【第七問】文化祭、リア充多くて殺したい。(Part 2)
これは非常に良い機会だと、ボクは瞬時に判断しての結果がこれである。
もしもこれを逃してしまえば、間違いなく一生、重要な質問をにすることができないと、直感的に、刹那的に感じたからだ。
手遅れになってからでは遅い――それも、自殺を経て勉強したことの一つでもある。
「で、何なの? 大事な話って」
ボクたちは店員の指示に従い、椅子に腰を下ろして話を始めた。
当然、机を挟んで、対面した状態で、顔と顔を合わせた状態だ。
こんな凄惨な現状になってしまった以上、ボクはすぐに聞き出さずにはいられず、
「端的に聞く。お前ってボクのこと、好きなの?」
文字通り無表情で、真剣に聞いた。
「友達としてなら、勿論好きよ。決まっているわ」
ボクの真剣な問いに対して、しかし喜入は非常に淡々と答える。
そして、喜入宵の顔も、身体そのものも、全く微動だにしない。
「いや、ごめん。そういう意味じゃなくって――」
「友達として、好きだわよ。それ以上でもそれ以下でもなく」
「…………」
ボクが第一に問い質したかったのは、恋愛的な意味で好きか否かである。
だがしかし、それを聞かずにして察したのだろうか、喜入は先に答えてくれた。
「逆に、剣山貴仁はどうしてそう思ったの? こんなに私が積極的だから? それとも自分がそういう意味で好きだから、正式な告白前に念の為確認しておこうとしたから?」
「いや、それだけは違う。それだけは……」
ボクは昨日の昼、気付いてしまったのだ――思い至ってしまったのだ。
筑波さんの言い放ったとある言葉がヒントとなり、それで自分なりに頭で計算して、それでその答えが『特別な人』から派生した『何か』であり――
喜入はボクに恋心を抱いているのではないのかと、そう思慮したのだ。
そう、ボクがその時硬直して身動きが一切取れなかった原因はそこにある。つまり、真実に一歩近づいてしまい、それで後戻りできなかったから、動くこともままならなくなった――それが正しい答えであり、正しい解なのだと――
「でも、違ってたんだ、やっぱり」
やはり違っていた。間違っていた。
喜入はボクのことが好きではなかった。
けれど、それは悲哀な現実ではない。
嬉しい現実で、正しい現実だ。
「あなたはやっぱり馬鹿なのね。私よりも頭が悪いわ」
と、喜入はボクを罵倒するように、シニカルに言う。
「でも、よくそこまで自分の力で解けたわね、剣山貴仁。解答そのものは正しいとは言えないけど。女の勉強、できてるじゃない」
「…………」
どうしてそこまで上から目線で褒められなければならないんだ? 解答を間違っているというのに、正しくないというのに、どうして正答した時並みにベタ褒めするんだ?
「じゃあここで模範解答よ。問題を解いたら解答・解説を見るのと同じく、それじゃあ答え合わせと助言タイムといきましょうか」
「は、はい……? 何言ってるか分かんないんだけど」
実際、この世で一番よく分からない『問題』は喜入宵という人間そのものだ。難易度で言うと『★10(MAX)』かもしれない。
「先ず数ページ先に戻って確認しなさい」
「いや、この世界にページ数とかないんだけど……。そんな巻き戻しがあったら、過去なんか簡単に変えられるし」
「違うわ、過去は過去であって、変えられない、不可逆変化物質なのだから。まあそれはともかくとして、過去を振り返ることくらいはできるでしょ? 全くあなたという人物は――問題は、難易度高めね。対処に困るわ。ああもうじれったいから先に解法を教えてあげるわ」
「か、解法……?」
「昨日の話、私はこう言ったはずよ。行灯行列は『私は恋人と行くわよ。だからあなたとは歩けないわ』と、ね」
「?」
疑問符以外何も浮かばない(というか、行灯行列の話を思い出したくない――黒歴史)。
これの何処が解法なのだろうか? 本当に問題の解説書を見ている時と同じ気分だ。特に数学とか、ここがどうしてそうなるのか、本当に分からない時がある(読者にはそういう経験がないだろうか?)。
「でもそれは、冗談じゃなかったのか? どうせボクを精神的に擽らせようと、事実無根でそんな諧謔を――」
「いるわよ、だから身近な人だって、そう言ったじゃない」
ボクの言葉を遮り、喜入はばっさり真実を吐く。
「ほら、あそこにいる人よ、あの女子のことよ」
と、言いながら、喜入は人差し指を指した。
果たして、その先にいる人物とは…………
「お待たせ致しましたですわ、当店自慢の『えっち! なパフェ』でございますですわ」
「え、ええぇぇぇぇぇっ!?」
礼井野伊代ぉぉぉぉぉ!?
注文してもいない商品を持ってくる、礼井野店員の姿がそこにはあった。
ガチで二次元に出てきそうなメイド服、カチューシャ、リボン、etc……、全てのメイド要素を一気に詰め込んだ感がある衣装! それに、元々造形が整っているので、それらと大分マッチしている!
「――何でお前がここで働いてるんだよ!? おかしいだろ!」
そう、第一の矛盾点というか問題点は、正常な男子高校生向けのメイド喫茶は、しかしボクたちの企画して作り上げた教室展示ではない。ボクたちが十日間かけて完成させたのは、人を萌えさせるそれではなく、怖がらせるそれである。
それに、ここは当然2年D組ではない(確か2年A組だ)。
「美少女の風俗悪魔お化けがいると噂が広まったので、避難してきました!」
ボクにとっては女子そのものがお化け以上に恐ろしい産物なんだがな……
まあ、それは今はどうでもいいか。
「剣山貴仁さん、私のこの晴れ姿、いかがですか? 可愛いですか? そうですか! ありがとうございます! ですが、学年一の美貌を持つ、あの『ヤスシロ』さんには敵わないませんね」
「ヤスシロさん?」
誰だそれ。ここに来て新登場キャラクターのお出ましか? そうともなると、物語を複数構成にしなければならなくなるだろう。文脈から察する限り、そのヤスシロさんという人物はどうやら女子らしいが……、多分ボクはその人と一生関わらずに、このまま学校生活を、人生を、終えるような気もする。
まあ、それもどうでもいいか。
「それじゃあ剣山貴仁、私は少し欲情したからトイレに行って綺麗さっぱり処理してくるわ」
「おいおい、いきなり爆弾発言だな、おい……」
目の前に好きな人(?)――礼井野伊代がいるのに、構わずそういうことを言うんだな。だから、いつまで経っても友達が、恋人が、愛人ができないんだよ。
いや、それは間違っている――かもしれない。
こいつはただ単に役として、ドS役として、ボクに構っているだけだから、本当はそういう性格じゃないはずなのだ。
と、ボクが色々考えている矢先のことだった――
『ちゅっ』「んっ!」「ぁんっ!」
どうしてか、この二人――喜入宵と礼井野伊代が、ボクの目と鼻の先で数秒間――接吻を交わしていた。
それも如何わしさ満載といった風に、だ。
キスし終わった彼女たちの間には唾液の糸が引いている――単純にえろい。
「っておい! 何してんだよ、公衆の面前で! ここ学校だぞ? メイド喫茶だぞ?」
「あなたって、案外思っていたよりも驚かないわよね――冷たいわ」
そんな女の低い声で、冷たい表情でそんなことを言われても。
「私があなたを殺そうとした時とか、礼井野伊代がもう一人の妹だったと知った時とか、たった今私が『剣山恵』とキスを交わした時とか――そういう現実を目の当たりにしても、大声をあげないし、意外にも淡々としているというか……、二次元らしい三次元に慣れている、みたいな感じだわ。まあ私は少しお手洗いに行ってイってくるから、あなたたち二人はけりを、つけなさい」
「けり?」
この時、喜入の言いたかったことを、ボクは瞬時に理解できた。
と同時に、二の足を踏んでいるだけでは駄目なのだと、そう自覚した。
◇ ◆ ◆ ◇
「ということですので、私の出番ですわっ。剣山さんには色々と話がありますので」
礼井野はとても嬉しそうな表情でもって言う。
「先ずは昨晩の、あの件についてからでしょうかね? 私の大切な親友と――」
「え!? 知ってるの!? てか、それ以上言わないでくれっ!」
恥ずかしいし、もう思い出したくない! 黒歴史なんだ! 死の歴史なんだ!
「そ、それよりも、お前がさっき運んで来たえっちなパフェって、何がえっちなんだよ」
超絶無理矢理に話を逸らしてしまった。触れられたくなかったからだ。
「えっちなパフェではございませんですわ。これは『えっち! なパフェ』ですわ」
「変わんねーよそんなの! で、本当に何がえっちなんだ?」
見た目は至極普通の、レストランとかでよくあるパフェである。チョコアイスに棒状のお菓子が挿してあり、尚且つ様々な種類の果物も盛りだくさんといった風だ。
「これは、私が『あーん』してお客様に提供するパフェですから」
「流石にそれだけは止めてほしいわ……」
恥ずかしくて食えないよ。実の妹にそんなことをされてしまっては――――
どんな表情をしながらそれを食せばいいやら……
「加えて大サービスとして、私との交尾を――」
「別にお前と体の関係を結びたいとか思わないし、仮に行為に及んでしまったとしても、それはそれで近親相姦扱いになってしまうだろうが、ボクたちの場合。生物学上の場合」
そう、礼井野はボクにとって――ボクたちにとって、大切な家族の一員でもある。
今は諸事情があって、礼井野伊代は何処かの養子になっているのだが、それでも礼井野という存在はボクにとっての『家族方程式』『兄妹方程式』の正しい解なのだ。それだけは間違いないし、確実で、確定的な事実――かもしれないのだ。
つまり、真面目な剣山貴仁は礼井野とそういう関係に落ち合ってはいけないということになるのだ。たとえ妹の顔が整っていたとしても、髪型が可愛いらしくても、いい香りがしても、おっぱいが大きくても、スタイル抜群だったとしても、萌えてはいけない。
「……ごめん、今悪いこと、言っちゃったな、ボク」
「別にいいのですわよ、それくらい! 漫画とかではよく近親相姦していらっしゃるではないですか。なので私たちがそのような行為に及んでも、きっと大丈夫――」
「な訳がねーよ!」
危ないな、こいつの妄想。つーか、激しすぎるだろ!
既に恩と同じ変態領域に来てしまってるよ……
ま、流石は妹と同じ血縁関係だ――似ているところも沢山あって然るべき、か。
「というか、話が大胆に逸れてしまっていますわよ、剣山さん?」
「おっとごめんごめん。つい悪い癖で……」
そうだ、本題に入らなければならないんだった――礼井野伊代の件に関して。
「まあまあ、あれこれつべこべ考え込まずに、私の特製愛情パフェをご堪能下さいませ。せっかくですから『お口あーんサービス』をご利用になられた方が、より楽しめますわよ」
「お口あーんはしなくていいよ……」
「いいから逸早くこの美味しいデザートを召し上がってくださいませっ。お兄様っ!」
ご主人様ではなく、お兄様……。まあ身分上はそうなるのかもしれないけれど。
「分かったよ。『お口あーんサービス』利用するから、その代わりにさっきの件について、詳しく教えて頂こうか」
「分かりましたですわっ。それでは、あーんっ!」
メイド服を着た礼井野がスプーンでアイスをすくい、そしてボクのお口へと運ぶ。
「あーん」
ぱくっ、と一口。冷たいチョコアイスの触感がお口全体に広がる。最近は段々と気温が上がってるし、ちょうどこれくらいの食べ物が欲しかったので、結構満足。
「どうでございますか、お味の方は?」
礼井野店員は凛々しい目をして聞いてくる。
「えーっと、凄く美味しいよ! とろけるような甘さと冷たさがベストマッチ!」
「あらあら、とろけてしまいましたか――それは無理もありませんですわ。だってこの特殊パフェには、私の超々々々濃厚な唾液が含まれていますから!」
「何っっっっ!? 汚ねーよ!」
マジかよ!? 思わず美味しいって言っちゃったんですけど!?
おいおい、吐き出せないじゃないか。どうしてくれんだよ、全く。
「それでは――――」
礼井野はそう言いながら、ボクとは対照的な位置に腰を椅子に下ろし、
「そろそろ正式な会談を始めましょうか――あの件について、あの問題について、」
と、けりをつけましょう――と、真顔で宣言された。
「けりという名の、大きな伏線の回収を――」
幸い、自分たちの座っている席が、教室内の窓側のだったので、周囲に人が混雑しているということはなく、しかしながら、非常に異様な空気が立ち込めている。
ちなみに、さっき喜入と礼井野が交わしたえっちな行動も、他の誰からも目撃はされていないので、一先ず安心だと、思いたい。
「で、何処の場面から話すってんだよ」
こいつとは色々と話すべき事項が多いから、そこを先ずはっきりと決めておきたい。
①妹という身分に関して ②本物の父親の件 (③ボクの昨晩の件)
以上の三つが議題として挙げることができよう(ボクの自殺未遂の件は一応枠外だ)。
ということで、本題に入る。
「では先ずは――剣山家に関してのことから」
言いながら、礼井野は真面目な面持ちになり、座り直す。
「先日、剣山家に行きましたですわよね、私と実輝っちで」
「うん、そうだったけど、それがどうかしたのか?」
ボクは当日の記憶を探る――
6月30日木曜日のこと、ボクは妹の恩と礼井野伊代、そして筑波さんと一緒に、可愛い妹の部屋で会談をすることになった。そして、冒頭から礼井野は言ったのだ。
――私は元剣山家の一員です。本名『剣山恵』と申しますですわっ。
当然、そんなでたらめ情報をボクは鼻から信じてはおらず、その結果現在共に暮らしている妹に怒られ、諭された。
――自殺させてあげたいの?
と、本気の口調で、けれど何処か優しく、ボクという実兄を注意してくれた。
その後、ボクは一応、『剣山恵』という存在があると信じることにして、それで色々雑談をして……
二時間後に漸く『4P』という地獄から開放された。
「それで、私はその際、色々と伏線を残してしまったので……」
「お前もここが二次元か何かだと思ってるのか? どこまで似てるんだ、ボクの妹たち」
と、ボクが嘆息の声をあげると、礼井野は少し驚いたような顔をしていた。
驚きの感情だけでなく、そこには感動そのものが少しだけ滲み出ていたような気がボクにはした。
恐らくこの女子は、姉妹同士、性格が似ているというどうしよううもない現実に、少し嬉しさを感じたのだと、すぐに分かった。
ボクは彼女を理解して、そして彼女を納得した。
遺伝子が似ている――DNAが似ている――
方程式が似ている。
別におかしいところも変なところも何もない。
やはり、この礼井野伊代という女子は、まごうことなき、正真正銘の、正しい妹だ――
剣山恵なのだ。
これで、証明できよう――兄妹方程式のもう一つの解の存在を、実数解を。
「でも、剣山さん自身として、私のことを本当に元家族の一員だとは、思っていないのでございますわよね? 確か、私が真実という名の真実を告白した際、あまり信じていなかったと記憶しているのですが」
「いや、ごめん。それはボクの間違いだった。何もべろちゅーでDNA鑑定しなくても、よくよく考えて、計算すれば、簡単に分かったようなものだよ、そんなの」
だから、過去のボクは、その時のボクは――間違えていたということになる。
一つの問題を、誤答していた、誤解していたということになるのだ。
全く、情けない。
こんなんで学年一位の喜入宵に、勝てるはずもないだろ……
と、ボクは自虐的な思想に耽る。
でも、いつまで過去を振り返っていても仕方がない。
じゃあ、解答を――変えようではないか。
答えを消しゴムで消す――のではなく、証明し直せばいいじゃないか。
「お前は『礼井野伊代』じゃなく、由緒正しい『剣山恵』だ」
だから、ボクは正直な感想を素のままで述べる。
すると、ぽろりと、おもむろに、
礼井野伊代の――否、剣山恵の額に、涙が流れていた。
「――えっ、ええぇぇぇぇ!? ちょ、ちょっと、何で泣いてるの!? ボク、何か悪いこと言ったっけ!? え、ちょ、ちょっ、…………」
あまりの予想外の事態にボクは驚きを隠すことができず、ついつい言動が乱れる。
おいおい、これじゃあボクが店員にケチやら文句やらをぶつけて、挙句の果てに泣かせてしまった風にも、見えないでもないぞ? まずいな…………
「お、おい……! ちょ、ちょっと!」
どう収拾つけたもんか、焦燥感+罪悪感の所為で何も考えられない。
ああ、もう本当に女子っていう生物は!
女はすぐ泣くから、嫌いだ――――だと、本当ならばこのシーンでボクはそのような感想を述べるはずなのだけれど、しかし今回だけはそう述べることができなかった。
何故だろう、一片もそういう負の感情が心底湧いてこなかったのだ――
嫌いだとか、憎いだとか、不思議なことに思うことができなかった――
ああ、もう本当に女子っていう生物は。
「えっと、その……ごめん。泣かせるつもりじゃ、なかったんだ」
ボクって、女子経験が非常に薄いし、女子なんかと一生付き添い合うつもりも一切なかったから、こういうピンチに直面した際、どのように対処するのが正しいのか、皆目見当つかない。困ったな……、これこそ難易度『★10』の問題じゃあないだろうか。
こんな未知の問題、解いたことがないというのに、どうやって解けと。
正しく解いて、正しい解を求めろと言うのだ?
「い、いえいえ、こ、こちらこそ……」
はしたない姿を晒してしまい申し訳ございません――と、礼井野は涙を拭いて言った。
「でも、ありがとうございます、お兄様」
「お、お兄様……か」
これは、本当に本物の、妹だ。
正しい妹なのだ。
決して、一人の女子でも女子でもなく――
本物の、兄として、彼女はボクという人間を視認して、そしてそう呼んだのだろ。
だから、礼井野伊代はボクのことを『お兄様』と呼称したのだろう。
だから、ボクはその証拠を元に、彼女を妹と断定しなければならない。
兄として、一人の正しい兄として、そう思うのは義務でさえあるのだから。
剣山恩と剣山恵は、ボクの妹だ。
これが正しい解であり、証明だ。
じゃあこれから彼女とどう付き合っていけば良いか?
それに対する答えも同時に証明できよう。
単にいつも通りにしていればいい。それだけなのだ。
礼井野伊代という女子が、剣山恵という妹が、紛れもなく好きだから。
剣山恩という妹と同様に、等しく、大好きだから。
ボクは勇気を振り絞って、本当のことを告白する――愛のそれではなく、妹に対するそれとして、真実という『白』を告げる。
「たとえ、お前が余所の家族の一員であろうと『剣山恵』がボクの妹であるという事実は翻ったりしないし、真実であることに何ら変わりはないんだから……、だからボクは、お前が好きだ――たった一人の、たった二人の妹の一人として。妹が、大好きすぎて、死にそうだ」
流石に死にそうって程でもないけれど、過剰表現すぎたかもだけど、しかしながら剣山恩と剣山恵に対する愛情はこれくらいのものと断言してしまってもいい。
決して友情的なそれではなく、恋愛的なそれではなく、家族的なそれではなく――
『兄妹的な好き』である。そういう意味においては、両方とも大好きだ。
勿論、家族という肩書きがあるから好きだという訳ではない。だって、二人ともちゃんと女の子らしいし、流石に異性として目を向けることはできないけれど、しかし仮定としてボクが剣山家の一員でなかったとしたら、簡単に惚れちゃっただろう……
ま、実際、ボクは女子なんかに惚れない――が、けれど。
「お前のことは、そんくらい、愛している」
で、当の本人――剣山恵はと言うと……
「……ぅ……ぇ……、っ…………!」
未だに泣いていて、そして言葉が出せないくらいになっていた。
「え? 今何か変なこと言った? 間違ったこと言った?」
ボクが言葉を発する度に、礼井野の嗚咽は酷くなる一方。
「ご……、ごめんなさい――ですわ。私としたことが――」
礼井野そう言うと泣くのを必死に堪えようとした――鼻水をずずりと啜り、どうしようもなく我慢するかのように。
泣かしてしまった理由はまだ理解できないボクだけれども、でも妹を優しくフォローしてあげるのが、男としての――否、兄としての、役目であり、役割である。
「ごめん。ごめん」
ゆっくり丁寧に、頭を撫でる――可愛い子を愛でるかのように、慰めるかのように。
なでなで、なでなで、と――
すると、彼女は顔をこちらに向けて、そっと微笑んだ。
その笑みは優しくて、微笑ましくて、可愛かった。
加えて、美しくもあった、妹らしかった。
「ありがとう、お兄様」
胸が爆発しそうで、きゅんきゅんして、死にそうだった――死にたくなった。




