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【第八問】人間は是非を問わずに生きるモノ。(Part 1)

【第八問】人間は是非を問わずに生きるモノ。


7月3日日曜日のこと。連立(つれたち)高校文化祭最終日となった今日。

今日は一般公開(学校周辺の住民やその他諸々の人々が参加する業態)ということもあって、校内は先日よりも大混雑している。

そんな最中、ボクは筑波さんと一緒に廊下を歩いていた。

「つ、剣山君、どうして私なんかを誘ってくれたの……?」

「……えーっと、その……、先日の――ボクが倒れたときの埋め合わせというか、そんな感じ――かな? 前に迷惑掛けちゃったし、そのお礼というか、謝礼というか」

ちなみに、ボクは彼女のことを口で直截誘ったわけではない。流石にその行為は憚れてしまったので、ラインという超必殺技を使わざるを得なかった。

『明日、一緒に展示回らない?』

昨晩のこと、本当にたった一言、ボクの方からメッセージを送信した。

そして、今現在行動を共にしてしまっているという次第である。

「ねぇねぇ、ちょっとあそこに寄って行かない?」

「え? あそこって? って、ぇぇ…………」

ボクの左隣にいる筑波さんは例のメイド喫茶店のクラスを指し示した。

正直もうあんな『ご主人様』しか言えない店員が沢山いる店に、もう一度入ろうだなんて思うボクでもなく、極力回避したい場所でさえあった。

しかしながら、ここは女の子の言い分を聞いてあげるべきだと、ボクは珍しい判決をした。――ボクはこの子に一度、多大なる迷惑をかけたのだから、しょうがない。

そういう運命が待ち受けていたのだ、多分。

「……別にいいけど、で、でも何でメイド喫茶なんかに?」

「え? だって伊代(いよ)がいるんだもの、ちょっと見てみたいな――メイド姿の伊代!」

「知ってたんだ、あいつがここでバイトしていること……」

親友だからそれくらいのこと、知っててもおかしいことはないが。

「はぁ…………」

「そんなに嫌なの? メイド喫茶。だって男の子ってメイドさんとか可愛い女子とか、胸大きい人とか、ロリ系の少女とか、妹的存在のキャラとか、そういうの好きなんじゃないの? ――あ、でも剣山君は違うのか……ごめ――」

「いや、いいよ。事実だから。普通の男子高校生ならばそうだろうけど。まあご察しの通りだよ、ボクは女子が嫌いだからね。それに、ボクは思春期というものを知らないし、他の男子がどんな感情を抱いて日々過ごしているかの想像もできない。あの馬鹿妹と違ってさ。何かこっちこそ、気を遣わせてごめんなさい」

「……そこ謝るところなの……?」

「…………」

そうこうしている内に、ボクたちは例の教室に到着し(今回は『ご主人様』シーンは割愛)、そして昨日と同じ窓側の奥の席に座った――間に机を一つ挟んでボクたちは座った。

家で妹としているように、隣りあわせで座るという選択肢はあったが、女子が横にいたら、勢いで殺しかねなかったからだ……いや、流石にそれは大袈裟か。

単にそうならないような自然な流れを、ボクの方から作ったからだ。

「…………」

「…………」

うわぁ、何から話し始めたらいいんだろうか……?

てか、今になって思い出したことなんだけど――

キスの件は一体どうなったんだ!?

「…………」

「…………」

互いにかける言葉もしばらくなく、ボクたちはそのまま自然と俯く。

凄い気まずいし、気が狂う……

「ご注文は決まりましたですか、そこのカップル様!」

と、そんな軽快な言葉を口にしたのは、昨日と同じく礼井野店員だった。

「か、かか、かかかかかかかっぷる!?」

それとほぼ同時に激しく動揺する筑波さん。対してボクは何も反応しない。

もう、そういう礼井野の精神的攻撃に慣れているから。

「じゃあボクはブラックコーヒーで」

「じゃ、じゃじゃ、じゃあ私も同じく……」

「かしこまりましたですわっ――ブラックコーヒーお二つ、入りまーす!」

そんな風に本物の店員のように振る舞う礼井野の服装は昨日のそれとは何ら変わらない。しかし一つだけ決定的に違うものがあった――それはスカートの丈の長さが異常に短すぎるということである(何だろう、張り切っているのだろうか?)。

あとちょっとで大切な中身が見えてしまいそうなくらい、非常に危ない!

「剣山貴仁さん、後ほどお伺いしたいことがありますので、覚えておいてくださいませ」

と、ボクの如何わしい発想を読んでしまったかのように、礼井野店員は言う。

それも結構怖い口調だったけれど、その数秒後、笑顔で右目ウィンクを送ってきた。

滅茶苦茶可愛い妹系の仕草で……もう抱きつきたいくらいだったけれど。

でも、そういう訳にはいかない――たとえ本物の妹だったとしても。

「で、私に話があるんだよね、剣山君」

礼井野店員がこの場を立ち去り、そして周囲状況を確認したは筑波さんは、首を30度傾げ、控えめな口調で質問してきた。

「……ぅ、うん」

「何かな……?」

「一昨日の――」

「…………っ!」

ドキッとした素振りを見せ、顔を真っ赤にする筑波さん。

「倒れた時……」

「…………ん?」

「あ、ありがと」

「…………え?」

「助けてくれて」

「あ、ぅん……」

感謝の言葉の意味を納得したらしい筑波さんは、不意に小さく驚いた。

「……別にいいんだよ、大体私が先に剣山君のことを誘っちゃったんだから。寧ろ自分があの時勧誘しちゃって、ごめんなさい。ごめんなさい」

「え!? どうして筑波さんが謝る必要があるんだよ!? 体調管理は自己責任だし」

一昨日気を失った原因は筑波さんという女子(メス)の所為ではなく、単に自分が脱水症状を起こしてしまったというだけのことであり、筑波さんには一切の責任や起因要素はない。

別に、女子(メス)と長時間共にしていて、それでアナフィラキシーショックを発症して、意識を喪失したのではない――そこだけは勘違いしないで頂きたい。

まあ、女子(メス)が嫌いであるというのは相変わらない事実ではあるけど、それが直截的に原因に繋がる訳があるだろうか。いや、ない。

「それでだけど」

「それで、何?」

「キスの件――」

「っっっっっ!?」

全身を使って、目の前の筑波さんは驚愕した。

しかし、形振り構わずボクは続けた――さらりと言った。

「その、なかったことにしよう」

「な、なかった、ことに……?」

「うん。なかったことに、あり得なかったことにしよう。過去は水に流せないけど、でも一々振り返る必要も思い出す必要も、ボクはないと思うから――押し付けがましいかもしれないけど、図々しいかもしれないけど、このお願いだけは聞いてほしい」

「あ、は、え、う、は、い、うん……?」

ボクの心意を理解しているのかいないのか、はっきりしない返事ではあったが、一応筑波さんは例の件について、一応納得してもらえる感じだった。

と、ちょうどその時、

「お待たせいたしましたですわっ。当店自慢の『えっち! なパフェ スペシャル』とブラックコーヒーお二つでございますですわっ!」

とても大事な考えごとをしていると、また同じように軽快な雰囲気で商品を運んで来た店員――礼井野が、タイミングよく話しかけてきた。

「おいっ! 昨日と何だか名前が違くないか!? バージョンアップしたのか、その自慢のパフェ! 前は確かえっちなパフェだったろうが!」

「だーかーらー、違いますって! はぁ、何度お教えしたら分かってくれるのですか、あなたは……」

溜息を吐く礼井野は大きいパフェを持って言う。

「これは『えっち! なパフェ』ですって! 剣山貴仁さんの言い方だと、このパフェがまるでえっちみたいじゃないですか!?」

「ボクはそう言っているんだよぉぉぉぉぉ!」

「――って、二人とも、ちょっと落ち着いて……」

今度は周りの客人たちを考慮し始めたのか、筑波はさん顔を下に向けて隠して注意してくる。ごめんなさい……、そんなつもりじゃなかったんです……。許してください。

「で、礼井野。どうしてこの、その……、えーっと……、『えっち! なパフェ』がスペシャルになってるんだよ。てか、そもそも頼んでないからね?」

読者に誤解を招くような行動を少しは慎んでもらいたいところだ。

これは妹のえっちな奇行モードにも共通して言えることである。

「見て分からないのですか? 昨日一緒にお食べしましたパフェよりも、濃密な白い液体とヌルヌル感と艶々感がアップしたのですよ! しかも、見た目よりも美味しくいただけますわよ? それに安心してください、この商品には精力増長剤等は一滴たりとも混入しておりませんですので!」

満点の笑顔で商品についてを熱く語る店員さん。

「あのー、剣山君……、これ、本当に二人で食べる、の……?」

パフェを汚物のように見る筑波さんはドン引きしながらボクに問う。

「だ、だって……、こんな……、もっと……」

筑波が滅茶苦茶困った表情をしてるんだけど……、何て返してあげたらいいんだろう?

勿論ボクだってこんなエロいパフェを食す気には全くならないし、ましてこれを筑波と二人で食べるとか、どうかしてるだろ(筑波さんが嫌がるに決まってるだろ……)。

「別にいいではないですか、実輝! せっかくなんですし、一緒に食べてみてはどうですか? ここにスプーンは一個しかありませんが。それとも剣山さん、昨日と同じように私が『あーん』して差し上げましょうか?」

「今それを言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

ボクと筑波さんは同時に大きな声をあげまくる。

筑波さんは何か涙目になっちゃってるし、悪い冗談が過ぎるというものだ。

「どうしましたか、お二人とも。何、大丈夫ですわよ、このパフェではそんなサービスはないので」

「あっそ……、でも、何でスペシャルには、そういう特典はついてないんだよ」

「何をおっしゃっているのですか! これは店員が『あーん』するのではなく――」


「もう一人の女子が、あなたに『あーん』して食べさせるのですわよ!」

礼井野は裏がありそうな感じの笑みで言った。



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