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【第一問】女子共はキモくてウザくて仕方ない。(Part 3)

This novel will be abandoned.


◇ ◆ ◆ ◇


時は刻々と進んで――

キ~ンコ~ンカ~ンコ~ン、と昼休みのチャイムが鳴る。

「やっと終わったー」

ぐぅ~っ、とお腹を鳴らしながら、ボクはバッグから弁当を取り出す。

その弁当というのもは妹が毎朝作ってくれているものだ。

本当、ボクは妹から恩を受け取りすぎだ――(しだ)だけに。

「いただきまーす。今日は何の料理かな?」

わくわく、どきどきしながらフタを開けると、ちょっと大き目のオムライスだった。それに、ケチャップで何か書かれていた。

「剣山貴仁、実に美味しそうな弁当、これはあなたが作ったのかしら?」

と、ボクを茶化すように言う喜入(きいれ)の姿がそこにあった。

「げっ、何だよ喜入。お前の席はあっちだろ。あっちに行け、しっし。それに、これはボクが作ったんじゃないし」

「それは見れば分かるわ。そのオムライスに書いてある文字を見れば」

オムライスの文字で分かる? ああ、このことがどうかしたのか――――って!?

『お兄ちゃん だ~いすき by妹』

「こ、これは、メイド喫茶文字っ!? しまった! 一番見られたくないものを!」

「剣山貴仁の妹さんって、まさか……、ぶ、ブラコン!?」

「ふざけるな! 別に妹はブラコンじゃないよ! 見てもない人を好き勝手言うな!」

ボクの妹をよくも悪く言いやがって! 殺意すら湧くわ! 妹をいじめるたり、ボクたちの関係に水を差すような人は絶対許さないんだから!

でも、こんなメッセージオムライスを準備するところから考えると、確かにブラコンであることは、あながち間違いという訳ではなさそうだった。

それにしても妹よ……、もう少しは世間体を気にしてほしい。こんなアニメとかでよくありげな『ブラコンのテンプレート』を昼食に取り込むだなんて……愛情は嬉しいけどね。

「そんなに怒らなくてもいいじゃない。もしかして、あなた――シスコン?」

「……っ、そ、そんな訳が!」

いや、そんな訳があった。ボクは絶対シスコンだ。

あんなに好き好き言って、一生隣にいたいとか言って、それでいてシスコンでないはずがない。これでまた一つ、喜入に心の弱みを握られてしまったじゃないか……全く。

「隠さなくてもいいのよ。私が剣山貴仁のお嫁さんにならない限り、それはそれで許してあげられるもの、ね?」

「ぼ、ボクの、お、お嫁、さん!?」

おいおい、何だよこいつ! 冗談にも程があるだろ! どうしてお前と結婚しなくちゃいけないんだ! 絶対従(じゅう)(ぼく)にする気だろ! それに全然萌えないよ! 怖い怖い怖い!

「何故そんなにも嫌そうな顔をするの、剣山貴仁」

相変わらず平淡な口調で言う喜入ご主人様。

「嫌に決まってるだろ! 何で妹の話だけでこんなに無駄に話が広がるんだよ!」

今朝の妹上裸事件並に異常な話だ!

というかそもそも、諸事情故にボクの妹の話を公共の場でしたくはないのだが――

「で、話があるんだろ、どうせ。そうじゃなきゃお前がここに来ないだろ。いっつも昼は一人で仏頂面浮かべて、寂しそうに食べてるくせに、今日に限って積極的だし」

「……きょ、今日に限ってではないでしょう」

そう言いながら喜入は何故か顔を紅潮させ、俯く。

「…………?」

ボクには分からない――喜入は一体どうしたんだろうか? 熱でもあんじゃないか。じゃあ保健室にでも連れて行こうか? このまま風邪をうつされても困るし――ってまさか、こいつはボクを精神的に(くすぐ)らせる為に、わざとこんな真似をしているのか?

「お、おい。熱があるんだったら早く保健室に行けよ。それともボクが連れて行こうか、ご主人様」

「な、何よ!? きゅ、急に、そ、そんな、こと、言っちゃって……!」

え、何かこいつ照れ顔になってる!? 何でこんなに拗ねた子供のような感じになっちゃってる!? あれ、おかしいな。いつもの仕返しとして『ご主人様対抗作戦』を実行しようと試みたはずなのに、なのに、どうしてこんなに恋人みたいに恥ずかしがってんの!? いや、これもボクを精神的に殺す目的か? カウンターって奴か?

つくづく酷い女だ――残酷と表現してもいいくらいだ。

「……ま、先ず、ね、熱なんてないわよ! 勝手なこと言うんじゃない、この下僕が!」

「ボクの妹のことを勝手に言った奴が、そんなこと言うのか?」

「……っ! 下僕のくせに何を偉そうに! 踏ん反り返るのもいい加減にしなさい!」

ボクは喜入から、普通に激しく怒られてしまった。

すると、こほんっ、と我に戻るように咳払いをして、喜入はいつも通りの低い声音で、

「でもまあ、私をここまで陥れることに成功するとは、大したものね。流石の展開に、私は取り乱してしまったけど、よくやったわ」

「お褒めに預かり光栄だ」

「だからと言って褒美を与えたりはしないから」

「……な、何っ! 報酬とかあったのかよっ!?」

そうならそうと言ってくれよ、もっと頑張れたのに。

ま、女子(メス)からの褒美なんかに、そうそう期待を寄せるボクでもないけれど。

「でもあれよね、褒美欲しさの為に努力を尽くすって、何か気持ち悪い」

平淡に喜入は続けた。

「気持ち悪い?」

「例えば次のテストで百点取れたら『あなたと恋人になってあげる』って言われて、それで頑張ろうとする男が少なからずいるじゃない? それって私にとって迷惑なのよ。それで私が誰かと賭けられたら大変じゃない。私はそういうので人を好きになったりなられたりするのは困ると思うわ。だって自分の感情を偽ることになるからね」

「自分の身体と性格に自惚(うぬぼ)れすぎだろ。どんだけ自分がモテてるアピールしたいんだ」

喜入の発言の一部分だけは正論かもしれないけれど。

『自分の感情を偽ることになる』だなんて、なんて実に格好いい台詞なんだ。

「じゃあほら、ここで立ち話するのもアレだし、一緒にご飯を食べましょうよ」

「は? お前が勝手に立ってるだけじゃないか。それにボクがお前と飯を? 何で汚らしい下僕と飯なんか食うんだよ、ご主人様という分際で」

こんなの他の人に聞かれたら、どれだけ怪しまれることか……まあ、ボクたちはこの2年D組においては変人扱いされているだろうから、どうしようもないか。

「大丈夫よ、私は和気藹々と下僕共と食事をするのが好きなのよ」

「ひょっとして、お前がドMなんじゃないか?」

「何、だから私は一人で食べるのが、好きじゃないのよ。だから――」

少しくらい一緒に食べましょうよ♪――

と、喜入は軽快に言ってきた。


喜入宵という人はこのクラスにおいて他の人と楽しく話している姿を、ボクは見たことがなかったし、友達らしい友達がいないのかもしれない。女子(メス)共は基本的に一グループに固まって談笑するみたいな感じだけれど、しかし彼女だけはそれから外れている――自ら敬遠し、控えているだけなのか感じがある。

「もしかして、いじめられてるのか、お前」

「突然何よ。自分に友達がいないからって、そうやって他人にも同じようなことをするのかしら。最低最低最低最低最低最低最低最低最低最低」

「お前のほうがよっぽど最低だよ! まま、ボクもお前と同様に友達らしい友達なんかいない――昔とは違って」

ボクはひたすら妹のオムライスを頬張りながら行儀悪く言う。

「まあ友達がいない者同士、主従関係同士、仲良くしましょうよ」

「そんなこと言ってるから、喜入には友達がいないんだろうが……」

いやいや元々、こんな二次元にいそうなドS系女子はあまり、同姓から好まれなさそうではある。それに普通は、頭がいい奴は皆から人気があって、色んな人から頼られたり、話しかけられたり、そういうことをされるのが当たり前だろう。

だが、喜入宵だけは、違った。

「あのさ、本当に今更だけどボクはまだ一緒に食べること許可してないんだけど」

こいつ、堂々と自分の手作りっぽい、美味そうな弁当を広げて食べている。

まあ、これも精神的な攻撃の一つなのだろう。

「光栄に思いなさい――私があなたのような学力の低い人と、一緒に食べていること自体とても珍しいんだから、珍重なさい」

「珍重できるか、こんなもん。学力が低いとか言ってるけどさ、お前と順位の差異はほとんどないからな」

ボクはやけくそじみた物言いで、尚且つ自慢するかのような感じで応答する。

学年一位と学年二位……そこにはほとんど差などない。

「本当は知ってるんだろ? ボクが女嫌いで、それで故意にボクと一緒に食事しようとして、それで精神的にいじめて、茶化してるだけなんだろ?」

「まあそういう風に思っていなさい。私は別にツンデレタイプでもないんだから」

ツンツンデレデレのサービスは本当にいらないな。

ボクにとっては――女が憎く、醜く、キモく、ウザく、鬱陶しく、汚らわしく、煩わしく、気持ち悪い物体にしか見えなくなった――女子(メス)なんて、もういらない(この異常なボクの感情論を既に周知しているのはボク自身と、妹の恩、そしてこの喜入もである。勿論、90%以上の人が知らないし、当然教えないつもりだ)。

「……………………」

「あれ? もう私に対抗してこないのかしら? ああ、そういえば剣山貴仁は普通の女が嫌いだったものね――そりゃあ、あんなことがあったから、無理もないかも、ね」

「……………………」

「あれ? さっきまでの威勢はどうしたの? 突然黙り込んじゃって」

黙り込む? ふざけるな。

ボクは黙り込んでるんじゃない。現実と向き合おうとしてるだけなんだ。ボクは女という生物が心の底から嫌いであるということ――そして、あの女との物語を――――

「とうとう手を出さなくなったわね、この下僕ちゃん。いいのよ、ここであの人との関係をバラしてあげても。それにあなたの去年、じさ――――」


「黙れっ!」


ボクは大声で、教室の机椅子が吹っ飛ぶレベルで、怒鳴りつけた。

「もうそれ以上言うな。もうそれは――――終わったことだ」

「…………」

憎き喜入から言い返してくることはなく、何かを言おうとすることもなく――

謝罪の言葉もなく、そのまま自分のお弁当を閉まって、自分の席へと喜入は戻る。

お陰様で、妹の飯がまずくなったじゃないか。



This novel will be abandoned.

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