表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/41

【第六問】文化祭、何が起こるかわからない。(Part 2)


時間軸は今現在に戻る。

「あのさ、関係ないこと、一ついいか? 前から気になってたんだけど――」

「私のスリーサイズについてなら、教えてあげないこともないけど。まあ、セ■レの体躯に関して知識を刷り込んでおくというのは結構いい心がけだと思うわよ」

「何でえっちすること前提なんだよ。それにボクたち、セ■レじゃないから。多分一生かけてでもならないと思うぞ、そういう関係に」

「まあそう言うのも無理ないかもしれないわ。だって、あなたは女子(メス)が嫌いだものね」

喜入(きいれ)は落ち込んでいる時の口調で嘆息する。

そもそも、どうしてそこまで落胆されなければならないんだ? 喜入ってボクのこと恋愛的な意味で好きなの……? それは悪い冗談だな。

「まああなたの女嫌いは承知しているわ。そりゃあの時、あんなことがあったのだから、しょうがないわよね」

「どうしてお前が――勉強の好敵手である喜入が、ボクの青春事情に同情してるんだよ。まあ、あの時一緒に過ごした仲だからなんだろうけど、でもそこまで同調する必要はないんじゃないのか? だってこれは――ボクだけの問題なんだから」

「何を言ってるのよ、剣山(つるぎやま)(たか)(ひと)。それはあなただけの問題じゃないじゃない。少なくとも私と剣山貴仁の妹さんも深く関与しているでしょ」

確かにそう言われてみれば、そうなのかもしれない。ボクは嘗て人を殺めた。その後、親とは疎遠になり、妹からは真剣に叱咤され等々……、あまり思い出したくないことが山程あるが――それも、全ては勉強不足の所為だと、実の母親から指摘を受けた。

それからだろうか――つまり、昨年の12月27日以降のこと、ボクは女子(メス)という存在を絶対的に忌み嫌い始めた。まるで女子が汚物にしか見えなくなり、存在そのものが闇にしか見えなくなり、実数に見えなり、虚数という偽りのそれにしか見えなくなった。

でも、この世で二人だけ、例外がいた――ボクの隣で看病してくれていた妹の(しだ)。そして、病室でボクと一緒にいてくれた女子とは言えない女子――喜入宵。

妹に関しては、その事件が起こってからは仲良くなった。元々、ボクは妹を一切可愛いだとか、女子らしいとか思ったことはなかったけれど、しかしそれからは好きになった。喜入宵の場合、正式にいつ頃から仲睦まじくなったかは覚えていないけれど、多分学力という武器で互いに互いを傷付け合おうとし始めた頃以降であるのは確かだ。

「……何か、ごめん、喜入。あの時救ってもらった人に、これはボクだけの問題だって言い張って、それで自分だけ問題を独占しようとするなんて、何かおかしな話というか、筋違いというか、そういうのが確かにあるかもだし……」

「あら、今日は威勢がないじゃない、剣山貴仁。いや、諦めが早いだけなのかしら? まあいいわ。そうね、問題は独り占めしちゃダメよ? 問題というのは、勉強した人が必死に計算して解くものなのだから」

「本当に倫理的な意見だな……」

やはり、学校を休んでいた間も『勉強』を勉強していたのだろうか。流石は喜入宵、学年一位だけの力量はある。勿論、ボクよりもずっとずっと、偉人で、異人だ。

いよいよ文化祭ムードによって、ボクの周囲は拍手喝采の嵐と化し、ついには隣の友人の声さえも聞こえづらくなってきた。

「それで剣山貴仁、さっきあなたは何を聞こうとしていたのかしら。もしも本当におっぱいの大きさとか体重とか、そういう類の質問だったら、今から空き教室にでも行って話したいんだけど。密室空間で二人になりたいんだけど」

「こんな状況で空き教室に行こうとしたら、間違いなく他の皆に噂されるだろ! 『あの二人、今頃誰もいない場所でいちゃいちゃラブラブしてるはず』って感じで!」

「え、嬉しくないの? あなたのことだから、喜び勇むと思っていたのだけど」

「そんな訳がないだろ。からかうのもいい加減にしろ! って、そう言えばなんだけど、喜入って今日の行灯行列はどうする予定なの?」

「私は恋人と行くわよ。だからあなたとは歩けないわ。残念残念」

「へー……ん? え、ええぇぇぇぇぇっ!? こ、ここここ恋人ぉぉぉぉぉっ!?」

普段学校では根暗な性格を完全に醸し出して生きている喜入に、彼氏がいたの!?

「お、おい、誰なんだよ、その人!」

「あなたの身近にいるわよ? 気付かないのかしら。まあ倦怠期だからね」

「み、身近ってことは、同じクラス? そして文化祭準備期間で一緒に活動していた人ってこと? え、もしかして……」

ボクは一つの可能性に辿り着いた。

――ちなみに、串本斗は一回か来たのかしら?

――倦怠期だからね。

喜入の言を脳内で整理して、推理した結果、

「串本斗」

それがボクの計算過程から導き出した答え。

だがしかし、

「あなた、本当に殺されたいの? 大事な棒、ちょん切るわよ」

「何でそこまで怒るの? 倦怠期だからか?」

「これ以上黙ってくれるかしら。串本斗は絶対に違うわ。これ以上問い詰めると、本当に殺すわよ?」

と、喜入は真っ向から反論し、物凄い勢いで怒り狂い燃えて盛っていた。

殺す――――

「なあ、喜入。今から空き教室に行かない?」

「いいわよ。私も今ちょうど誘おうと思っていたから、じゃあ私についてらっしゃい」

そう言いながら、喜入はボクの左腕を掴んで、空き教室へと連行し始めた。


◇ ◆ ◆ ◇


原則として、勝手に文化祭から一時離脱するのは認められていなかったが、ボクたちは抜き足差し足忍び足で、どうにか空き教室という異次元世界に到着した。

机と椅子が少々乱雑に配置されていて、前来た時とその趣は一切変わっていなかった。

いや、ただ一つだけ、違うものがあった――それは、今ここにある色気や雰囲気だ。

「いやぁんっ! そ、そこは、らめぇっ!」

「おいおいどうしたんだよ、いつもの大人びた感じがないぞ」

「そ、そんなこと、言われ、ても……」

「ほらほら、今度はこっちだ!」

「あぁんっ! もっと、もっと強く! 激しく!」

「――――って、変なこと言うなぁぁぁぁぁぁ!」

ああ、勘違いしないでほしい――別にボクと喜入はお互いにえっちな行為に及んでいる訳じゃない。ただ、喜入が人気のない所に行くついでとして、今夜行われる予定の行灯行列時の和装に着替えよう、という裁断であって、それでボクは助手として喜入宵の着付けに協力している最中なのだ。

繰り返して忠告しておくが、えっちはしていない。えっちはしていない。

「それで、次は何をするんだよ。いくら妹が土日に着物を着ているからと言って、着物の着付けだとかは本当につゆも知らないんだけど。てか、一人でそれくらいやれよ、天才」

「別にいいじゃない。これはサービスなのよ? この前、引っ切りなしに、ここであなたを殺したんだから、そのお返し」

「お返しにしては足りねーよ! ――あ」

大分前のことだからすっかり忘却していたのだけれど、喜入はボクを一回だけ殺そうとしたのだった。今更ではあるが、そんな世界一危ない奴と、どうしてボクは行動を共にしているのだろうか……? 第一にその理由――ボクをわざと殺そうとした要因――を問い質しておいた方が良さそうだ。

だから、ボクは歯に衣着せず聞く。

「あのさ――どうしてあの時、あんなことをしたんだ? どうしてボクを殺めようと」

「驚かないで聞いて頂戴。実は言うとね、あなたは――」


「あの状態だと、あのまま殺人を犯していたのかもしれなかったからよ」


「? あのまま? 殺人を犯していた……かも?」

「そう、あのまま人を殺したのかもしれなかった。あくまで可能性でしかなかったけど」

この時喜入の言の意図が、ボクには全然理解できなかった。

「その日、何があったかしってるかしら、剣山貴仁は」

「いいや、何も知らないけど――」

「あの日は……」

あなたの正しい恋敵であるところの、串本斗の誕生日なのよ。

と、喜入はいつも通りの平淡な風で言った。

でも、その日に、ボクという人間が誰を殺すのか?

「その日、あなたが仮死状態になっていた頃、つまり生き返るために躍起になっていた頃、彼女は2年D組のクラスに現れた。そう、彼女――安城(あんじょう)(はす)よ」

「!?」

信じられない過去的事実に、ボクは息を呑むしかなかった。

ということは、喜入が言う、ボクの殺そうとした相手とは――――

「そうよ、その通り。あなたがあのまま礼井野伊代と教室で話していたら、遭遇していたのかもしれない。それを未然に防ごうとして、そして串本斗があの女の彼氏であることを、あなたにバレてしまわないように、工作しようとした――」

それが正しい答えよ――と、彼女は文末に付け加えた。

正しい、答え――

「で、でも! それだったら仮死状態にするまで、ボクに悪事を働かなくても――」

「そして、もう一つだけ、理由があるわ」

「も、もう一つ?」

「あなたは自殺を犯してから、どうも人間らしくない人間になっていた。だからそこで、私はこう考えたの――一度だけ真理を――方程式を見てきた方がいいんじゃないかって。それに言ったでしょ、『周囲を欺く』――つまり、人間方程式を偽っているのでは、と」

「!?」

またもボクは言葉を発せられなかった。

まさか、こいつ……、あの『生と死の狭間』、ゼロ次元世界を知っているのだろうか?

まあ、それは本当にただの夢――悪夢の世界なんだろうけど。でも、脳内の世界なんだからゼロ次元という世界を他の誰かが知っていてもおかしくはない――それを認識しているかどうかは別の話として――

「で、あの、かなりいいシーンで、色々聞きたいことが山々あるのは分かるけど、もうそろそろ体育館に戻らない? 話は明日の展示周回の時に、文字通り腰を落ち着けて」

「その表現だと、ボクたち今まで腰を一所懸命に動かしてえっちしてたみたいな風じゃねーかよぉぉぉぉぉ!」

「そんなに大きな声を出さないでよ。万が一、億が一、誰かが聞いてたらどうす――」

「あ、あのー……」

と、本当にタイミングよく――否、超絶タイミング悪く、破廉恥(?)と化した教室に、誰かが入り、そして怪訝そうに声を掛けられた。

「え! 何で筑波さんがここに!?」

そう、筑波(つくば)()()さんだった。この世の終わりというか、闇を見てしまったという風の目線を筑波さんはボクたちに対して向け、そのまま威勢よく、

「ご、ごごごごごごごごごごごごごめんなさいっっっっっ!?」

と、大声を発して、そのまま疾風の如く、踵を返してしまった。

「お、おい! そうすんだよ! 絶対誤解されてるだろ! 喜入、どう責任を取ってくれるんだ?」

ボクは喜入の肩を激しく揺さぶり(結果的に浴衣が崩れた)、とことん責めた。

「な、何よ、責任転嫁するつもり? これくらいの問題は自分だけで解決してよ。この世には、自分だけに直面する問題も少なくないんだから!」

喜入はいやらしい感じに緩んだ浴衣の帯をきっちり締めなおして言う。

先程よりもかなりきつめに結んだのであろう、普段と比べて胸が異様に膨らんでいる。いっつもは制服の上からしか胸部の起伏を見たことがなかったし、だからだろうか、結構大きく誇張されているように思える。

「あら、私が帯を締めてから、剣山貴仁の顔が異常に火照っているように見えるのだけれど、ひょっとして気の所為なのかしら? まあ、女子が和装姿になると、おっぱいがどうしても普段より膨らんで見えるから、それ故に見入っちゃうのは仕方がないわよね」

「そんな訳ないだろ。ボクは女子に興味ないし、おっぱいなんかはどうでもいいんだよ」

「おっぱいとは女の財産なのよ? 貧乳の人――筑波実輝とかは違うだろうけど」

「しれっと固有名詞を用いて貧乳キャラクターを批判するなよ!」

それは決してボクの同情心からではなく、単に人として、人間として考慮したから言ったまでだ。筑波さんの胸が本当にミニだからと言って擁護する為に言ったのではない。

「ついでに、言い忘れていたことがあったわ」

「何? どうせまた下世話ネタだろ?」

「あなたもきっと察しがついているとは思うのだけれど、私は例の次元に関しては何も知らない――つまり、剣山貴仁が体験したであろう夢の内容については周知していない」

「え?」

こいつ、急に何を言っているんだ?

まさか、ボクの誤解を勝手に正そうとしているのか?

さっきは一瞬だけ、『こいつは生と死の狭間を知っている』のだと本当に思ったけど。

ボクの疑問に一切応じず、そのまま流れで話を継続する喜入――勿論、無表情で。

「だから私があなたの計算結果を訂正してあげる。あの世界はあなたの夢の世界だと思っているのでしょうけれど、それは違うわ。あれは夢じゃないのよ。あれは――」


「多重人格障害――解離性同一性症候群の結果なのよ」


「要するに、あなたは偽のあなたという幽霊を作り出して、そしていざ死んだ時に、それを見ることによって、その人格者の命を、本来のあなたに寄与する形で、結果としてあなたは現世に生きているということになるの――まあ、無理に信用してもらう必要はない。それに私は気付いだけで、だからわざと残酷な手段として、あの時殺すことを選んだ。さっきは『あなたの殺人を未然に防止する為』なんて私は言ったけど、でもそれは建前ね」

「…………?」

依然としてクエスチョンマークが消えない。

「もっと言ってしまえば、そんなくだらない理由を背景に、私は欺瞞状態にあったあなたを――彼を、ぶっ殺すことで、正しい『剣山貴仁』を取り戻そうとしたのよ」

「…………」

最早何を返答していいのか、何が正しいのかすら分からなかった。

「私の話はここまでよ。それよりもあなたは今筑波実輝を探しに行かなくていいの?」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ