【第七問】文化祭、リア充多くて殺したい。(Part 1)
【第七問】文化祭、リア充多くて殺したい。
7月2日土曜日――連立高校文化祭2日目。
妹とは未だに喧嘩したままだったけれど、恩どうやらボクの分まで朝食を作ってくれたようだった。もうすっかりボクの悪事とも受け取られる行いを許してくれているのか否か? まあどちらにせよ、それについては謝る予定ではいるけどな……
「な、なあ――――…………き、昨日は、ごめ――」
「いいからさっさと食べなよ、YKGを。今日は特別唾液50%増量中なんだから」
しかし妹は、あっさりとボクの言を遮り、あっさりとした顔で言う。
「お、おう。あ、ありがとう……」
「そうはともあれお兄ちゃん、体調の方はどう? 元気になった? まあ私の唾液も飲んでるから、どうにかなっているはずだろうけど」
「はあ!? 何のことだそれは!? 『も』ってどういうことだ!?」
「あのね、昨晩急に、筑波おばさんが家に来て、それで失神していたお兄ちゃんが運ばれて来たの。その時、知らない美しい男の人と、伊代お姉ちゃんもいたんだよ!」
「え? 筑波おばさん……?」
おいおい、目上の人に対してそれはダメだろ……
もしそれを本人が聞いたら酷いショックを受けてしまうじゃないか。
でも、筑波さんのことだから、案外そうでないのかもしれない。彼女も一度自殺をしようか考えたことはあるらしいが、しかしボクとは違って実行には一切移っていない、そういう勇敢な人であり、由緒正しい人物なのだ。だから、自然と頭が下がってしまう。
たとえ彼女が『女子』であろうとなかろうと、関係なく――
「で、やっぱりえっちなことしちゃったから、倒れちゃったんでしょ? そうなんでしょ? 知ってるんだよ?」
「そんなことはしてない。それはボクが気絶してても分かることだ」
別にあの行為がえっちな領域に入るのかは知らないけど。
で、そんなことはさておきだ――
そもそもどんな経緯があって、ボクは昨日の夜我が家へと搬送されたのだろうか。
妹曰く、筑波さんに礼井野伊代、そして『知らない美しい男』だと。
美しい男子……? それって日本語の表現としては聊か間違っている気がする……
もしかしたらすると、彼は恐らく通りすがりの者で、それで女子たちだけで男子高校生一人を運搬するのは危険だからということで、手助けしたというのが最も確率が高そうだ。
というか、それ以外ないだろう。
まあ、今はそんなことよりも、文化祭だ。
◇ ◆ ◆ ◇
いつも通り自転車で連立高校へ登校する。
外から見た学校の景色は、本当に何処の高校と同じように、装飾物によって着飾られ、各教室の窓には自分のクラス展示の広告を大きく張っていて、当然ボクたち2年D組の極々普通のお化け屋敷もそのようにしている――中身は風俗店女性のお化けそのものだ。
果たして、お客さんがどれくらい来るのかどうか、予想もできない。
クオリティもそこまで高くないし、何度も繰り返すが本当に普通にお化け屋敷然としている。つまり、恐怖感をより味わえるのは他クラスのそれかもしれない、ということであり、そしてボクたちのお化け屋敷は経営難に落ちるだろう……
大体、風俗の女性お化けって、どんな風におめかしするんだ?
「せっかく頑張って作ったのに……。特に筑波さんなんかは――」
言いかけて、ボクはとある問題に気がついた――否、思い出したにすぎないが。
そ、そういえば…………、き、昨日のこと…………
どうやって謝罪すればいいんだぁぁぁぁぁ!?
なんやかんやで、筑波さんと接吻を交わしちゃったんですけど!?
異常なほどに女子が嫌い嫌いだって言っているのにも関わらず、ふしだらな行為におよんじゃったんですけどぉぉぉぉぉ!? うわぁ、これ後で絶対気まずくなるじゃないか……
もう大体未来が見えてるよ、崩壊しきったボクの精神が……
「かの喜入にでもその情報を知られたらマジで終わる……」
「あら、開口一番、私の名前を出すだなんて、何を想像していたのかしら」
と、ボクの勝手な独り言に割り込んできたのは、本人――喜入宵だった。
「お、お前がどうしてここにいるんだよ? ストーカーか?」
「そうやって悪者にしないで――まあとにかく、ところで、今日の学校祭はどうする予定なのかしら、剣山貴仁」
「おいボクの質問に答えろ。どうして話題を急変してるんだよ」
「あなたこそ私の質問に答えなさい。で、今日はどうする予定なのかしら」
本当にいつも通りに接してくる喜入である。
逆に普通すぎて、平凡すぎて、恐ろしいんですけど……
「いや、今日はトイレにこもって妹から借りてるラノベでも読もうかなって」
「あらそう。可哀想な人だわ、剣山貴仁って」
そんなこと、言われなくても分かっている。ボクは異常を超える程異常で、常軌を逸している、そんな男子高校生なのだ。だから、友達もほとんどいない。
男子となんかも、今はもう話さない。それも、あの件があってからのことである。
「じゃあお前のほうこそ、どうなんだよ? 誰も友達いないくせに……」
「どの面をして物を言っているのよ、下僕の身分で」
「ほらほら、そんなこと言ってるから、友達なんか――」
「でも、あなたは私の友達でしょ? 本当の意味で、正しい友達、でしょ?」
喜入宵という女子は――否、女子は、珍しく如何にも女らしい風に言った。
どうしてだろう、ボクは昨日の午前中と同様に、喜入と一緒に文化祭を楽しんでいる。
本当はこの女のこと、ちょっと苦手だというのに、知らない内に再び一緒にいる。
「先ずは何処の教室展示にに行きましょうか、剣山貴仁」
「……あ、あの、お前の今日のキャラ、何かおかしいぞ?」
突然のキャラ変更(?)みたいなのに、ボクは気が狂ってしまう。普段はボクを精神的にいじり、詰り、いじめる奴だというのに、本当にどうしたのだろうか。
傍から見れば、完全に恋人同士みたいな構図だし……
そう、喜入は何故かボクの右腕を手に取り、まるでラブラブのカップルのような感じで振る舞っているのだ。普段ならば、この女は基本的にボクのことを汚物として見做しているというのに、しかし今は普通に触っている。普通に触られている。
だからと言って、変に緊張したり、欣喜雀躍したり、全くない――
だって、ボクの女子嫌いに漬け込んだ精神的な暴力に、きっと違いないのだろうから。
「どうしたの? 剣山貴仁。まさか私の胸に抱かれて興奮しているの?」
「してねーし、それに胸には抱かれてねーよ」
変な誤解を生むので、そういうのは今だけは止めてほしい限りだ……
本当、こいつは正真正銘のドSだな(ボクに対してだけ)。
ああ、もう早く解放されたいよ。逸早く離れたいよ。
どんだけボクのことが好きなんだよ、喜入宵という乙女は。
「なあ喜入、そんなことより今日はどうするんだよ。何か成り行きでお前と一緒に行動する羽目になっちゃったけど」
「はい? 成り行きだなんて酷い。私は辛気臭い顔で生徒玄関に向かっているあなたに、ちょっと可哀想だと思って、同情して、それで慰めてあげる為に今こうして共に歩いているというだけのことじゃないの。何か不満や文句でもあるの?」
やはりいつもと同じドS口調――だけれど、それは通常よりもやや攻撃性が低かった。
「分かったよ。今日ばかりは、冷淡で美しい女子と一緒に、文化祭を楽しんでやるよ」
ボクは筑波さんにそう言った――不本意50%と本意50%で。
今日という一日を、彼女の為に使おうと――心の中で誓った。
それから20分後のこと、とある場所に寄ることになった。
「――って、ここは!」
喜入宵に言われるがままに、ボクはその店へと入る。
「どうしたの、早速興奮混じりな顔と言葉で、大はしゃぎしちゃって」
「いや!」
ボクはその店の雰囲気に魅了されて興奮した訳ではなかった。
単にここは…………
「「「「「いらっしゃいませ、ご主人様~っ!」」」」」
挨拶からして判別できる通り、ここは通称『アイドルカフェ』や『メイド喫茶』の類の店である。しかもレジと思わしき位置に五人の可愛い女子がいる。
「おいおい馬鹿野郎! ボクが女子嫌いだっていうの、知ってるよな?」
「そう、だから故意にここに連れてきて、それで精神的にいじめてあげようかと」
完全に嵌められた……! こいつは、最初からボクをこうやって弄ぶつもりだったんだ。
こうなったら、駄々を捏ねてでも、ここから退室するしかない!
こんな場所に長居してしまえば(いや、少しでも踏み入った瞬間から)ボクの精神が持たない。
再び自殺しかねないではないか――
「ふざけんな! やっぱりお前と行動なんてできやしない! 帰る帰る帰る!」
「帰る? もしかして土に返るのかしら。うふふふっ」
と、喜入宵は楽しんでいる風に言った。
土に返る――つまり、死ぬ。
「――や、やっぱり帰らない」
「? どうしたの、急に。さっきまで帰りたいって言っていたのに、何よ。私の楽しみを奪うつもり? 消すつもり? 殺すつもり?」
「本当はここにいたくないけど――死んでも嫌だけど――」
「お前に大事な話があるのを、今さっき思い出したから――それをここで話したい」




