8.
店に入り他の客が食べている料理の匂いがライフを刺激したのか、大きな腹の虫が鳴いた。ライフは顔を真っ赤にして俯いたが、後ろの3人が笑いをこらえきれなかった声が聞こえて涙目になって後ろを振り向いて睨んだ。そして、席に案内された4人はマイとネルケ、ハンとライフが隣同士に座って、それぞれ注文をして食べることにした。
ーガツガツムシャムシャガツガツムシャムシャ…ー
「よく食べるのね、ライフって。料理が机に乗りきらないみたいよ?店員さんたちも、さっきからこっちみてタイミングとか図ってるみたいだし。」
「ライフだけじゃないだろ。机のそっち半分はネルケの分だろ、てか食べないのかよ、お前?あんなにパフェが食いたいって言ってたじゃねぇか。」
「そうだったんだけど、この2人を見ると…ね…。そういうあんたもじゃないの?」
「まぁな…。 こいつらみてると食欲が無くなるっていうか、見てるだけで腹がいっぱいになる。」
2人が話している間にも食べ続けて、空になった皿がライフとネルケの隣に積み上がっていく。料理が減ってくるとまだ出していない料理を店員が持ってきて、さらに食べるというループが出来はじめてきた。
しかも、2人とも食べるのがとても早く、手をつけ始めたと思ったらすぐに完食してしまうのだ。おかげで先程から厨房も慌ただしく動いており、少々申し訳なく思ってしまう。(だが、当の本人たちはそんなこと全く気にも止めていないようだ。)
「ネルケはまあ分かってたんだけど、ライフはこれが普通なのかな?それとも、今回はめちゃくちゃお腹が減ってただけか、ハンはどっちだと思う?」
「知らねーけど、俺は後者を望む。 …てか、こんなに食ってるけど金って足りんのかよ?どうみてもライフは手持ちないだろ。」
「大丈夫でしょ。ネルケはいつも通りの量みたいだからなんとかなるだろうし、さっき貰った報酬もあるから問題ないって! …多分。」
昔から大食いとしてギルド内で有名だったネルケの食費のために、彼女と共に仕事をする者たちは一般的な食費より2~3倍くらい見積もってお金を引き出すようにしている。そのためネルケの方の代金はあまり気にすることはない。
しかし、それほど食べないだろうと思っていたライフがここまで食べるとは、予想外だった。依頼場所に向かっている最中に拾った(?)ために、当たり前だがライフの分のお金は用意していない。
とはいえ、今回の依頼の報酬は何の問題もなく無事に終わったために、このメンバーでは珍しくカットなしで貰っているので懐には結構な余裕がある。だが、2人がここまで食べるとなると…
「結局手元に残るのはいつもぐらい減った金額かもな…。」
「そうだね…。 確実に報酬の半分以上はとんでいくだろう量だもんね。」
はぁ、とため息をつく2人は少し涙目になり、この光景から視線を外すため窓の外に目をやった。ハンとマイが頼んだ全く手をつけていない料理は、恐らくライフかネルケのどちらかが食べるだろうから問題ないだろうし、もし食べていなくとも後で食べればいいだろうと頭の片隅においておいた。
そんなことを思っている最中にネルケがさっさと食べていたのはそれから10分後の、ライフとネルケが頼んだ分を完食して、更にネルケが追加でデザートを注文しようとしていた時だった。