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【第三問】色欲は吐き気がする程キモすぎる。(Part 6)


◇ ◆ ◆ ◇


昨日、文化祭作業途中で喜入(きいれ)(よい)に呼び出されて、それから失神状態(?)に陥っていた訳だから、ボクがいなかった時間帯については、当然ながらどんな作業が行われていたのかわからない。それに、どうして席を外していたのかを他メンバーにどう説明しようか、裁断がつかない。

それに付随して――恐れるべきは()井野(いの)伊代(いよ)という女子(メス)だ。

そして、ことの発端者である喜入宵という存在にも、気をつけなければならない。

はぁあ、どうやって対処するものやら…………

そんな心配事を考えつつ学校に着いた。

が、学校に到着するや否や、ボクは職員室に呼び出されて説教を食らう羽目になった。理由は昨日、許可もなく無断に学校を抜け出し、帰宅したという罪に問われたからだ。別に自ら抜け出したのではなく、喜入に殺されたから――とは流石に言い訳できるはずも当然なかった。そんな小説や漫画などの二次元でしか聊かあり得ないようなファンタジックを語れば、間違いなく教師団から白眼視を向けられ、笑いものにされて、そうしてボクの連立高校生徒としての命が尽きてしまうに違いない。

三次元で生きることすら、ままならなくなるだろう――

担任の先生による説教の後、次に2年D組へと向かった――のだが、

「ええぇぇぇぇぇっ!?」

教室に入って先ずは驚いた。

その要因は二つある――一つは予想以上にお化け屋敷に近づいていたからだ(流石に風俗店にはよっていない)。装飾もアニメレベルでリアルだし、メイク道具も完全に整備されているし、さらに入室しただけで恐怖を覚えるような雰囲気もあった。そして、二つ目の理由は――喜入が欠席だという事実である。

「どうやら今日は体調が優れないとおっしゃっていましたですわ。聞けば夜遅くまで通話をしていただとか」

()井野(いの)伊代(いよ)が薄っすら『恨み』を含ませながら、そう教えてくれた。

「!? へ、へぇ、そーなんだーそれは心配だなー。あいつが夜電かー、以外だー」

礼井野の言葉から鑑みると、どうやら喜入はボクと電話したという過去を話していないようではあったが、しかし多分この女には既にバレているのかもしれなかった。

というか、何で喜入の奴、大事な話があるっていうのに休んでんだよ……、まるでアニメとかでよくある『告白現場に結局お相手の女子が来なかった』的なハプニングが起きているじゃねーかよ……、どうしてくれんだよ。

これじゃあ例の件に関して何も問い質せないじゃないか。

もうしょうがない。こうなってしまった以上、あの件に関しては一先ず棚に上げておこう。決して有耶無耶にはしたくはないけれど、今はそうするのが一番正しいのだし、それにそんな簡単に解けるような問題でもないのは分かっている。

「――そ、それにしても……」

ボクは喜入の話題を逸早くチェンジしようと躍起になる。

それと同時に、焦燥感が相まってしまい、礼井野から目線を外すと、

「……えっ!?」

その目線の先にあったのは…………

「どうしたのです? 剣山さん。まるで新種生物を発見したかのようなお顔ですが」

「えっ!? いや、その……」

凝視している先にある物――それは……

「ああ、それは私の新品のピンクブラジャーと脱ぎたてほやほやの下着ですが、どうかしましたのですか、剣山さん?」

礼井野は何も問題なさげに首を傾げて聞いてきた。

「え、いや、その、えーっと…………」

学校という由緒正しい公共の場で、普通の男子高校生が興奮してしまいそうな物を、平然とクラスの机上に置いておくという行為……

一体、ボクは何と言及してあげればいいのだろうか?

でも、一々そんなことで反応していては、間違いなくそれに注目していたと悟られることになろうし、加えて他にもクラスメイトが沢山いるのだ。

いや、でも! おかしいだろ、これは流石に! 注意せずにはいられない!

「あ、あのさ、礼井野伊代、さん?」

「何ですか? (わたくし)の下着を所望していらっしゃるのですか?」

「いらねーよ! 女子の下着とか、変わり者の男子高校生にとっては不必要なんだよ! それにボクには妹もいるし、仮に必要になったら妹のやつを奪えばいいじゃないか!」

ボクは仰々しく、異常な反論をした。

「あ、妹で思い出した」

「はい?」

妹――

礼井野はボクの妹の存在を知っているのだった。

何故だか分からないが、『剣山(つるぎやま)(しだ)』という人間を知っている。

それが判明したのはまだ記憶に新しい、昨日のことである。

「…………」

あの異常な雰囲気を思い返す――

突如、ボクは女という生物から裏庭に呼び出されて――それも礼井野伊代という凶暴の悪女に――その後二人きりになって、しかしラブコメ展開にはならず、

礼井野はボクの大切な妹の名前を発言した。諸事情があったので、誰にも知られないようにと隠蔽しておいたはずの人物を、しかし彼女――礼井野は周知していた。

まあ、彼女自身がどれくらい知っているのかについては、未だに謎の範疇にあるし、そもそもどんなルートで知ってしまったかについての要因も全く判明していない。

だから、情報源をボクは今すぐにでも知りたかった。

「なあ、礼井野。ちょっと一つだけいい?」

「今日は随分としつこいですね……、剣山貴仁さん」

呆れた顔でもって、そう言われた。

この反応から考えるに、二つの可能性が見出せよう――一つは妹の話をもう二度としたくないから、故意にそういう表情を作ったという可能性、もう一つは本当の意味での、ボクに対する冷めた態度を取ったという可能性。

どちらであっても、決しておかしくはない――が、ボクは妹の話を続けようと、

「どうして妹のことを知ってるんだ?」

結局、ボクは物怖じせずはっきりと聞いた。

すると、礼井野はこう言った。

「では今度、剣山家に遊びに行ってもいいですか――久しぶりに」

それは非常に突拍子もない要求だった。


◇ ◆ ◆ ◇


文化祭準備の作業が一段落した後、ボクは再度礼()井野(いの)を訪ねて尋ねることにした。

「お、おい、礼井野」

「本当に今日は何々ですか、剣山貴仁さん。今はお昼の食事中なのですわよ? もしや(わたくし)の唾液を受け取りに来たのですか?」

「…………」

そう言う礼井野は美味しそうに高級そうなお弁当を食べていた。何処かの豪邸とかで出ていそうな幕の内弁当である。おかずは洋風、和風、中華……が沢山揃っていて、値打ちは多分余裕で相場額一万円を超えているだろう。

「何ですか、そのもの欲しそうな目線は。あなたにはあげませんですわよ? まさか、お口あーんで貰えるとでも思っていらっしゃったのですか?」

「思わない思わない! って、そんなんじゃなくって! さっきの答えなんだけど――」

「答えというのは、私が剣山家に訪問するという件ですか?」

「そう、それのこと。何だよ、話が分かるじゃないかよ……」

流石にここまで来ると、礼井野も誤魔化すことができないと察知したのだろうか、素直にその話に乗ってくれた。しかし、さっきまでの笑顔も一気に真顔になった。

「あ、あのさ、そもそもどうしてボクの家になんか来るんだ……?」

そう、一番の疑問点はボクの家に来ることの利点だ。

多分妹のことに関して何らかの用があるのだろう……が。

しかしながら、妹に何らかの危害が及んでしまうという可能性は決して無視できない。

「……妹のことで、何か用なのか?」

ボクは単刀直入に、且つ慎重に質問した。

「なあ、どうなんだよ、礼井野」

「どうと、言われましても……」

慇懃無礼な礼井野は漸く箸の手を止め、そして顔を俯ける。いや、意図的に食事を中断したというのは誤解で、恐らくは重大な何かと決闘し始めているという風だった。

が、ここで気まずくなった雰囲気を正す為に、明るめな表情を故意に作って、

「ご安心下さいませ、勿論えっちなご奉仕をしますですわよ? 私の大きな房に抱かせてあげますわよ? ちゃんと欲情処理を浴場でしますですわよ?」

「そんなのいらねーよ」

明らかに誤魔化し話題に変えてきたのだった。

「はぁあ、じゃあ話題変更――さっき『久しぶり』って言わなかったか……?」

目の前の乙女は、ボクの家に行くことを『久しぶり』と表現していた。それも後付けのように、付随するかのように言っていた。久しぶりにということは、つまり以前に礼井野をボクの家に入れたということになろうが……

でも、礼井野を――そもそも異性という存在自体を、家に入れたことがないはずなのに、それはおかしすぎる。だから、ボクはその矛盾という強い違和感を覚えたのである。

当然、物忘れしたとかではなかろう――ボクの女嫌いの異常さから分かってもらえる通りだ――万が一女子(メス)が本当に剣山家を訪問したとなれば、覚えていないはずがない。

「あらあら、もうお忘れになったのですか? 以前にお伺いした際、剣山貴仁さんは妹と一緒に毎日ベッドの上で戯れていらっしゃったじゃないですか」

「そんなことした覚えねーよ!? それに、変な言い方すんなよ! 他のクラスメイトもいるんだぞ? ほらほら、滅茶苦茶冷たい視線感じるし! ふざけんな! キャラが!」

「え? あなたはドMですから、そういうのがお好きではないのですか? 毎日罵倒されて、精神的にいじめられて、それで興奮していると、おね――喜入さんから聞いておりますが……」

「!? それは事実無根だ!」

どんな噂を回してるんだ、あいつ! こっちが殺したくなる!

本当に本当に本当に、根から性悪な女だ。今後関わるのを止めにしようかと思うくらいだ。実際、ボクは女が常軌を逸する程嫌いだから、そういうことにしても良さそうだが。

「それで先程の話なのですが、お久しぶりにあなたのお家で遊びたいと、そう所望していますのですわよ? 果たしていいのですか? 悪いのですか? えっちなこと、したくないんですか?」

えっちなことは断然したくない! ――と、再度大声で反論した結果、またもクラスの注目を浴びてしまった。

まあでも、この話は妹に後日にでも聞いておくか…………

流石にボク一人で決めていいようなことじゃないだろう。当然同じ家に住んでいる者の同意が必要になろう。そして、もう一つ重大な事情があるのだ。

それは、ボクの自殺の件に関連するかもしれないとう、危惧だ。

「……………………」

だから、今は礼井野の質問に、答えることはできない。

「ごめん。それだけは後にしてくれないか。こっちだって都合という物があるし、やっぱり同居する妹にも許可は取るべきだし」

すると、ボクの言い分を理解してくれた風の礼井野が納得顔で言う。

「そうですわよね? だって私とあなたの妹とと一緒にえっちなご奉仕、となると、これは俗に言う『3P』になってしまいますわよね? 三人プレイはハードですもの」

「色々と汚い発言はもう御免だぁぁぁぁぁ!」

ボクの意向などこいつは全然理解していないらしかった。

それにしても、本当にこいつもエロエロな発言ばかりだ……

余談だが、礼井野って結構、妹と(容姿を含めて)似通っているところがあるな。

礼井野と妹って実は同じ腹から生まれた(よし)みだったりして――なんちゃって笑笑。

「ま、そんな訳ないか……。でも何でそんなに堂々と卑猥なこと言えるんだよ、お前も妹も。もしも好きな人とかが聞いたらドン引きされるぞ?」

「ぇっっっっ――――!」

と、礼井野はかなり驚いて顔を赤面させた。

ってことは、まさかこいつ、好きな人とかいるんだ!

「え、誰なんだよ、好きな人」

ボクは興味本位で聞いてみる――本来は女子(メス)という下等生物に興味など一縷もないが。

「ぇ、っと――その、ですね……」

言葉を極端に濁らせる礼井野。

「私から距離およそ2メートル範囲内にいます! あ、えっと! じゃなくて――2キロメートル以内にいますですわよっ! あははは」

しどろもどろになりつつ真実を答えてくれる礼井野。

仮に2メートルだったとしても、選択肢がボクだけになっちゃうから、それはどちらにせよないだろうけれどな。訂正する程の失言でもないだろうに……

ボクはそんな面白い仕草をした礼井野に目を向けて、思わず顔をにやつかせてしまう。

「…………――――っ! え……!」

すると、彼女は顔を真っ赤に染め、今にも倒れてしまいそうな感じになってしまった。

「あ、あなたって人はっ!」

バシッ! といきなり、ボクは蹴りを入れられた。

「……ぐうぇっ!」

ボクはその場ですぐに倒れ込む。

そしてそのまま話の続きが礼井野によって為された。

「ということで、()()っちも一緒にお連れいたしますので、行かせてください!」

そう言いながら、礼井野伊代は筑波さんの右腕を手に取り、それを高く上げた。

この際、筑波は真面目に文化祭作業に勤しんでいたので、恐らくこちら側の話になどに、彼女は耳を傾けていないだろう。

がしかし、彼女――筑波さんは意外なことに「ぎゃあっ!」などとみっともない声をあげ、何処か緊張しているような、何とも言えないような顔をしていた。

「行きますよね? 剣山さんのお家に行きますよね、実輝っちも!」

「え、ええ、えええ、ええええ、えええええっと、そ、そそ、そそそ、そそそそ、そそそそその……。えっと、い、いい、行く、よっっっっっ!」

筑波さんらしくない、挙動不審が激しく目立っていた。

この時、筑波さんはボクに背を向けていたので、どんな表情をしているかは定かでない。

「って馬鹿! 何で勝手にメンバー増やしてんだよ! それに、まだ妹の意見だって聞いてないんだぞ! お前が剣山恩の支配する土地に入国していいと許諾されてなんかいないんだぞ!」

「じゃあお決まりです。いつ行けばよろしいですか? 今日? 明日? 明後日? 明々後日? 一週間後? いつなら都合がよろしいですか……? それとも、毎晩、夜?」

「夜を強調するな。いやらしいぞ、それ」

こいつって、大親友の前でもそんな思春期発言してんのか? ちょっとそれって、可哀想だな――ボクだったら友達止めちまうと思うんだが、まあそこは筑波さんなりの優しさなのだろう。

「何も焦ることなどないだろう。そんな今すぐにボクの家に来たいのか?」

「では、文化祭終わったあたりはどうですか……? それでしたら好都合ではないでしょうか? 私にとっても、あなたにとっても、妹にとっても、そして――実輝にとっても」

この際、礼井野が何を言いたかったのか――表の意味ではなく、裏の意味で何を表現したかったのか、勿論ボクは察しがつかなかった。


◇ ◆ ◆ ◇


「ああおかえり、お兄ちゃん。今日は随分と早かったね」

「おお、ただいま」

今日は放課後作業がなかった――というのも、筑波(つくば)さんの計画的な分担作業のお陰で、何もかもが早く済んでしまったので、そそくさとボクは帰ることにしたのだった。喜入(きいれ)は学校に来ないし、ラインをしても未読無視されるし、女たちとは行動を共にしたくなかったし……と様々な要因が重複して、結局ボクは帰ることにしたのだった。

で、妹は今までのような――濡れYシャツ姿、ブラ透け姿、パンツ濡れ姿ではなく、まともな普段着を着用している。それに、決して気取った和服姿という訳ではなく、白桃色の涼しげなTシャツとお洒落な短パンを穿いていた。

そんな乙女がボクに向けて早速質問してきた。

「あのさ、お兄ちゃん。現代社会において、アニメとか漫画でよく萌え妹キャラが多様に多用されていると個人的に思うんだけれど、それについてどう思う? あと、必ずと言っていい程スク水着・ブルマーや浜辺の女子共、ブラジャーシーン、女子同士のおっぱい揉み合い場面、両胸房の過度な強調――巨乳及び貧乳、男子が女子を床に押し倒してからの卑猥回想。別にそれらが悪いとは思わないし、逆に異常に過剰に反応する人の気が知れないけれど、お兄ちゃんはどんなご意向なの?」

「はあ? いきなり何を言っているんだよ。まあボクはそこそこそういう青春系且つ思春期系の回想とかは内心では了承なんだけれどな……。正常な男子高校生は性が好きだし、おっぱいとか見て興奮するし。妹物も人気あるし――社会的に、客観的に考えたらそれはそれでいいと思うよ。ボクは正常じゃないから対象外になるだろうけど」

「ということは、間接的に妹こと私のことが可愛いキャラであるって認めたの! うわあ嬉しい。ありがとうお兄ちゃん。だいだいだいだいだーい好きだよ」

妹は笑顔満載の表情を浮かべながら続けて物を申す。

「いや、そういう意味じゃないけど。あの――これ以上発言するのを控えてもらっていいかな? 日に日にボクのキャラ設定が破壊されている気がするんだけど」

妹との会話を披露する度、ボクという人間の好感度が下がっていくのは多分事実だろう。毎回毎回毎回毎回、剣山恩が登場すれば、毎回毎回毎回毎回、懲りているボクなのだ。

「そうかな? 大丈夫だよ、お兄ちゃんのことだから((かっこ)何も根拠はないけれど)(とじ)」

「それ絶対大丈夫なやつじゃないから!」

毎日妹と会話する度に、ボクの印象と理性が崩壊しているというのは、かなり深刻な状況であるとボクは思う。この物語だって、まだまだ先は長いのだから――

「それで、話を戻すけど、近頃の若僧はちょっとアニメを見てるだけで、ライトノベルとか読んでるだけで『キモい』とか言うよね? それってウザくない?」

妹はイラついたような感じでボクに絡む。

「お前はどの立場からそれを言ってるんだ? でもまあ確かに、アニメとか小説とか読んでる人って、そういうことを他人から言われやすいような気もするな。何だろうな、その人間差別的風潮というか……、何でもかんでも見ずにキモイキモイ言っているな」

ちょっと二次元関連に精通しているだけで、仲間外れにされたり、時としては苛められたり……現代人にはよくあることではあるけれど、だからと言ってそれを肯定したり、正当化したりする訳ではないけれど、やはり時代が時代なのかな……?

でも、それって他人の趣味を否定していることにままならないのではないだろうか。

実際、ボクはそこまでラノベとかは読まないから、深くは知らないけれど。

「だよね。何が好きとか、そんなの自分の自由でしかないものね……」

「何でそんなに自虐的な言い方するんだよ、お前が」

もしかして、ボクの妹は二次元が好きすぎることが学校で暴露されて、それでいじめられている――という線があるのかもしれない。だから、冒頭からボクに突拍子もない質問をしてきたり、アニメやラノベのあり方について討議しようとしたりして、それで救済を求めいているのかもしれない。

だから、ボクは妹の両肩を掴んで真剣に聞いた。

「お前、いじめられてるのか?」

「いいや、そんなことないよ。むしろ学校では超人気スターなんだよ?」

「お前がどうして人気スターになれるんだ……」

なれる訳がないだろ……、絶対!

こんな思春期爆裂少女が学校一の存在だとか、何処のアニメのヒロインだよ……

それに、こいつに関しては酷いくらいの二次元好きだということは、ボクは知っている。事あるごとに、アニメで出てくるようなえっちなシーンを醸し出したり、自分の普段着が和服であるところだったり……、と掘り下げればどんどん証拠が発掘される。

そして、何より――この妹はボクと一緒に近親相姦をしようとするレベルの、二次元への憧れを持っているのだ。

「…………」

「あれあれ、お兄ちゃん。急に黙り込んでるってことは、私のえっちな裸体でも想像してるのかな? もしよかったら、この場で見せてあげる? お兄ちゃんの想像が本物とどれくらい違ってるのか、確かめる為にも!」

さっきよりもまして元気な声で言う妹は、以前と同様に衣服を脱ごうとする。

「止めろ止めろ止めろ! そうやってボクを崩壊させるな!」

「崩壊なんてさせてないでしょ。せっかく可愛い妹のえっちな姿を共有できるっていうのに……。アニメの主人公だったら絶対見てるよ、この情景描写ならね」

「だーかーら、何でもかんでもアニメでたとえるな! どんだけ好きなんだよ……」

呆れを思わず吐露してしまう……

「そうだ、確か現代日本のアニメや漫画についてを語ってたところだったんだ! そうだそうだ。それでさあ、私個人としては――近頃『妹』キャラが非常に増加していると感じているんだよね。何だか妹の人口だけが増えてるよね。少子化は防げそうだけど、女子ばかりだと何の意味も為さないと思うんだよね。で、どう思う? お兄ちゃん的に」

まあ、現実問題として――妹属性が近年異常な増加を遂げているのは事実。それくらいはアニメヲタクでなくても知っていた。

最近の創作物のタイトルには『妹』という語句が挿入されていることが多いし、逆にたとえその言葉がなくったとしても、ストーリーライン上では男主人公には必ず妹が存在している。で、妹に恋するとか、逆に妹に恋されるとか…………?

何が故に妹キャラばかりが増えているのか(この物語でも十分に妹が出てきているけれど――多用されているけど)、皆目見当つかない。

それに加えて、近年の作品は二次元らしい二次元ばかりで、現実味がほとんど失われていると聞く。まあ、時代の傾向なのか、それともヲタク勢を釣る為なのかは知らないが。

「ひょっとして『妹』という存在は『萌える』からなのかな? お兄ちゃんも同然、私に惚れ惚れしているけれど、やっぱりそうなのかな?」

「ボクは別に、お前に惚れ惚れなんかしてねーよ。流石に身内に惚れるとか憧れるとかはねーだろよ。身内を好きになるとか、どうゆうことだよ……」

「え? ラノベの主人公だったらよくあることじゃない? だから、お兄ちゃんも私のこと好きになっていいんだよ?」

と、妹は他人をにっこり萌え萌えの表情でそう言ってきた。

「ああ、そういえばなんだけど、『(いも)』って古文単語的な意味だと『いとしい』って意味があるんだ。だから妹という存在は現世でもいとしくて萌えるんじゃないのか? 勝手な憶測になるけど」

「へー、そうなんだ。何で知ってるの? お兄ちゃんが」

「普通に高校で習うからだよ。それにしても『(いも)』って凄いな。平安時代の日本人でさえも妹キャラに萌えてたとは。まさしく温故知新って奴だな」

「いや、何だかそのオチみたいな解釈、多分間違ってるよ。『(ふる)きを知り新しきを知る』的な要素が何処にあるの?」

「……まあ、そうだな。確かに」

「もう、お兄ちゃんてばっ!」

先程と同様に、妹は超絶可愛い笑みをボクに向けてくる。

その笑み自体は確かに可愛かったし、平凡の男子高校生であれば間違いなく落とされていたに違いなかろう――がしかし、その所業はボクには通用しなかった。

これを喜ばしく思うべきなのか、それとも悲しむべきなのか、果たしてどちらが正しいのかは判断し難い……

「どう? 萌えた? 好きになった? きゃぁっ!」

「いや、ごめん。ならない。可愛かったけど、やっぱりボクは――」

三次元であっても、二次元であっても――女子(メス)は好きになれない。

と、ボクは非常に重々しく発言した。

すると、妹の表情も曇りがちになり、

「そ、そうだよね。お、お兄ちゃんは、もう……」

悔しい感じで、口惜しい感じで、感想を述べたのだった。

そもそも剣山恩という乙女はボクにとって妹なのだ――妹であり、そして命の恩人だ。

「それにしても、今日は随分と『妹』が議論の渦中に置かれるな」

妹――

妹ねぇ――妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹、妹……

って、妹……

あれ、妹……?

ああ、妹……!

「そうだ――妹と言えば、あいつの一連の件だ!」

「ど、どうしたの? お兄ちゃん、いきなり声大きくしちゃって……。欲情したの?」

「急に欲情する兄とか妹としては最悪じゃないのか?」

――貴仁の妹さんって、剣山恩さん?

()井野(いの)伊代(いよ)は何故かボクの妹の人名を把握していた。

剣山(つるぎやま)(しだ)』の名前を一句間違えることなくはっきりと――言い放ったのである。

自分から教えたわけでもないのに、ましてボクは恩に関する情報を第三者に対して詳らかに開示している訳でもないのに――例の彼女は何の前触れもなく聞いてきたのである。

わざわざ人気のない裏庭という危ない場所にボクを移動させてからのこと。

唯一無二のボクの妹の名を口にしたのである――本当に何一つとして前兆もなしに。

そもそもどのような経緯があって二人きりになったのかは今は割愛しておくが、どうしてそのようなことを尋ねてきたのかについての理由は未だに合点がいかない。

だから、今ここで――念の為に、妹に聞いておくべきだろう。

だから、今ここで妹に、礼井野という人間の把握を確認すべきだ。

礼井野は過去にボクたち――剣山貴仁と剣山恩に出逢っているらしいしな。


◇ ◆ ◆ ◇


そのまま立ち話をしていたボクたちは、黒いTシャツ普段着に着替えてから、リビングに向かい、そして妹と仲良くソファーに座って話すことになった。そして今現在、ボクと妹の物理的距離はおよそ1センチメートルしか――否、ゼロ距離だ。

このカップル的光景を他人に見られてしまえば、ラブラブ兄妹と言われかねないが、別にこういうのは普段からやっていることだし、慣れているので問題ない。ああ、勘違いしないでほしいのだが、別にボクの方から積極的にそういうことをしているのではなく、単に妹の方から近寄ってきて、ボクがそれに従っているというだけのことだ。

妹を女子(メス)としては見ていないのだし、まして家族なのだから、別段嫌悪感を抱いたりしないし、それに加えてボクの妹は命の恩人でもあるのだ。そんな人に対して距離を取るなど、無礼以外の何物でもないだろう。

「あのさ、お前って、礼井野っていう人名を聞いたことがあるか? ()井野(いの)伊代(いよ)

「…………? 何、唐突に?」

誰その人? という感じで妹は首を傾けた。

やはり知っている訳がないか……、頭が冴えている奴でも分からないか……

「誰? レイノイヨさんって人? もしかしてお兄ちゃんの彼女さん?」

「そんなわけないだろ。どうしてすぐに恋愛要素を絡めてくるんだよ」

「だってお兄ちゃん、妹キャラ好きなんでしょ? 大大大大大好きなんでしょ?」

「何で突然妹の話に戻るんだよ! 今は礼井野の話をしてるんだ!」

というか、すぐにラブコメ要素を取り入れるって、まるで二次元の世界じゃないか――いやでも、三次元の若者も基本的に該当するか。まあ、そんな話は今はどうでもいいが。

「え、だって彼女とか恋人っぽいじゃん――いきなり何の兆しもなしに、異性の名前を出すだなんておかしいよ。そりゃあ愛人だと思っちゃう訳だよ」

「いや、勝手に思わないで。まあでも、その人とはちょっとあって……、色々あって」

ちょっと色々あって――……

剣山(つるぎやま)(しだ)――ボクの妹の存在を周知していた()井野(いの)伊代(いよ)

この二人には一見何の縁もゆかりもなさそうなのだが、念の為調査しなければならないというのは確かである。ボクには妹を守秘する義務があったというのに、その妹の情報が外部に漏れていたのだから、最後まで責任を持って事態に対処する必要がある。

「それで、その人のことなんだけれど――」

「はいもうその話は終わり! 妹についてより深く議論をしよう!」

「話を変えるな! いくらなんでも突発的すぎる。どんだけ自分が好きなんだよ」

どうしてそこまで『妹存在意義』について語り合いたがろうとするんだか……?

もしかしたら、自分も妹キャラ然としているから、自分で自分を褒めようとしている?

「大体、現代における妹人口とか、アニメの話はもう十分しただろ!」

「そう? なんだかさー、ここがアニメだったらいいのになって時々思うんだよ」

恩は羨ましそうな顔をして発言する。

「どうしてアニメの世界がいいんだよ? ボクには全くと言っていい程同感したり賛同したりすることはできないんだけど……。だってアニメって二次元だよ? 平面世界なんだよ? 数学的に言うと、座標要素がxとyしかないんだぞ?」

平面世界とか、絶対行きたくない――死んでも。

「いや、だってアニメって何でもし放題じゃんっ!」

妹はソファーから勢いよく立ち上がって言う。

ていうか、根拠が軽薄すぎる! それって何でもしたいって言っているもんじゃ?

「お兄ちゃんを殴打しても119当番されないし、過剰にえっちな発言とか容易にできるし、それにOPとかEDで歌えるんだよ? こんな文字と絵だけの世界じゃ死んでしまうよ。てかもう死んでるよ……。動いてないよ」

「オープニングやエンディングを格好よくOPとかEDとか表現するな。っていうかそれって、ただ単に歌いたいだけじゃないのか? それだったらアニソンでも熱唱してろ、カラオケとか行って」

「? 兄損って何?」

「ボクが損しているなんて言ってない!」

何で駄洒落っぽくアニソンを兄損と表現してんだよ。ちっとも面白くなんかないぞ。

「いやいや損してるよ。だって色んなシーンでお兄ちゃんとえっちな行為に及ぼうと誘惑してるのに、全くえっちなことしてくれないじゃん? それって単純に損してるだけ」

「それだったらボクは得する人だ!」

「それに私は四次元にも憧れるよ」

「ゼロはあるけれど、四次元は存在しねーよ。だってよく考えてみろよ――三次元世界を数学的に現すと座標要素がxとyとzなんだよ? それにもう一次元追加するってのは無理な話だろ」

ゼロ次元ならともかく――死後の世界ならともかく――四次元はないと思うボク。

それともzの次に何か新しいアルファベットでもくるのか?またはaaというように表記されるのか(複雑すぎる気が……)。

「でも四次元でどうやって子供とか作るの? どうやってえっちなことできるの?」

「だから、四次元はないって。何でも出てくるポケットは架空の話なんだから」

「えー、それじゃあえっちなことできなよぉ」

「そんなえっちえっちえっちばっか言ってないで、お前も少しは大人になれよ! この真正のド変態めっ!」

「それはお兄ちゃんだ」

それはともかく、話の本分――アニメの話ではなく――礼井野伊代というとある女人物についてである。妹である恩と彼女がどのような関係性を持っていて、そしてどのような関連性があるのかについて、しっかりと詳しく調べておく必要があるだろう。

それだけはボクにとって、死ぬまでには解明しておきたい事項だ。

「…………」

「で、お兄ちゃん。何でまたまた黙り込んでるの? 何か妄想してるの? 今日の妹のブラジャーは何色とか、下着の色は何色とか、私の舌から垂れ落ちる唾液の画とか、私の好きな人が誰なのかとか?」

「えっ! お前、好きな人がいるのか! それは驚きだ! ようやく真面目に将来計画を考えるようになったのか」

いや、好きな人ができただけで、未来目標を立て始めたと判断するのは聊か過言である気もするが……そもそも結婚云々抜きで、告白して振られちゃったらもうそれでお終いじゃないか。

そう、全てが終わる――恋愛とはそうなのだということを、ボクは知っている。

「ていうか、何で好きな人ができるだけで、真面目な将来計画をし始めたのだと推測するの? 気持ちが高ぶりすぎだよ、お兄ちゃん。それに将来の夢くらい私にもあるし」

将来の夢というのも、きっとえっちな類だろうが……

「好きな人という存在は非存在じゃないんだから」

「? どういうことだ? 何か意味わかんないし」

「じゃあとても分かりやすく教えてあげるよ。数学的に言うと『好きな人という存在』を実数として、『非存在』を虚数とします」

「いきなり論理的な表現の仕方だな……」

それも何処かで聞いたことがあるような話題だ。

「それで、二つに分別したところでどうするんだよ?」

「つまり、実数というのは必ずこの世に存在していて、そして虚数というのはその逆――したがって、『存在』はノットイコール『非存在』であり、それから――」

「もうよく分かんねーよ! 余計に分かりづらくなってるよ!」

「結局は、好きな人は絶対的にこの世界に――三次元世界に存在するってこと」

はい?

全然理解できなかったので、ボクは妹の世界論を無視して、

「で、話戻るけど、お前はどんな人に恋に落ちたんだ?」

「それは、ヒ・ミ・ツ――にしたかったんだけど、やっぱりやーめた。隠してもしょうがないしね。私は人に秘め事をしたり、嘘を吐いたりするのが嫌なんだよ」

「それ自体が嘘だろ」

普段から嘘ばっかりじゃあないか――ボクとえっちしようとしたりするし!

「そう? 唾液ご飯だって嘘じゃなかったでしょ? 本当に私が味見してるんだから。それに私の好きな人が誰なのか、本当はもうお兄ちゃんには分かるはずだよ?」

「ということは、身近な人物だっていうこと?」

そのような人っていたか? 妹がいかにも惚れちゃいそうな、格好いい男の子。

というか、こいつの好きなタイプって何だろうか?

ドS系? ドM系? 高身長? 低身長? ツンデレ? ショタ系? 二次元?

いっぱい種類がありすぎて皆目見当つかない……

「なぁ、ヒントの一つや二つくらい、解答の提示しておいて欲しいんだけど」

「えー、分かったよぉ……」

妹はボクに不意にそっけない態度で言う。

「お兄ちゃんに似てる人――ヒントというかもう正解に近いかな」

「お兄ちゃんに似ている人……?」

どんな奴だよ? もしかしてその好きな人が『変人』だということか?

もしかしたら異性としてボクのことが…………そんなことはないか。それはラノベだけの世界で許される行為であり、感情であり、そして方程式なのだから。

「でもやっぱり、お兄ちゃんが世界で一番好きだよ! だーいだい大好き 今から濃厚でえっちなご奉仕しをしてあげるよぉ」

「おい、何だよそのオチは! 予想だにしない内容の展開だな! 好きな人をここまで誤魔化しといてこれはないだろう。お前は読者に落胆させる気なのか?」

「何を言っているのか理解できないよ、お兄ちゃん。日本語を喋って。Please speak Japanese. Oh! You cannot speak Japanese? I’m Sorry ひげ剃ーりー……」

「…………」

妹はとても発音よく英語をべらべら話し、それと同時にクソつまんない親父(おやじ)ギャグをかましてきやがったので無視することにした。

「で、もう一つ気になったんだけど、お前の将来の夢って何?」

「そんなに気になる? だったら教えるけど」

「まあ一応知りたい……かな?」

「そんな勢いのない言い方だったら教えない。そんな人に私の夢を語る義務はない」

「知りたい知りたい! 早く教えてください」

何でここまでボクが(へりくだ)った言葉を言わなければならないんだよ。

もう兄としての立場じゃねーだろ、これ……、悲しすぎる現実だ。

「しょうがないなぁ、お兄ちゃんは。私の将来の夢はラノベ作家だよ」

元気にそういう妹は言った――それも案外真剣そうに。

強い志があるようで、そして強い心意気でもあった――

「…………」

ボクはというと、何故かそれに気圧(けお)されてしまい、言葉が出せなかった。

「……へ、へぇ、そうなんだ。知らなかった」

「だって誰にも教えてないんだもん――これは私たち兄妹だけの禁断のヒ・ミ・ツ」

秘密ね、秘密(普通に隠し事しているじゃないか。さっき言っていたことと早速矛盾している)。まあ、大事な妹の話題を誰にも言うつもりは全くと言っていい程ない……

「でも以外でもあったな――お前みたいな思春期女子がそこまで強い願望――確固とした素晴らしい夢を持っているだなんて」

「そう? 私って案外そういうタイプでしょ。さっきも言ったことだけど、最近の若者ってのは小説や漫画のタイトルだけでキモイとか言ったり、ちょっとえっちなシーンがあるだけで『うわー無理』とか思ったり、そういう風潮が私は嫌いなの。嫌なの」

妹は再び世を厭い始め、嫌味を含んだ顔をする。

「だから私は小説という一文学で――ラノベという若者が主に読む小説で、そういう悪い癖というか、良くない何かを――嘘を正したいって思ってるの」

その言い草は、かなりしっかりとしているもので、ボクは思わず「うん」と頷き、納得せざるを得なかった――理解という域に及んだのかは定かではない。

「意志が固くて強いから、だからさっき『勢いのない言い方だったら教えない』とか言ってたのか。納得する外ないな、流石はできた――できすぎた妹だ。できすぎちゃんだ」

ボクは再度隣に座りなおした妹に感心の言葉を口にした。

「あのね、お兄ちゃん。ここで言うのもおかしいけれど、お兄ちゃんはもっと、妹について勉強するべきだと思うよ?」

「妹について、勉強?」

はたまた妹の話題に帰還してしまった(今日は本当に『妹の日』なのだろうか?)。

「もうちょっと妹について理解した方がいいと思うよ? お兄ちゃんは」

「っていうことは、ボクはお前をもっと知るべきだと?」

「そうそう」

妹は首を上下に頷かせる。

「お兄ちゃんはもうちょっと妹について勉強した方がいいよ。特に私の気持ちのことを」

「お前の気持ち……?」

そんなの、常に気遣っている。妹を第一に思っている――想ってもいる。

だって、この世でたった一人の妹で、たった一人の命の恩人なのだから――

「例えば私の好きな人についても」

妹は何故か突然、冷めた口調になる。

「じゃあそろそろ好きな人を教えてよ。いるんだろ? 嘘じゃないんだろ?」

「どうして気になるの……? もしかして、私の好きな人を横取りする気? 最低だね」

「おいおい、横取りなんかしねーよ。しかも、お前が女である限り、つまりボクとは異性である限りにおいては、ボク自身がたとえお前の恋する相手を強奪したところで、それはつまり剣山貴仁ホモ説が拡散しちまうだろ」

残念ながらボクにそのような趣味はない――いくら女が嫌いでも。

「やっぱりお兄ちゃんは、私のことが好きなの? 恋愛的な意味で」

「何で突然そんなことになるんだよ――――好きな訳、」

ないだろ。

ボクは若干間を置いてから、反論した――あまりに真っ向から反対しすぎると、妹に嫌われてしまう予感がしたからだ。

女子(メス)に嫌われるのは別にいいが、しかしながら妹だけには嫌われたくない。

それだけは、嫌だ。

「あっ!」

と、突然ボクの妹は何か閃いたような顔をし、声をあげた。

「礼井野伊代――だっけ……?」

「あ、うん、そうだ」

何だよ今更感はあったが。

そういえば、その案件に関しても未だに解決していなかったな――っていうより、普通にそっちの方が重要性が高い。本来議論の俎上(そじょう)にあったのは、礼井野の件だけだったし。

「えっとね。確かその人は――」

何処かの養子なんだってさ。

「――よ、養子……?」

妹の物言いにボクは思わず困惑を示してしまう。

「そう、養子なんだって。その子」

「へえ。他には何か知っている情報はないのか? もしあるんだったら逐一報告!」

妹の好きな人なんかはもうどうでもいいから、彼女の安全を無事確保するために、それだけは教えて欲しかった。

「え? だって個人情報だもの。教えるわけには――」

「いいから教えてくれたらどんな要求にも応えるから! たとえその請求が、えっちなものだったとしても、近親相姦だったとしても!」

「お兄ちゃん。思ってることが口に出ているよ……?」

「何を言っている! いいから秘密を吐きやがれっ!」

ボクは興奮気味でそう言いつつ、妹を問い質した――のだが。

しかし、その後の妹の返答はあまりにもあっさりとしていて、正直欲しい解答が得られたという実感はしなかった。

なぜなら――妹こと剣山恩はこう返事をしたからだ。

「伊代お姉ちゃんじゃない」

伊代、お姉ちゃん…………?



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