、何が、起こってるんだ!?
「…………っ!?」
眼に薄っすら涙を浮かべた妹は言う。
「いじってたらこうなったよぉ、お兄ちゃん……」
「…………」
想像以上に悲惨な画(18禁レベル)である。
『何かあったの? お兄ちゃんに言ってみなさい。ほら大丈夫、よしよし』と言い、頭を撫でて宥めてあげるのは、間違いなく駄目だろう。かと言って、無視するのは聊か可哀想な気もする――情が移った訳ではないが。
どうすればいいのか、全然分からないんだけど……
「ていうのは冗談だよ冗談。演技と言う名のパフォーマンスさ――最高の」
「…………」
最高じゃねーよ、馬鹿たれ。
「手を洗ってたら水がこぼれちゃってさ、ちょうどその時にお兄ちゃんが私の裸姿を期待しながら帰ってきてしまった、ということだよ」
「…………」
期待してねーよ、馬鹿たれ。
「何か喋ってよ! は、恥ずかしいじゃん……」
「…………」
喋れじゃねーよ、馬鹿たれ。
「はぁあ…………」
ボクは人生最大の溜息を吐く。
昨日の濡れYシャツでのエロい上裸、ブラ透け姿、そして今日のパンツ濡れ姿……
もうどう付き合っていけば良いのか、分かんなくなってきた…………
「あのさ、ボクは妹が好きだけれど、でもそういう好きじゃないんだよ。妹のえっちな容姿を見たところで興奮しないし、おっぱいを揉みたいとか思わないし、ベロベロと体中を嘗め回したいとは思わないし、べろちゅーとかしたいとは思わないし、裸をまじまじと観察したいとか思わないし、近親相姦したいとか思わないし――」
「随分とやりたいことだらけなお兄ちゃんだね。そんなこと思ってるんだー」
「……とうとう日本語まで理解できなくなったか」
「え? だってお兄ちゃんさっき『妹のえっちな容姿を見ると非常に興奮するし、お■■いを■■たいと思うし、ベロベロと体中を■め■したいと思うし、■ろ■■■ゅ■したいと思うし、裸をまじまじと■■してみたいと思うし、出来れば近■相■したいと思うし、妹のお■い■■てみたいし、お■■として妹を使いたいし、ぶ■■■■みたいと思うし、逆にぶ■■■■れたいと思うし、妹を一人じめしてやりたいと思うし、監禁してみたいと思うし、一緒にデレデレしたいと思うし、夜のベッドで楽しいことしたいと思うし、裸同士で寝たいと思うし、涎をかけあいたいと思うし、■■を嘗めたいと思うし――』とか言ってたじゃん、もう忘れたの? 若年性アルツハイマー症候群じゃないの? 脳神経外科に行って診てもらったら? お勧めの場所紹介するよ」
「……長広舌で事実無根の妹好き設定を説明してくれたな」
どんだけ舌が回るんだよ、今日の妹……思春期モードが半端じゃない。
それに伏字が何回使用されているんだ。規制だらけじゃねーかよ。ガチで18禁レベルじゃねーかよ。官能小説じゃねーかよ。
「それに、多分それは欲求不満に陥ってしまった、思春期バリバリの男子高校生の台詞じゃないか? 残念ながらボクはそれとは違うのは知ってるだろ?」
「じゃあなんでお兄ちゃんの部屋にこれが落ちてたの?」
と、言いながら、妹が見せてきた物は――身に覚えのないえっちな本だった。
ボクとは無縁な本。興味のない雑誌。終生手に取ることのないだろう著作物。
「それはお前が買ってきたやつじゃないのか?」
「お兄ちゃんの部屋のクローゼットの中に入ってたんだよ、これが! はぁ、はぁ」
妹の吐息が荒くなってきているぞ!? 大丈夫か!? 心なし、顔が赤いぞ!?
「というか、勝手にボクの部屋で宝探ししてんじゃんねーよ……、宝探し――トレジャーハントという名の兄妹イベントだからって。ここは三次元だぞ、弁えろ」
「ほら、19ページの女性なんか、なかなか魅力ある胸をしているし、結構タイプでしょ? お兄ちゃん。あと45ページの人も大胆でいいんじゃない? あとこれも、それも!」
「………………………………………………………………」
思春期トランス状態の妹は次々と、濃厚でいやらしいページをボクに沢山紹介する。こんな姿の妹を見ていると、逆にこっちが精神外科を紹介してあげたいくらいだった。
妹自身が顔を真っ赤にして、はあはあ、と息を荒立てながら、
「ほらほら、このページもなかなかいいんじゃない? だって、この女の人、Yシャツ姿でブラ透けやってるよ。まるで私のようじゃない。おぅ、次のページからはもっとえっちなシーンだよ、お兄ちゃん!」
「もうそろそろ――」
「ほら見てみて、■■■■■で■■■■■だよ! 見ているこっちが熱くなるよっ。しかもこれまたいいね、■■■■■■てるよ、濃い、とても濃い、■■■■■■■■■エフェクト感出てるしさ――」
はぁ……、もうそろそろ恩のエロエロすぎる過剰思春期スイッチを切る頃合か。
本当にここらでお終いにしないと、ボクの理性が壊れてしまいそうだ。本当の意味で、ボクが精神科病院を受診しなければならなくなる。いや、もう既にかからないといけないか。こんなにも精神の狂いまくった、異常な女子嫌いなボクなのだから――
「あのさ、そういう言葉を露骨に発言するのを止めてもらえ――」
「うわぁ! この人も結構レベル高いよっ。だんだんアレが……!」
「もういい加減にしろぉぉぉぉぉっ!」
「えー、まだまだ見てたいよぉぉぉぉぉっ!」
「もう十分満足しただろうが。欲求は満たされてるだろうが。お前にはまだ早すぎるし」
「ああそうか、お兄ちゃんはロリ系が大好きだもんね、兄の日プレゼントにそれを買ってあげよう! 慣れないものは身体によくない訳だしね」
妹は実兄のボクに対して、適当な笑顔を浮かべて言う。
「そういえばお兄ちゃん、学校どうだったの?」
「ああ、もう最悪だったよ。地獄だよ地獄……」
「で、私もうそろそろシャワーに入るけど、お兄ちゃんも――」
「入らねーよ! 絶対嫌だ。お前のことだから何をするのか分かったものじゃないし」
近親相姦を強要されそうだな笑笑……って笑い事じゃないよ。
「あらそう。せっかく誘ってあげたのに……」
「はいはいごめんごめん。今度暇があったら入ってあげるから(嘘)、お前はさっさと身体を洗い流してこい――穢れた煩悩もついでに洗い流してこい!」
まあ、人のことは言えないけど――こんなにも馬鹿みたいに、女子嫌い宣言をしているボクの方こそが、本当は頭を、考えを、心を、身体を、洗い流すべきなのではないか。
正すべきなのではないか。