【第二問】土曜日は女子とは一緒にいたくない。(Part 1)
【第二問】土曜日は女子とは一緒にいたくない。
6月25日土曜日のこと。
ボクはむくりと目を開け、ゆっくりベッドから身体を起こす――9時25分。
今日は土曜日だし、もうちょっと寝よう。おやすみなさいZZZ…………
「――って、うわぁぁぁぁぁっ!」
二度寝を企んだちょうどその時だった。
「えっ!?」
可憐な妹が横で寝ていたのに、ボクは漸く気付いたのだった。
「おい、何でここで寝てんだよ。昨日は別々に寝ただろうが……」
おいおい、昨日一緒に寝た覚えないんだけど!? それに、長髪乱れた妹の浴衣姿が肌蹴てて、ちょっとだけ谷間見えてるし!? 何なのこの妹系ラブコメ的展開はっ!?
いや、これは淫夢じゃ? ん、でも妹の胸を優しく触ってみると、しっかりとした感触があるから、夢じゃない、のか…………
って、これじゃあ二度寝どころじゃない!
ボクはだらしない格好でぐっすり眠っているを無理矢理起こす。
「……むぐ、ん? む~、お、お兄ちゃん、おはよー」
妹は漸く目を覚まして寝ぼけた風に言う。
うわぁ、こうして見ると、ボクの妹って本当に色っぽい! 浴衣が幾分はだけていて、薄く桜色に染まった胸部も若干露出している。それに、こんなに色白の肌、見たことがない。身内の直系にコーカソイドがいる訳でもないのに、どうして『美白肌』を所有している? ……って、そんなこと考えている場合じゃない!
「そもそも何でお前がここにいるんだよ? 勝手に入ってくるなよ、実の兄の寝床に」
せっかく今日は土曜日で、休日だというのに、本当にボクの妹ときたらゆっくり寝かせてもくれないのかよ……
「はいはいごめんなさい」
ボクの説教をどうやら聞いてくれていたらしい妹は、垂れた涎を浴衣の右袖で拭いて、そしていつものように元気よく実兄を弄ぼうと、にやにや顔をし始めた。
「でも、お兄ちゃんだって本当は一緒に寝たかったでしょう? 知ってるんだよぉ? 本当は私の色白の肌とおっぱいに抱擁されて寝たかったんでしょ?」
「いや別に寝たくはないけど。てか、そんなわけないだろ。嫌だ」
「本当はえっちなことしたいんでしょ? いやらしいお兄ちゃん」
「したくねーよ。特にお前とはしたくないな、たとえ死んでもだ」
「本当はえっちな子としたいでんしょ? いやらしいお兄ちゃん。思春期お兄ちゃん! ロリペドシスコンお兄ちゃん、もう真実を告白しなよ、『ボクは剣山恩一途だぁぁぁぁぁ』って感じでさ。お・に・い・ち・ゃ・ん!」
「…………はぁ」
はぁあ、どうしていつもこんなに元気溌剌しているのだろうか、こいつ。寝起きなのによくも堂々と大盤振る舞いできるな……、血圧が高いからなのだろうか?
と、落胆の声を心の中であげていると、チロリンッと、ラインの着信音がした。
ボクはそもそもラインなんてアプリをあまり開かないから、珍しいものだ。
「まだこんな時間で朝早いっていうのに、一体なんだよ。ふぁーあ、眠い……」
欠伸しつつも早速暗証番号6桁をタップ入力してロックを解除、トーク一覧を確認してみると、送信者は『喜入宵』だと判明した――一応クラスメイトは友達追加している。ま、本当は友達でも何でもないし、ただの知り合いなんだけどね。
「お兄ちゃん、こんな時間って言ってるけど、もう午前の九時半だよ? 普通だったらどの人も起きてるし、朝■ちする時間じゃないんだよ?」
「ああ、そうだったか……」
流石、土日であろうと欠かさず早寝早起きを規則正しくする妹だ。
それに比べてボクはこんな思春期野郎に劣ってるんだから、色々思うところが……
まあ、それは今悩んでも意味もないから、ボクはメッセージを嫌々開いてみる。
果たしてどんな内容なのだろうかと、心臓をハラハラさせながら。
『今日、お時間空いてるかしら
『もし時間があればでいいから
『えっちな――学校に来て頂戴
『詳しいことは後で教えるから
『あと昨日は……ごめんなさい
「まあ、今日は別に予定も入ってないし、行ってあげてもいいか……」
「どうしたの? お兄ちゃん。てか、誰からの連絡だったの? 彼女さん?」
「いや友達だよ、ただの知り合い――まあ、昨日喧嘩した人からだ」
「じゃあ今日学校に行くの? せっかくの休日だっていうのに? せっかくの妹との休日だというのに? せっかく妹と二人っきりなのに? せっかく妹と一緒に遊べるのに?」
「随分と『せっかく』事項が多いな……。妹と一緒に遊べないのは残念だけど、あいつの命令だし、昨日の件はボクも悪かったと思ってるから」
すると、再度メッセージの受信音。
『来るんだったら持ち物は何も必要ないわ
『安心して、私と二人きりじゃないからね
『今日は他の人たちもいるから、大丈夫よ
『避妊具なんて持ってこなくていいからね
「って、どうして避妊具持ってくると思ってんだよぉぉぉぉぉっ!?」
「お、お兄ちゃんどうしたの? 急にそんな顔真っ赤にして! 林檎病じゃない!?」
「いや、そんなんじゃねーよ! それよりも深刻な病気だよ、多分!」
「ねえお兄ちゃん、声が大きい。大切な膜が破れる」
「いくらでも破ってやるよ、そんなもん!」
ボクは今、それどころじゃないんだ! もしかしたら、ボクが喜入と二人きりだったら――大変なことに陥ってたんだぞ!?
って、他のメンバーって誰なんだろう? 女かな? ……嫌だな。とりあえず『今日は時間がないんだーごめんねーまた今度ー』って返信しておくのが最善だろうか?
「いや、ダメだ。次学校行ったときに殺されるに違いない。奴隷を殺処分しかねないしな、あの女王様兼ご主人様は……」
「ん? ていうかお兄ちゃん。その人と、例のドS女と仲直りしてるじゃん。普通だったらラインなんかしないよ、喧嘩してる人になんて。ましてブロックされててもおかしくない。そんな時代じゃん、今は」
「ああ、言われてみればそうかも」
そういう自分も喜入のアカウントをブロックとか削除とかしてないな。
ってことは、ボクは心の何処かで自然と憎き喜入を許してたってことなのだろうか?
「まあさっさと返信しなよ。何かさっきからお兄ちゃんのケータイがうるさい」
と、ボクは妹に指図され、びくびくしながらケータイを覗いてみると、
『殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す
「ぎぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 怖いっ!?」
何だよこの大量殺戮メッセージ! てかフォントが他の文字と違うんだけど!
喜入が『殺す』という言葉を使うと、かなり畏怖してしまわざるを得ない……
現実味がありすぎて、将来性がありすぎて、現実的でありすぎるんだよ……!
「お兄ちゃんが悪いでしょ、この場合」
「ボクの何処が悪いって言うんだよ?」
「だって、既読無視してたじゃない?」
あ、そうだった。ラインのトーク開いて、返信せずにそのままだった。そりゃあ怒られても仕方がない。
「それにしても随分と『殺す』って言われたね。59個もあったよ」
「何で数えてんだよ。他人のライン勝手に見るな」
他人のラインを見るとか、タチが悪すぎるだろ。身内には特に見られたくなかったのに……、ああもうこうなったら、電源切っておこう、こんな恐怖のメッセ見たくないし!
「どうしたのお兄ちゃん。さっきからずっと顔が慌ててるけど、何かやましいことでもあったのかな? まさか妹とえっちできるとでも思ってたの? それでどうやって誘うか言葉を選んでるの?」
「そんな具体的で馬鹿らしいこと、つゆも考えてない!」
それはお前の頭の中だけだろ。最早(18禁の)漫画を描けるレベルの発想力だ。将来はクリエイターにでもなってろ、その発想力と思春期の力を最大限に活かして!
「ほらほら図星。本当はあんあことやそんなことやりたいんでしょ?」
「そんなのやりたくねーよ。妹が可愛いからって」
「ほらほら、そんな可愛い妹の色気ある胸ですよー」
「なに自分のおっぱいを『色気ある胸』とか表現してんだよ。自惚れるのも大概にしろ。それに、肌蹴た感じの浴衣姿で胸を寄せてくるな。ていうかさ、毎回思うんだけど、どうしてそんなに自分の胸をボクに押し付けてくるんだ? もしかしても揉まれたいのか?」
「そんな訳ないでしょ、お兄ちゃんの馬鹿っ! 妹に専心しすぎ!」
「! 没頭してねーよ! まあいいよ、分かった。じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん。胸を構えて全裸で待機しておくからね!」
「はぁ、全く。また裸かよ……。風邪引くなよ……」
それからボクは着替えを済ませ、家門に停めてある自分の自転車に乗り、颯爽と学校へ。
それにしても、今日は何で学校に行かなきゃなんないんだよ、土曜日は家出ごろごろしてたいのに。妹と大事な約束があるから今日はいけないって断っとけばよかった。
いつもよりもちょっと遅めで、ボクは目的地に向けて自転車を漕いだ――勿論、目的地に女子がいるという事実から気が重くなっている為に、スピードを緩めいているのだ。