【第五問】青春は闇がなくては語れない。(Part 3)
◇ ◇ ◇ ◇
過去回想――約一年前のこと。
「初めまして、貴仁君!」
「は、初めまして……。あ、あのー、どちらさんですか……?」
「え? 忘れちゃったの? ほらほら、昨日部室で会ったじゃない」
「ぇ、っと――」
「私の名前は安城蓮。覚えてるでしょ? 漢字は『安い』『城』に『蓮の花』って書くの。蓮は草冠に『連れる』って自己紹介したじゃない。まだダメ? 新聞部の」
「あっ――――」
ぴかぴかの一年生のボクは、新聞部という至極地味な部活に入部した。
昔からパソコン関連が大好きで、それに加えて日本語という一文学が得意だったからである(だったら図書部に入ればいいのにと思われるが、しかし我が校においてそれがなかった)。
「思い出してくれたかな? 私のこと」
安城蓮――あ、思い出した。昨日新聞部にいた人だ。その時は全然挨拶とかもしていなかったし、だから今ぱっと誰なのか分からなかったのだろう。
安城蓮――第一印象はおしとやか、というか、帰国子女みたいな感じの明るい女の子。その輝かしい銀髪に、誰をも魅了するような眼光、大きく膨らんだ胸、けれど少し黒い肌――普通の男子高校生ならば誰もが魅了されてしまうような、そんな完璧な容姿。
こんな美少女――美しい女子を、人生で初めて見た――そう思った。現実世界で、三次元で二次元のような人物が存在するとは。
「その調子だと今思い出してくれたみたいな感じだね。それで、ちょっと聞きたいんだけど、喜入さん見なかった? 貴仁君」
今更だけど、いきなり女子から『貴仁君』呼ばわりされてしまうと、何だか変な気持ちになってしまう! ――って、キイレさん……? 誰だろう、それ?
「だーかーらー、喜入宵さんだよ? あの天才少女で、同じく新聞部の」
「? ?????????」
クエスチョンマークが大量に並ぶ――――キイレ、ヨイ……さん? 天才少女で、同じ新聞部に所属している?
「あれ? 確か貴仁君と同じクラスだった気がするんだけど」
「そ、そうなんですか……?」
ボクは初対面の人と話すように、謙った面持ちで返す。
「え? 知らないの? というか、普通に敬語じゃなくていいよ――私たち、同じ一年生だよ?」
「ぇ、えっと、じゃあ――そ、そうなの?」
「何々、もしかして貴仁君って女子苦手なの?」
「いいいいいいいえ! 断じてそんなことは!」
女子は滅茶苦茶大好きだ。特に可愛いくて、積極的で、可憐で、美しい人なんかは、萌えるし! あ、でも妹は無理かな……、ちっとも可愛くないし、やっぱり妹だけは嫌だ。
「えっと、それで、誰だっけ……?」
「喜入宵さん、だよ? あの子はクールビューティーって感で、周りよりも影の薄い子だから、知らないのも無理ないかもしれないけど」
「へ、へー。そ、そうなんだ……」
しまった、美少女が目の前にいるというだけで、こんなにもコミュニケーション障碍に陥ってしまうとは!? どうしよう、嫌われちゃう!
「あれ? 緊張してるの? どうしたの、急に固くなっちゃって。ああ、何かごめんね」
「…………っ!」
ヤバイ、そんなに強張った表情してるの、ボク!? それに何で今謝られたんだよ!? え、何、自分があまりにも美少女すぎるから、それでボクが脂汗だらだら垂らす程緊張しているって思ってるの!?
「ぃ、ぃぁ、べ、別に……!」
「あらそう、じゃあ良かった」
と、安城蓮はまるで男を落とすかのような――誘惑するような笑みを浮かべた。
まずい! これは極めてまずい! まずすぎる! こんなことされて落ちない男子高校生なんていないよ! ああ、何だか安城蓮を見ているだけで、心が――――
え、もしかして、これって……
「好き……?」
「え? 今貴仁君、何か言った?」
「え!? ええぇぇぇぇぇっ!? 何も言ってない!」
ヤバイ、考えてることがつい出てしまった! でも完全に安城さん聞いてなかったよね、今の反応から鑑みるに! よし、良かった良かった。一件落着だ!
「それで、喜入さん見てないかな? 渡しておきたい資料があるし、それに貴仁君もこれから新聞部として一緒に活動するんだから、今紹介してあげたいんだけど、どう?」
「ど、どう? え、いや、ボクは――自分は、別に……」
言葉がすらすらと発せられない! 脳が上手く回転しない! どうしよう!?
これからずっと同じ部活動に所属する仲間だっていうのに、もう現時点でこんなに対応ができないとか……、これからどう生きていけばいいのやら。
その後――
「紹介するね、貴仁君! この方が喜入宵さん」
「初めまして。1年D組、出席番号32番の喜入宵と申します。得意科目は男――じゃなくって、数学。苦手科目は特にありません。どうぞこれからもよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします……」
結局クラスに彼女、喜入宵という人物はいた。そして、安城さんは彼女を引き出しそのまま部室へ行かずに廊下で初対面の挨拶を交わすことになった。
それにしても、今の喜入さんの挨拶、結構独特的で真面目そうで、(第一印象としては)絡みにくそうな女子だなあ……、初の自己紹介で勉強について触れるとは、なかなかだ。
「何か用でもあるのかしら? 私のプロポーションを見たりして」
喜入さんは挨拶の時と何ら変わらず、非常にシニカルに言う。
「……は、はい? いえ、別に見てませんけれど」
「あらあら、ごめんなさい。私の思い違いだったわ」
「……は、はい」
ヤバイ、変な意味で、悪い意味で返答に窮してしまう……
こんな格好いい男子みたいな女子も、人生の中では本当に初めてであった。
◇ ◇ ◇ ◇
しかしその後、喜入宵とボクは金輪際話さない関係になっていた。学校の生徒玄関でも、教室でも、部室でも、ラインでも――ただ通りすがりのただの『女子』と、彼女は初対面の翌日から化していた。試しに、こちら側から「おはようございます、喜入さん」と挨拶はしてみるものの、あちらからも「おはようございます、剣山貴仁」と返され、そしてそれ以上にかけ合う言葉など皆無だった。世間話をすることも、新聞部の話をすることも、勉強の話をすることも、一切ない。
それに対して、彼女――安城蓮という美少女は一味違った――いやいや、一味ではなく二味も三味も違った。廊下で会ってはあっちから声をかけ(クラスが違うので教室で会うことはない)、部活に出向いた際にも逸早くボクに話しかけてくるし、それに何より、安城蓮の話は面白かった――そういう面白いでなく、自然な面白さだ。
「貴仁君は今日元気?」「貴仁君は勉強できるの?」「貴仁君はどんな新聞レイアウトが好き?」「貴仁君はどんなタイプの女子が好み?」「貴仁君は休日何をしてるの?」「貴仁君は料理するの?」「貴仁君はどうして新聞部に入ったの?」「貴仁君はどんな食べ物が好きなの?」「貴仁君はえっちな女の子とか好きなの?」「貴仁君はえっちが好きなの?」「貴仁君は好きな人いるの?」「貴仁君はどんな特殊性癖を?」「貴仁君は――――」
時が経つに連れて、段々と仲のいい友達となり、次第に思春期じみた会話も混ざってくる。そうして、どんどんと、だんだんと、時間は止まることなく――
◇ ◇ ◇ ◇
季節は真冬に。景色は春や夏の時とは一変し、一面に白銀の世界が広がっている今日。
12月24日、クリスマスイブの日――
ボクは街中に出かける為に、自宅付近のバス停でバスが来るのを待っていた。
どうしてそこへ出向くか、それは明日のクリスマス当日に妹に渡すプレゼントと、好きな人に向けて贈り物を買う為である(そのギフトの相手というのは後々開示しよう)。
勿論、普通のそれではなく、告白の為のそれだ。
「…………って、あれ?」
ボクは不意に、不自然に、横に立っている女子を、反射的に一瞥してしまった。しかし結論から述べると、その奇妙的とも言える行動は正しかったと言ってもいいのかもしれない――決して間違っていなかったと言ってもいいのかもしれない。
「あれ? 貴仁君じゃない? こんなに寒いのにどうして外出してるの?」
「…………! ぃ、いや、それはその……、ちょっと……」
喜入宵――――ではなく、想い人である安城蓮だった。
「ちょっと? 何がちょっとなの?」
首を傾げ、ブラウンのマフラーを揺らしながら、安城蓮は聞いてくる。
ブラウンコートに色を合わせたマフラー、左手には黒い片手鞄を提げ、そして何とも言えない程に――冬らしい服装が似合いすぎるくらい似合っていた。
「……………………」
ボクはすっかり見蕩れてしまった。ずっと凝視してしまった。まるで、真に美しい絵画に出逢って、そしてそれを長時間眺めているかのような、そんな未知の境遇に、ボクは立っていた。
「どうしたの? ――あ、この服装、どうかな?」
「え、ええ!? え、あ、その、似合ってる、お?」
「似合ってるお? 何々、お世辞とかいらないから、正直な感想言って頂戴。それとも言葉では言い表せない程に似合ってるって言いたいの?」
「!」
意地悪な感じで見抜かれていたようだ。
まあ、流石に自身の容姿をまじまじ観察されてしまったら、そう思ってしまわざるを得ないだろうし、ボクの心中など第三者に簡単にバレてしまうかもだが……
「あ、ほらほら、バス着たよ! 貴仁君もこのバスに乗るの?」
「うん、街中に出かけたいからね」
どうして街に行くかについては、しかしボクは述べなかった。
「安城は何をしに中心街に行くの?」
「それは、ヒ・ミ・ツ。今度教えてあげるから」
「は、はぁ…………」
そう言うと、安城は先頭にバスに、軽やかなステップで乗り込む。勿論、それに続いてボクも乗車する。
「…………」
周りには誰もいない。ここに存在するのはボクと、安城蓮と、運転手さんだけだ。
がしかし、
「はぁ、はぁ……、間に合った……」
荒い吐息とともにそう言う人物が、勢いよくバスに乗ってきた。
「お、蓮。すまない、遅れた」
「え、別に大丈夫だけど……、って、まあいいから」
安城は何故か困ったような顔をして、言葉を濁らせるように彼に答える。
彼――それは、ボクもよく知る彼。
「あれ、貴仁じゃないか。どうしたんだよ、こんなところで」
「そういうお前はクラスのムードメーカー兼美男子系男子、串本じゃないか」
そう、同じクラスの大親友こと、串本斗だった。
「って、串本、お前って安城と知り合いなの?」
「ああ、まあ、うん。生まれた時から幼馴染だし」
彼は平淡に質問に答えてくれた。
しかし、その返答には、得たいの知れない何かが潜んでいる、そんな気がした。
普通にぞっとしたし、普通に鳥肌が立った。
バスに揺られながら、目的地に向かうボクたち。しかも、ボクを含めて全員、どの席も空いてるのにも関わらず、手摺に掴まって立ち乗車している。
配置はこうだ――バスの前側にボク、右隣に安城、そしてその右隣に美男子の串本という、非常に奇妙な位置関係だった。もしもこの世界がラブコメ小説だったならば、間違いなくボクらは三角関係という、二次元に多く存在する人間関係に支配されていたに違いないだろう。
まあ、決してそんなことはあり得ないだろうし、心配する必要はないだろうが。
そして、ここに広がるのは謎の沈黙――否、気まずい沈黙だった。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
誰も、何も、一言も喋らない。ボクと昵懇の仲である串本さえも話しかけてくれない。
そんな中、ボクは安城に救済(?)の目を遣った――のだが、事件発生!
「…………!」
安城蓮の大きく膨らんだ胸が手摺にぐいっと押されていた。
「あぁぁん、気持ちいぃ! やばいよこれ、このアイテム」
「……はい? え、えええええっと、き、気持ちい…………? えっと、これは……? その、ええ、まさか」
胸が、おっぱいが押されて、気持ちいいってことなの? とは言えないよ!
でも、この体勢を見る限り、それくらいしか考えられない。でも、そういうタイプの人間じゃないはずだろ、安城は。もしかしたら、これはただの考えすぎなのか……?
妄想が激しいだけなのか……?欲情しているだけなのか……?
「あ、あの……」
「いや、これよ、パソコン作業ばっかやってると、手が硬直してくるからさあ」
と、言いながら彼女がボクの目の前に差し出してきたのは――
ただのマッサージ用品だった。
「貴仁君、どうしたの? 顔赤いけど、もしかして風邪?」
「え、ええ、いや、大丈夫だよ! 気にしないで……、熱があるってのは事実だけど」
病的な熱じゃなくて、脳的な熱だけれどね。
「おいおい、貴仁、熱があるんだったら帰ったほうがいいんじゃないのか?」
「いいや、大丈夫。そういう熱じゃないから!」
「え? どんな熱なんだよ」
「えっと、いや、それは……」
それから、何分か後にショッピングモールに到着し、各々買いたい物を購入し、そして帰りのバスも皆で――無言で――乗車し、そのまま何事もなく、無事帰宅した。
翌日、12月25日、クリスマス当日。
今日は連立高校で生徒会主催のクリスマス会があり、それを取材する為に新聞部の一員として学校にボクたちは来ていた(通常登校の為、制服を着用している)。
「いやあ、随分と人だかりができてるね。これ本当に取材できるのかな?」
「た、確かにそうだね……、これ百人以上いると思う」
その会が行われる場所というのも、かなり狭い生徒ホールであって、人口密度が著しく高い上に、司会者の声は愚か、隣にいる新聞部員の安城の声すら聞こえづらかった。
「ねえ、一旦部室に戻る? 人が引いてからまたここに訪れることにした方が絶対公立いいし、私たちがこんな場所にいても、ただただ邪魔になるだろうし」
「あ、うん。そう、だね」
安城蓮の相応しいであろう判断に、しかしボクは完全に肯定できなかった。
なぜなら、次に部室に戻る時に――安城に告白すると、心で決めていたのだから。
それで、新聞部の部室に着いたと同時に、
「ごめん、安城。ちょっとだけ、話がある」
我ながらできの良い声かけと態度であった――挙動不審な部分は一切なかったし、告白する手前の呼び出し方法としては、かなり平凡で、しかし適切ではあったから。
「で、話って、何? 重要な話? それとも新聞部の話?」
「どっちも。その、じゃあ先ずは――新聞部の話なんだけど」
「何かな?」
首を傾げ、冷静な態度でいる安城はいつもと何ら変わらない『安城』だった。
「その、あいつ――喜入宵っていう女子なんだけど、何でボクのこと無視してるか知ってる?」
「え? シカトされてるの? 貴仁君が」
春に初めて出逢った頃から、喜入宵という曲者とは何もかも話していないし、それどころか同じ新聞部員の中では最も疎遠な人――最も、敬遠されているというよりも、忌避されているような、そんな印象があるのだ。
でも、その理由が分からない。
「安城って女子だし、それに一年生の中でもかなり有名だし、テキパキ仕事できるし、新聞のレイアウトも読者の心を捉えるのに適したものだし、それに何より可愛いし――っ!」
「ありがとう、褒めてくれて」
ボクの不適切な発言に、彼女は何故か謝礼の言葉をし、そして綺麗に、美しく、満面の笑みを浮かべだした。本当に見るからに、美しくて、超絶凛々しかった。
えっ!? 何でそんな反応してるの!? こっちは女子に対して直截変なこと言っちゃって、結構焦ってたし、汗ダラダラだし……!
ああもういいや、このまま流れで――
「付き合ってください」
◇ ◇ ◇ ◇
眼前の美少女はそのまま深くお辞儀をした――と同時に、安城の匂いを感じ取った。
「…………」
ああ、もしかして、これって、ごめんなさいって言いたいから、わざと顔を見られないように、わざとボクの顔を見ないように、そうする為に――
「よろしくお願いします」
「……え?」
思わずボクは拍子抜けした声を漏らす。
「これからも、よろしく――で、いいよね?」
今度こそ、安城蓮はボクに向き合って――現実に向き合って――にっこり言った。
「…………!? ぅ、うん!」
これって成功だよね? 間違いなくOKを貰えたってことだよね?
結構ダメ元で告っちゃったけど、何か上手くいったぞぉぉぉぉぉ!
ヤバイ、これからは『女子』としてだけでなく、『彼女』として、安城のことを見なければならないと思うと、もう胸がはち切れそうになる!
「どうしちゃったの、貴仁君? 何でそんなに顔赤くしてるの? そんなに向き合うのが恥ずかしいの?」
「い、いや! そんなことじゃなくって!」
今ボクは、人生で最高潮に高揚しているんだ。落ち着けといわれる方が無理かもしれない。これからクリスマス会の取材の続きをするのに、こんなままじゃいられないけど、でも――
人生で一回くらいは、別にいいだろう。
「じゃあ、そうと決まれば行くよ!」
「うん!」
ボクは元気溌剌、返事を返した――勿論、喜びの面と、そして引き締めの面を含めて。
「あら、何かしら、安城蓮さん。私に用があるとは、珍しいわね」
「え? そうかな。まあ今回は私じゃなくて、隣の貴仁君が用があるんだって」
「ふーん。そんな男に興味はないわ。私の彼氏は『勉強』だもの」
「……流石は学年一位の学力保持者――って言いたいところだけど、でも本当に貴仁君が困ってるから」
行った先はクリスマス会の本会場――ではなく、新聞部の部室だった。
そこで何やら、喜入宵と安城蓮はボクの横で話していた――否、話をつけいていた。
「え? あ、あのー、安城。これってどうゆうこと、なの……?」
いまいち――いや、かなり状況が読めないんですけど……
「え? 何言ってるの、貴仁君。今ここで早く伝えなよ、喜入さんに」
「伝えるって、何を……?」
「決まってるじゃない――っていうか、さっきまで私に相談してたじゃない」
安城は何処か人の悪い笑みを浮かべてボクに助言する。
「? ごめん、安城。何を言ってるのか分からないんだけど――」
「それともやっぱここじゃ話しづらいかな? じゃあ廊下に行ってきなよ――二人で」
「廊下……?」
それはさっきまでボクたちカップルがカップルになる為にいた場所。
そこで漸く念願の目標を達成できた。昨日買ったプレゼントは結局渡さず仕舞いだった――後々物で釣ったと勘違いされそうだったから。
「私はここで全然構わないんだけれど、剣山貴仁。もしも恋愛的な意味での告白の申し出だったならば、残念だけど無理だわ。生憎私はリア充だから」
「それは現実世界の彼氏じゃないだろ! 勉強の話だろ!」
何故かボクは喜入宵という、恐ろしい女子にツッコミをいれてしまった――まるで身体が反射的に反応するかのように。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙という空間が部室に漂う(一応、他にも紹介していない先輩方もここにいる)。
「……な、何、今のは」
少し嫌そうなニュアンスを含ませて、喜入は苦情の言葉を口にした。
「貴仁君、良かったじゃない。少しは進展したんじゃない? まあ、少しはお役に立ててよかったよ、こっちも。でも、何で私なんかに『付き合って』って言ったの?」
「え? それは――――」
何かがおかしい。
ボクは変な違和感を抱かざるを得なかった。
ボクたちカップルは一度話を整理することを目的として、再び廊下に出た。
「私は、その――てっきり、貴仁君が喜入さんの話を持ち出してくるから、それで故意の相談をされて、それであなたたち二人の仲介人になろうと、そう思ってたけど」
「…………」
「だから、普通に『付き合って』っていうのは、単に『協力』的な意味合いで、私は『よろしくお願いします』って言ったんだけど」
「…………」
「それに、私自身、貴仁君が喜入さんのこと、好きなんじゃないかって」
「…………」
現実というやつに、ボクは固唾を呑んで、そして黙って『彼女』の話を聞く。
「ご、ごめんね。私、貴仁君の事、よく分かってなかったみたい――解っていなかったみたい。私も実は貴仁君のことは好きだし、本当はあの『付き合って』を依頼的ないみじゃなくって、恋愛的な意味にしても、勿論OKを出してあげたいけど――」
「――けど?」
ボクは希望の眼差しと共に、『彼女』の言葉を遮る。
「ごめん。私、他に好きな人、いるんだ」
「へ? もしかして『勉強』とか言わないよね?」
「うん、そんな喜入さんみたいな格好いい女子の真似なんか、する訳ないじゃない」
つまり、現実の世界に――三次元の世界に、ボク以外に好きな人がいるってことになり得るじゃないか? 勉強が彼氏ではないのならば、文脈上の解釈はそうなるはずだ。
じゃあ――――
「でも、私に適しているのは――貴仁君じゃなかったみたい」
「へ?」
安城は平淡な口調のまま続ける。
「私の恋愛における方程式の解は厳密に言えば二つある。だけど、実数解という範囲に対象を絞って、正しい範囲に照らし合わせた場合、あっちだけが正しくなる――そんな気がするの、自然と」
「…………」
何を言っているのか、よく分からない――全く解らない。
「ごめんなさい」
そう言いながら、再び深くお辞儀をした――そして、そのままの姿勢で、
「あなたとは――剣山貴仁君とは男子として付き合えない」
「ごめんなさい」
◆ ◆ ◆ ◆
え、何、ボクって付き合ってるんじゃなかったの? リア充じゃなかったの? カップルじゃなかったの? 恋人同士じゃなかったの? ごめん、意味分かんないんだけど。あんなに深いお辞儀をして、それでよろしくお願いしますって言って、それって完全にボクの告白を受け入れている意味でのそれだよね? 絶対そうだよ? 逆にそんな訳がないよね? 普通。馬鹿じゃないの。馬鹿じゃないの? 馬鹿じゃないの! 馬鹿じゃないの!?
あんな二人っきりの場所で、二人っきりになって、勢いで付き合ってくださいって言われたら、普通はそういう意味での付き合ってくださいになるはずだよね、普通。
え、何々、それとも本当にボクが喜入のことが恋愛的な意味で好きで、それで恋愛相談を請け負う形で、よろしくお願いしますとでも言ったというのか? そんなのありえないだろう。いくら二次元でもあり得ない。三次元でなんて、持っての他だ、普通。
ああああああ、もうこのまま死ねないかな。何か突然家に隕石が落ちてきて、痛みを感じる隙もなく死ねないかな。いや、このままボクが殺人者に豹変して、人類諸共殺して良いかな。世界を、三次元を、赤く黒く染めたい。普通に全員死ねばいい、ボクも同時に死ねればいい。何か二次元とかで登場する幻の聖剣とかないかな。それで人をぶった斬りたいな。どんだけ血で染まるんだろうか。うわあ、全然想像できないな。じゃあ実践してみるか? ははははは、楽しそうだな、それ。皆の死ぬ姿、自分の死ぬ姿、見てみたいわ。いやあそれにしても突然死できないかな、ボク。今すぐ心筋梗塞になって死なないかな。
はぁあ、おかしいだろ、何もかも。普通だったらあり得ない展開だろ、これ。どうして好きな人が二人もいるんだよ。どうしてその二人の中からボクじゃない男を取るんだよ。好きなんだったら別にボクでいいだろう。普通。ああそう言えばプレゼント渡さなくて本当によかったなあ。ああ、もうあれ処分しないとな、燃やしまくって燃やしまくって。
どうしてそんな酷な体験をしなきゃならないんだよ全くどうしてボクだけがどうしてボクだけがどうしてボクだけが不幸を被らなきゃならないんだよおかしい理不尽すぎる。
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本当に世界って面白い。馬鹿みたいで面白い。
死ねって思う。心の底から死ねって思う――
死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい死ねばいい
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――…………
そもそも、生きるって何だろう。三次元って何だろう。世界って何だろう。人って何だろう。男って何だろう。女って何だろう。生きるって何だろう。死ぬって何だろう。
ゼロって何だろう。
それじゃあさようなら、現実という三次元世界。
「さようなら、女子共」
ボクは遺書を記して、12月27日自殺した――最も、クリスマス当日に自殺しなかったというのも、それは単に思い留まったというか、戸惑った為であって、それに二日間不眠症に陥ってしまった所為もあったのか、ボクは普通に自殺未遂を犯した。
そう。だけど、結局失敗したのだった…………
気付いて目を覚ますと病院にいた(まるでドラマの一シーンのような感じだった)。
周囲を見渡そうと思ったが、しかし、
「……あれ」
か細い声でボクは声という人間の行う動作をした。
完全に首を何かで固定されていて、全然動けない――のだが、
「お、お兄ちゃんっ!」「剣山貴仁っ!」
という、三次元で聞き覚えのある三次元らしい音声が耳に入った。
これは、妹の恩と、そして――――一切言葉を交わしたことがないに等しいであろう、彼女、喜入宵が横にいた。
「…………ぇっ?」
妹は泣いている――嗚咽混じりでしゃくりあげている。
それに対して、喜入は冷めた風にボクを見守っていた。
「ど、どうして、お前が、ここに……?」
今にも消えてしまいそうなくらい小さな声で、重症患者よろしくゆっくりと聞く。
「まあそれは後ででいいでしょう、剣山貴仁。こんな状況で言うのもあれだけど、悪いけどあれ、読ませてもらったわ。もしかしたら私が原因で自分を殺めたんじゃないかって、ちょっと不安だったから」
少なくとも、喜入に原因は一ミリたりともなかった。それだけは覚えている。
でも――――
「そ、それに、妹、まで……」
「決まってるじゃない! 心配したんだよ!」
思いっきり殴りかかってきそうな勢いで妹は発言する。
「お、お母さん、は……?」
しかし、保護者であるお母さんの姿はここにはなかった。
「…………」
「…………」
そして、ボクの素朴な疑問に、眼前の女子二人は答えようともしてくれなかった。
「お、お母さん?」
「あなたのことなんか知らないわ――剣山貴仁。そんな名前の人は、私はもう知らない」
「い、いや、でも――」
「どうして人を殺したの、あなたは。私はそんな風に育てた覚えはないけど」
「……そ、それは」
「殺すくらいだったら――死ねばいいじゃない――終わればいいじゃない」
「…………」
「どうして……、どうして? 何で、あの人と――お父さんと同じことしたの? あんたはあの人を見て、何も学ばなかったの? 何も勉強してこなかったというの? どうして私の周りの人は次々と消えていくのかしら。ひょっとして、私って死神なの? 次女はもういないし、配偶者は自殺するし、それに――長男も殺人未遂を犯すし。本当に不幸だわ。不幸すぎてこっちが死んじゃいそう。いや、もう私はあんたの母親としては死んでいるわ――完全に死にきっている。もうこの三次元にはいない。さようなら偽物の子、虚数解」
こうして、ボクは母親に嫌われ、そして今に至る――
また、この時から頻りに妹とばかり関わるようになり、喜入もまた同じくそうだ。
でも、それを決して後悔していない自分も、いる――存在している。
だって、今も尚、三次元として生きているのだから。




