【第三問】色欲は吐き気がする程キモすぎる。(Part 3.5)
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気付けばボクは見たくもないような悪夢を見ていた。
「…………」
剣山家の一室に、まるでボクに似た姿の彼がいて、
何やら右手には場にそぐわない鋭利な凶器を持ち、
そして、彼は『遺書』と書かれた白い封筒を置き、
『さようなら、人間ども――女子ども』
小さくそう言ながら、彼はそれを使って自身の首をすぱっ、と躊躇いなく切った。
するとどうなるだろうか、誰でも容易に想像できよう。
超大量出血して、そのまま彼はその場にばたんっと倒れる。
周囲の家具も真っ赤に染まる――――真っ黒に染まる。
グロテスクで、この世で最も酷な画である――閲覧注意級の悪夢でさえある。
いや、これは悪夢ではなく、ボクという人間の過去で、そして現実とも言える。
「でも、これは決して水に流せない、由緒正しい過去――って、あれ……?」
今度は視界が突然明るくなり、色のない真っ白な世界に変貌した。
すると、
『――お兄ちゃん、お兄ちゃん……、お兄ちゃん! おにぃ……』
と、妹の声、救急車の迫ってくる音がする。
どうやら彼女は目の前で瀕死状態になっている彼が、消えて亡くならないように、必死に彼の意識を呼び戻そうとしているようだった。
そして、いくら視界が白く染まっていようと、その有様をボクは想像できた。
否、想像ではなく、もしかしたら想起の方が正しいかもしれない。
「…………」
だって、そこにいる彼こそが、どうしようもない程に、紛れもなく昔のボクなのだから。
ボクは一度だけ、本当にたった一度だけ――自殺した。
正しく言えば、自分は自分に殺された――
否、あの女子――――安城蓮に殺された。
そして、その場で直ちに死んだ――はずだったのだが、
死んでいなかった。見事に、盛大に、自殺に失敗した。
去年の12月27日、ボクはボク自身を殺そうとしたが、
結局殺せなかった。ボクという人間は、決して死んでいなかった。
通俗的に言えば殺人の失敗――『殺人未遂』ということになってしまうだろうが。
俄然重々しい話題に切り替わってしまい、読者諸兄に申し訳ないが、いつまでもこの過去的事実を隠している訳には、しかしいかないだろう。
だから、この悪夢はきっと、それを思い出させる為の、そんな夢だと思った。




