【第三問】色欲は吐き気がする程キモすぎる。(Part 4)
◆ ◆ ◆ ◆
やがて、悪夢から音そのものが消えていき――
「……ここは、何処だ?」
ボクは倒れ伏せていた――それも謎の世界で、白色不透明な世界で。
慌てふためき、とりあえずボクは起立して周囲を見渡す――が、
「……………………」
全方位を見渡しても、三次元的に視認できるものが見当たらなかった。
本当に真っ白で、何もかも消えた――『死んだような世界』である。
「――全く困ったなぁ…………」
どうしてこんな思慮判別もつかないような世界に飛ばされてるんだよ。
そもそも根本的な原因って、確か喜入じゃなかったか? ボクはあいつから愛の告白ならぬ死の告白を唐突に受けて、勢いよくボクの首を絞められて…………
で? それで? それでそれで?
「もしかして、ここって、死後の世界、なんじゃ……?」
頭に一つの可能性が浮上した。
人間界という現実で死に至ったから、こんな意味不明な場所に辿り着いた、そう考えるのが最もだろう。でも、死後の世界って本当に実在するのか? これから三途の川で石積みしたり、八大地獄とかで焼かれたり、そんな毎日が待っているのだろうか? きっと。
そうか、死んだのか――やっと死ねたのか――
漸く、三次元の縛りから、解放されるのか――
男子というしがらみから、解脱できるのか――
女子というしがらみから、解脱できるのか――
「…………」
正直のところボクはこの世界に来れたことを、嬉しく思っている。
人生で何度も何度も、痛みを味合わずに死ねればいいな、って思ったことがあるのだから、そう思ってしまうのも無理はない、そんな自己肯定ができる。
それにしても、
「しっかし、これっていつになったらここから出られるんだ?」
過去に調べてみたことがある――閻魔大王様という死者を天国行きor地獄行きにするかを審判する怪物がいるらしい。つまりはそれの出現を待っていればいいのだろうか? というか、この死後の世界に時間という人間的概念は存在するんだろうか?
色々考えても、さっぱり分からない。
「はぁあ、まだまだ勉強不足だな、ボク」
勉強が足りていないし、あの人に勝つまでは勉強不足は一生解消されないだろう。
『ここは「生と死の狭間」の世界――天国でも地獄でもない、ゼロの世界』
色々な思案に耽っていると、まるで間接的にそんな声が聞こえた。
厨二病の人が普段耳にしているような、謎の心の声とか、天使&悪魔の囁きとか、そういうような感じの、現実ではあり得ないような声と表現するのが最も近いかもしれない。
そして、彼の声は、何処かで聞き覚えのあるものであった――不思議なことに。
『何だよ、お前。そんな惚けた面をして。馬鹿じゃねーの?』
「…………っ!」
再び得体の知れない音声が脳に響く――耳という器官にではなく、直截大脳に。
…………本当に幻聴、だろうか?
『何か言わねーのかよ、このクソタワケ者が』
再び彼は発言した。
この音声の正体は? 何々だよ、これは?
考えても、やはり解らなかった。
勉強不足が顕著に目立ってしまう――
ボクは数分間黙って、先ずは状況の整理を脳内で行おうと試みる。
ここが死後の世界であるという可能性、意味不明な幻聴……――
『何だお前、この期に及んで何を考えてるんだ?』
「……何々だ、お、お前は……? それに、ここは何処なんだ……?」
と、恐れつつ彼に直截的に聞いてみた――声を出して問うてみた。
『ここは「生と死の狭間」だって、さっきそう言っただろ?』
すると、案の定、答えが間接的に聞こえてきた。
『生と死の狭間』? どういうことだ、それは?
いや、ここは死後の世界じゃないのか? だって……
「だって、ボクって、死んだんじゃなか――」
『だーかーらー、ここは「生と死の狭間」だっつーの。お前は本当に頭脳が酷いな。日本語も解釈できねーとか、人間について理解できねーとか、まだまだ勉強不足だ』
「!」
ボクは何も言い返せなかった。
他人から自身が勉強不足だと指摘されたことなどなかったし、むしろ周囲よりもかなり高い頭脳を持っていたから、そんなことを第三者から言われるとは思っていなかったから――――ではない。
どうしてボクが何も言えない状況に陥ったのかは、こうである。
「……狭間? いやでも、だからボクは確実に死んだはずじゃあ――」
そう信じていたから、先程言葉を失ったのだ。
『いや残念だが、死んでねーよ。それが現状、現実、真実、事実、ノンフィクション』
「し、死んでない? それって……」
いや、それはおかしいだろう――ボクは喜入宵によって、間違いなく殺されたはずだ。
あの人間共が存在する三次元から、消えてなくなったはずなのだ。
『生と死の狭間――つまりは生きているし死んでいるということだ』
「……生きているし、死んでいるかもしれない?」
そんな非現実的なことが、果たしてあり得るのか?
永遠に行き続けて死に続ける、ということになるのか?
ボクという生物の定義がいくらなんでも曖昧すぎないか?
『安心しろ。お前は――』
「ボクは――?」
彼は言いかけて止めた。
「ボクが一体何だって、言うんだ……?」
『お前はお前で、俺は俺だ』
「……は、はい?」
突然意味不明なことを言われてしまった。
ボクがボクで、彼が彼……
うーん、やっぱり何がどうなのか分からない。
ボクとは何で、何者で――彼とは何で、何者なのだ?
『まあその話は現実世界の女子共にでも聞け』
「女子共、か……」
そんな風に『女子』と呼称するということは、恐らくボクの何かなのだろう。
だが、それが一体全体何なのだか、考えるのはほぼ不可能とも言える。
完全に行き詰ってしまった。
これから先、何をどうすれば物語が進むのか?
どう行動するのが正しくて、どうやったら次の問題に取り掛かることができるのか?
やはり、勉強が足りない。足りなさすぎる。連立高校第二学年、学力第二位で満足して、願わくば『打倒、喜入宵』程度しか思っていなかった、ボクの弱さや甘さが垣間見える。
本当に、お恥ずかしい限りだ――自分という物語の主人公にすらなれないくらい、馬鹿馬鹿しい程に脆弱で、間抜けで、アホだ――そんな、ボクなのだ。
「ま、死んでしまえば勉強も、弱さ自体も、ゼロになるだろうけど」
『何を言ってるんだ、このクズ人間野郎。いいからさっさと始めるぞ』
え? これから一体何が始まるんだろうか?
『あったり前だろうが。勉強だよ勉強、三次元の』
「べ、勉強? 三次元の?」
三次元――それはさっきまでボクがいた、人間の存在していい世界。座標要素が三つある、x軸・y軸・z軸からなる、ボクたち人間を構成する空間。でも、ゼロ次元とは一体全体どんな世界なのだろうか……、それもまた、ボクが事前に勉強してこなかった部分でもある。
もしかして、ボクが今後どうあるべきか、それをこの謎めいた存在の彼が審判してくれるということで、合っているのだろうか。つまり、今から、この『生と死の狭間』から抜け出す為に、生か死かを選択するということか。
なるほど、じゃあもう決まっている――死ぬしかないとそう決まっている。
せっかく喜入に殺されたんだ。このチャンスを逃す訳にはいかないだろう。
もう三次元に用はないのだから、いる必要も、ある必要も、ボクにはない。
じゃあこれから――どんなゼロ次元世界での生活が待っているのだろうか。
そんな感じで、異常的且つ狂気的精神を持つボクは――楽しみにしていた。




