【第三問】色欲は吐き気がする程キモすぎる。(Part 4.5)
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『そう、生きることが方程式の解となり得る――
『人間の心の内側には「人間方程式」というものが組み込まれている。
『まあ生物基礎で言うところの遺伝子構造式みたいな感じだ。そんなのが予め生きるに当たって埋め込まれている。それに、その方程式は全て実数から成り立つ。
『詰まるところ、人間の方程式によって、過去、現在、未来などの人間的超空間も――、性別、四肢、骨格、筋肉、内臓、血管、大脳、神経などの人間的肉体も――、家族、父親、母親、兄弟、兄妹、姉妹、友達、親友、恋人、愛人などの人間的関係も――、好悪、甲乙、感情、夢、希望、情、友情、愛情、激情、喜怒哀楽などの人間的心情も――、科学、化学、生物、地学、地球、海、山、川、大地、宇宙、銀河などの人間的幾何学も――
『概念としては、方程式そのものがイデオロギーの一種としてモノを仲介する。
『つまりは何もかもが式として成立する。たとえば、人間の物質構成を分解すると分かる通り、あらゆる全てが物質らしい物質であろう? 水だとか、炭素だとか、生きとし生ける人間共でも知っているような物質だけでなく、その性質がよく分かっていなかったり、幅広く知られていない物質もまだまだある。
『じゃあ、今の人間的原理を踏まえて、「生と死の狭間」についての学習といこう。
『学習、つまり勉強だ。何も難しい話じゃないだろ?
『人間がいて良い世界――それが三次元であり、そして方程式で出来ているのは前述の通りではあるが、じゃあこの世界は一体何なのか? それについての正しい解――
『ここは数字の存在しない――数字を忌み嫌った、言わば「逆数の世界」なのじゃ。
『数字がない、つまりは方程式がない、ということはすなわち虚数の世界とも言えよう。実数解がなく、虚数解があり、そして三次元ではない。
『それがこの「生と死の狭間」という空間――生殺与奪の世界であり、そしてゼロの世界。
『要するに、ここは虚像だけで構築された、解のない方程式で象られた偽りの世界。
『ちなみに、死後の世界は「無次元」という言い方をするのが正しい。そして、正式に死んだと判断されると、意識という方程式がなくなり、人間としての方程式が破壊される。
『まとめると、三次元を表として、ゼロ次元を裏とした場合、ここは裏の世界として定義される、ということだ。実数ではなく虚数、実像ではなく虚像、ノンフィクションではなくフィクション。二次元の物語系ゲーム的に表現すると「裏面ワールド」って奴だ。
『では、最後の話題ということで、問題提起。
『人間はどうして勉強するのか?
『その問に対する答え――方程式の正しい解は、
『生きる為――人間は勉強することで生きる。または、生きることで勉強をする。つまりはこのように可逆変化的理屈や等価交換、ないし必要十分条件として、そのような定義ができる。だから、その問に対する答えは、同じ人間たちと生きる為、になるんだ。
『証明終了、Q.E.Dだ』
長々とした彼の言論はここで漸く終わりを迎えたようだった。
「って、どうして倫理の勉強をする時間になってるんだぁぁぁぁぁ!?」
予想外の展開にボクは大声を挙げた。
ボクって確か生きるか死ぬかを選ぶという、超重大な選択をこれからするんじゃなかったのか! なのにどうして、人間的哲学をこんな次元で教えられているんだよ!
何々、ひょっとしてだけど、生きるか死ぬかの決断をするんじゃなかったのか?
『おいおい、どうしたんだよ、馬鹿。何処か腑に落ちないところでもあったのか。あるならあるで、分からないなら分からないで、言ってみろ。質問は質問する為にあるもので、問題とは問題になる為にあるのと同様、疑問があるのならば全力で俺に聞け』
「は、はぁ……?」
何をどのように返答するのが正しいのか分からず、疑問符付きで応答した。
その後、さも自然に質問とやらを彼にしてみた。
「生きるか死ぬかの選択をする時間じゃなかったの、ですか……?」
『どうしていきなり敬語口調なんだよ、お前。本当に馬鹿馬鹿しくて面白い生き物だな。ま、そんなことよりもだ。これからお前にはそれを決断してもらう――授業を基にして』
「決断? 授業を基に、して?」
つまり、例の三次元論を前提として、これからボクが生きるかどうか、死ぬかどうかを決めなければならない、ということだろう……
まあ、その諭しを聞こうが聞かないが、果たしてボクの意向が変わる訳でもない。
『死ぬ』の一択しかない――死ぬ以外ないのだ。
人生で一度は死のうと思ったことがあるのは先述の通り、本来ならばボクは人間としているべきではなく、あるべきでもないのだ――本来ならば、本当ならば、そうだった。
ボクは昔に死んだはずだった――いや、ボクにとって死ぬことが正しかった。
でも、死んでいない。未だに生きている――死にかけてはいるが、まだ生きている。
三次元で生きて、そして毎日、い色々なことを勉強している――まだまだ至らないところもあるのは事実だが、やはり勉強をしている。
と、ここで、何故か急に、ボクの頭の中に変な音声が流れてきた。
今まで間接的に耳にしていた幻聴ではなく――つまり、彼の声でなく、
奇妙で、不思議で、怖い音声とも言えるような、そんな音声が――――
――お兄ちゃんっ!
――見るからに童貞だもんね。
妹、剣山恩の音声がボクの頭を過ぎったのだ。
――剣山貴仁が剣山貴仁であることを証明する。
――あなたを殺す――――死になさい。
喜入宵の罵倒にも似たドS発言、及び意味深長な行動も不明なのだ。
――もう、激おこぷんぷんまるですっ。
――貴仁の妹さんって、剣山恩……?
それに、礼井野伊代における、ボクの妹問題も未解明だ。
――私、筑波実輝がこの部門のリーダー、で…………
ボクたちのグループの代表、筑波さんだって今頃はせかせか働いているだろう。つまりボクという一構成員が欠けてしまえば仕事は確実に文化祭当日までに完了しないだろう。
ボクが今死んだら、かなりな影響を三次元に及ぼすことになろう。
つまり、ここで自分から死ねば、ここで自分を殺せば、世界の方程式を歪めることになるのではないだろうか?
人間界における方程式に改ざんを加えているに等しいのではないか?
まあ、今の持論は完全に『彼の授業』から得た知識を基にしてのものだが。
『どうやら、生きるか否か――死ぬか否かは決まったようだな、じゃあさよならだ』
「………――――」
死ぬという選択肢は、実は間違っていたといっても過言ではないのかもしれない。
ボクは遅まきながら、その解等に気付き、そして正解に辿り着いた、そんな気がした。
人間は勉強する――生きる為に。
人間は生きる――勉強する為に。
それが正しい解なのだろう――
『「生きて、生き続けなければならない」』




